落ちこぼれ貴族は召喚した賢者に愛されています

もやしいため

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第二章:賢者の証明

闘技場にて

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 一縷の望みを託した『学比べ』も空振りに終わりました。
 魔法士の競い合いなのですから、知識で対抗すれば……いえ、ヴェルターはこちらに着たばかりでした。
 わたしが掃除している間にも「書架から適当に入門書を持ってきて欲しい」と言われましたしね……。

 場所の移動といっても、どうせ気軽に暴れられる場所なんて王都の中ではそうそうありません。
 警備兵や騎士の宿舎にいきなり貴族が顔を出すわけにもいきませんし、何よりそこでの噂が広がるのも困ります。
 極秘裏に、となれば所有する邸宅でとなりますが……暴れることを考えると周りに被害が出かねません。
 というわけで、結局やってきたのはヴェルターが望んだガーディエル魔法学園です。
 何もかも彼の思惑通りに進んでいるようですごくモヤモヤします。

「都市の主要施設からさほど遠くなく、遊びや視察に行きやすい場所に作られているね」

「分かるのですか?」

「少しはね。学生相手にこの土地を与えるのならば、この国は随分と豊かなのだろう」

「王都は研究機関も隣接していますので特別ですが、王家が学問に力を入れているのです」

「平和な時代に力を溜めるとはなんとも先見性がある権力者だ」

「そう言っていただけると支えているわたしたちも鼻が高いです」

「ヴァルプルギス家が魔法士の家系なら、過去に国に貢献した識者も多く居るのだろうね」

「ヴェルター、わたしは家名を名乗るのを禁止されています……」

「ふむ……見放された、ところだね。もしかして『許婚』も伏せているのかな?」

「はい。アミルカーレ様にも迷惑が掛かりますので……」

「彼は自ら言い出したがね?」

「えぇ、ですのでわたしも戸惑って――」

「おい、雑談していないで早く行くぞ」

 歩きながら雑談するわたしたちに向け、明らかに不機嫌そうな声を投げてアミルカーレ様は割って入ってきます。
 うぅ……何が彼をそうさせるのでしょうか?

 教務課に訓練施設の使用許可を貰いに行く間に仲良くなってくれないかしら。
 ……そうだ、わたしが行けばこの空気からも! よし、そうしましょう!
 決して逃げるわけではありませんからね!

「わたしが教務課へ……」

「俺の名前で申請は済ませました。ティアナ様のためにも非公開にしてありますよ」

「あ、ありがとうございます……」

 やはりできる殿方ですね…先手を打たれていました。
 アミルカーレ様はいつの間に従者に連絡を入れていたのでしょうか。

「貴族同士のいさかいを周囲に見せるのはあまり良くないことだからね」

「ティアナ様と俺は争っているわけではない。単に貴様が信用できないだけだ」

 ぷいっと改めて前を向いて先導するアミルカーレ様は、終始ヴェルター睨んでいるように見えました。
 ふえぇぇ……バチバチとやりあうのはやめてくださいぃぃ……。
 わたしがそんな視線に晒されたら気落ちくらいするのに、ヴェルターは何故こんなに微笑ましいものを見るような優しい顔をしているのでしょう?
 うーんと首を傾げながらとことこと許婚の後ろを歩いていくと、急激に視界が開けました。

 わたしたちがたどり着いたのは丸屋根ドームに囲われた建物の中。
 広々としているように見えて、実はここ意外と狭いんですよね。

「空間を拡張した上に壁面に防護結界が張られているとはすばらしい設備ですね」

「……一目で見抜くとはなかなかだな」

「おや、実力を認めしんようしてくださいますか?」

「まさか。何のためにここまで来たと思っている」

「そこなんですが、どういった証明を求められています?」

「どういった……? 魔法士の競い合いと言えば決闘デュエルに決まっているだろう!」

 ヴェルターはそんなことも知らずに答えたのですか。
 いや、わたしも『的当て』とかなら良いなーって思ってたのですけれどね。

「危なくありませんか?」

 少し間を置いてヴェルターが答えました。
 危ないです! 間違いなく!
 けれどアミルカーレ様が腰の剣に手を乗せてまくし立てるように「いまさら怖気づいたのか!」なんて煽ってきます。
 何なのでしょう…どっちもどっち、とでも言えばいいのでしょうか?

「いえ、特には。ティリアもここで訓練を?」

「えっと、わたしは……」

「ここでは残存魔力の過多を競い合う。先に枯渇した方が敗者となり、制限時間内で終わらなければ多い方を勝者としている」

「魔力の削り合いですか。それなら温存している方が勝ちそうなものですが」

「目の付け所は良いが、そうも言っていられない。
 攻撃を受ければ、そのダメージ分だけ魔力を奪われる仕組みになっているからな」

「魔法に限らず?」

「当然だ。剣でも弓でも当たれば魔力を失う。代わりに攻撃の際には必ず魔力が必要になるが」

「魔力を通さない攻撃は?」

「ダメージと認められない」

「いえ、負傷はどうなるのでしょうか?」

「だから、ダメージにならないと言っているだろう」

「……なるほど、となれば参加するには魔力が必須で、無くなれば弾き出されるといったところですね」

 ちらりとヴェルターが魔法の使えないわたしを見る。
 小さく頷いて認めますが、その『部外者を見るような目』にはいまだに慣れません。

「成績はこの競い合いも考慮されるのかい?」

「え? えぇ……参加できれば、ですが」

「ティアナはここに立ったことが無いのかな?」

「魔法が使えませんから意味が無いんです」

「そう消沈することはないよ。せっかくだからこっちにおいで」

「はい……え?」

 思わず頷いたわたしはすぐに顔を上げました。
 目に移るのはすたすたと前を歩くヴェルターの背だけで、わたしへの配慮なんてこれっぽっちもありません。
 ただ彼の背が「早くおいで」と言っているように思え、小走りで追いかけました。
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