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第三章:賢者の試行錯誤
魔法講義と山登り2
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「魔力の有無は運だと説明したが、それは確かに才能とも言い換えられるだろうね」
必死に斜面を登るわたしの背後で講義は続きます。
わたしが道を見失わないように、ヴェルターが目の前に生い茂る草木を割って簡易的な道を作ってくれます。
けれど舗装まではしてくれず、フワフワする地面を歩くのは思っていたよりも体力を使います。
それに注意して足を出さないと、踏みしめた地面が滑ったり沈んだりして転びかねません。
というか、既に何度かヴェルターに支えられています。
その度に「全身に気を遣っていない証拠ですよ」とたしなめられる始末……。
講義を聞いて理解や返事をしながら全身を気遣うなんて曲芸じみたことを誰ができるわけが……。
いえ、まさに後ろに居る賢者が、会話どころか講義しながら本を読みつつ、ちょくちょく転びそうになるわたしを支えながらペースの管理までしていました。
それも休憩もなしに道なき道を延々と登り続けてもう結構経つはずですよ……あの賢者は化け物ですか。
わたしは一定の速度で登っているつもりなのに、今もまた「遅くなってきているよ」と急かされます。
挙句「そろそろ講義を切り上げて帰ろうか?」なんて理不尽な問い掛けまで……わたしはすぐに「まだやれます!」と継続を訴えますけれどね!
わたしには時間がない……藁にも縋る思いで足を踏み出す度に「はっ、はっ!」と上がる息に危機感を募らせていく。
たぶん、これが最後のチャンスです。
絶対に手放せないのと同様に、どうしてこう彼とわたしで差がつくのか、なんてぐるぐると答えの出ない思いが思考の大半を埋めつつありました。
「ティアナは残念ながらその才能を持ち得なかったが、実は魔力を増やす方法はいくつもある」
「え!? 教えてください!!」
「ふふ、それが今やっている『運動』だ」
「えぇ……?」
「疑うのかい? 構わないけれどね」
そんな簡単なことでいいのか、と驚いているだけで、疑っているわけではありません。
ですが、それで長年の悩みが解消できると言われては何だか拍子抜けしてしまいません?
「魔法とは、魔力を手順に沿って加工した先にある結果のことだ。
学園に入る学生は元来多くの魔力を持っているため、単に『手順』を説明するだけで魔法を使用できてしまう。
こうして教師陣も『魔力量』という確かめ難い試験で排除し続けるため、当然魔力が足りない者はいくら努力しても魔法を使えない」
「う……ヴェルターはわたしをいじめてばかりです」
「そういうわけではないんだけれど、魔力を持っていることが前提の学園で教えられるのは、構築式だけだということだね」
余りにも厳しい現実を突きつけられます。
いえ、今までさんざん味わった現実を、明確に心に落ちるように説明されただけとも言えますが。
それでも口の中が乾いていくような絶望的な思いが身体を支配していき、わたしは「で、では……?」と問いにならない問いが口から洩れました。
「はははっ、だが魔力を使うと虚脱感に襲われるというはもう知っているね?」
ついさっき経験したばかりです。
あのつらさは頻繁に体験したいものではありませんね……。
わたしは「はい」と返答して止まりかけていた足を前に出し、ザクザクと足元の草木を踏み分けて進みます。
「では魔力を使えば何故虚脱感を持つのだろう?」
「……疲れるからでは?」
「惜しいなぁ。虚脱感。そう、『虚脱感』だよティアナ。何故、魔力を消費して、肉体疲労で反映されるのか、が鍵だ」
「えっ?」
「肉体と魔力は密接に絡み合っている。
いや、むしろ肉体は魔力の補助によって支えられている。
ティアナ、君も口にしただろう? 魔力は『世界に溢れる力の総称』だと」
「まさか……」
「そう、そのまさかだ。人々は無意識に魔力を利用して生きている。
元々魔力を持つ者は、その力を肉体の操作だけでなく、取り出して他のことにも利用できるだけなのだよ」
わたしはありもしない希望に縋っていたわけではありませんでした。
きちんとした理由があり、ヴェルターはそれを順序立てて説明してくれ、的確な習得方法を教えてくれている。
一言交わすごとにその思いを噛みしめ、次に来る未来予想に「じゃ、じゃあ……」と声にならない声を上げてしまう。
「私はティアナが賢明で助かるよ。
講義や説明に『教える楽しみ』は抱くけれど、理解者が居なくては疲れるだけだからね。
さて、ティアナが予想している通りの答えだ。どれほど保有量が少なくとも、肉体的な向上に比例して魔力量は増えていくことになる」
「筋肉は正義!?」
「あははっ、ティアナは楽しい子だな」
楽し気に笑うヴェルターは、疲れを見せ始めたわたしに的確な報酬をぶら下げました。
待ち望み、方法を探し続けた先がようやく見えたのです。
頑張らないわけにはいきません!
こうしてわたしのテンションは留まるところを知らず、ヴェルターが止めに入るまで延々と山道を登り続けました。
必死に斜面を登るわたしの背後で講義は続きます。
わたしが道を見失わないように、ヴェルターが目の前に生い茂る草木を割って簡易的な道を作ってくれます。
けれど舗装まではしてくれず、フワフワする地面を歩くのは思っていたよりも体力を使います。
それに注意して足を出さないと、踏みしめた地面が滑ったり沈んだりして転びかねません。
というか、既に何度かヴェルターに支えられています。
その度に「全身に気を遣っていない証拠ですよ」とたしなめられる始末……。
講義を聞いて理解や返事をしながら全身を気遣うなんて曲芸じみたことを誰ができるわけが……。
いえ、まさに後ろに居る賢者が、会話どころか講義しながら本を読みつつ、ちょくちょく転びそうになるわたしを支えながらペースの管理までしていました。
それも休憩もなしに道なき道を延々と登り続けてもう結構経つはずですよ……あの賢者は化け物ですか。
わたしは一定の速度で登っているつもりなのに、今もまた「遅くなってきているよ」と急かされます。
挙句「そろそろ講義を切り上げて帰ろうか?」なんて理不尽な問い掛けまで……わたしはすぐに「まだやれます!」と継続を訴えますけれどね!
わたしには時間がない……藁にも縋る思いで足を踏み出す度に「はっ、はっ!」と上がる息に危機感を募らせていく。
たぶん、これが最後のチャンスです。
絶対に手放せないのと同様に、どうしてこう彼とわたしで差がつくのか、なんてぐるぐると答えの出ない思いが思考の大半を埋めつつありました。
「ティアナは残念ながらその才能を持ち得なかったが、実は魔力を増やす方法はいくつもある」
「え!? 教えてください!!」
「ふふ、それが今やっている『運動』だ」
「えぇ……?」
「疑うのかい? 構わないけれどね」
そんな簡単なことでいいのか、と驚いているだけで、疑っているわけではありません。
ですが、それで長年の悩みが解消できると言われては何だか拍子抜けしてしまいません?
「魔法とは、魔力を手順に沿って加工した先にある結果のことだ。
学園に入る学生は元来多くの魔力を持っているため、単に『手順』を説明するだけで魔法を使用できてしまう。
こうして教師陣も『魔力量』という確かめ難い試験で排除し続けるため、当然魔力が足りない者はいくら努力しても魔法を使えない」
「う……ヴェルターはわたしをいじめてばかりです」
「そういうわけではないんだけれど、魔力を持っていることが前提の学園で教えられるのは、構築式だけだということだね」
余りにも厳しい現実を突きつけられます。
いえ、今までさんざん味わった現実を、明確に心に落ちるように説明されただけとも言えますが。
それでも口の中が乾いていくような絶望的な思いが身体を支配していき、わたしは「で、では……?」と問いにならない問いが口から洩れました。
「はははっ、だが魔力を使うと虚脱感に襲われるというはもう知っているね?」
ついさっき経験したばかりです。
あのつらさは頻繁に体験したいものではありませんね……。
わたしは「はい」と返答して止まりかけていた足を前に出し、ザクザクと足元の草木を踏み分けて進みます。
「では魔力を使えば何故虚脱感を持つのだろう?」
「……疲れるからでは?」
「惜しいなぁ。虚脱感。そう、『虚脱感』だよティアナ。何故、魔力を消費して、肉体疲労で反映されるのか、が鍵だ」
「えっ?」
「肉体と魔力は密接に絡み合っている。
いや、むしろ肉体は魔力の補助によって支えられている。
ティアナ、君も口にしただろう? 魔力は『世界に溢れる力の総称』だと」
「まさか……」
「そう、そのまさかだ。人々は無意識に魔力を利用して生きている。
元々魔力を持つ者は、その力を肉体の操作だけでなく、取り出して他のことにも利用できるだけなのだよ」
わたしはありもしない希望に縋っていたわけではありませんでした。
きちんとした理由があり、ヴェルターはそれを順序立てて説明してくれ、的確な習得方法を教えてくれている。
一言交わすごとにその思いを噛みしめ、次に来る未来予想に「じゃ、じゃあ……」と声にならない声を上げてしまう。
「私はティアナが賢明で助かるよ。
講義や説明に『教える楽しみ』は抱くけれど、理解者が居なくては疲れるだけだからね。
さて、ティアナが予想している通りの答えだ。どれほど保有量が少なくとも、肉体的な向上に比例して魔力量は増えていくことになる」
「筋肉は正義!?」
「あははっ、ティアナは楽しい子だな」
楽し気に笑うヴェルターは、疲れを見せ始めたわたしに的確な報酬をぶら下げました。
待ち望み、方法を探し続けた先がようやく見えたのです。
頑張らないわけにはいきません!
こうしてわたしのテンションは留まるところを知らず、ヴェルターが止めに入るまで延々と山道を登り続けました。
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