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第三章:賢者の試行錯誤
賢者の配慮
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行きは易し、帰りは難し。
そんな言葉を思わず使ってしまいそうになる帰り道。
「ヴェルターすみません……」
「いや、ティアナがどれほど動けるか知りたくて止めなかった私が悪かったよ」
「ですが……」
「どんな世界であれ、子供がそこまで強靭なはずもないからね。単純に私の失念が招いた結果さ」
わたしは消えりそうな声で「はい……」と答えます。
じっとりと汗の滲んだ不快な身体を、ヴェルターは特に気にせず背負ってくれています。
力の入らない人ってとても重いはずなのに、ちっとも不安定さを感じることがありません。
これが身体に宿る魔力の力ですか?
やはり筋肉は正義というわけですね。
「少し暗くなってきたね。そういえば私は何処で夜を過ごせばいいだろうか?」
「今朝の借家を好きに使ってもらって構いません」
「それはありがたいね。ティアナは寮に戻るのかな?」
「……一緒に居てはいけませんか?」
「いや、私より君の都合を優先すべきじゃないかな。
私はこの世界の住人ではない。どうなっても最悪戻れば済むからね」
わたしがどうしたいか、ですか。
それなら答えは決まっています。
「ではヴェルターと一緒にわたしも借家に行きます」
「そうか、ならば私も力を尽くすとしよう」
「何かあるのですか?」
「ふふっ、まずは君の身体を気遣うところから始めようか」
身体の奥にズーンとオモリを置かれていたような疲れが、ほんわかと和らいだ気がします。
いったい何をしたのでしょうか?
あ、そうか……仮想戦場から追い出された後みたいに治癒するような魔法を掛けてくれているのですね。
ゆっくりと解されていくような心地よさを感じながらの下山……。
わたしはヴェルターの背に乗せられているだけなんですけれどね。
「しかし十二歳で二時間近くも山を登れるかね?
二十分ほどで音を上げると予想していたのに、ティアナは随分と私の予想を外してくれたよ」
「え゛……では何度も訊かれた『帰ろうか』って本心から……?」
「何を言っているのかな? 魔力で支えられても居ない身体では十分足らずでもかなりの運動量のはずなのだが……」
ちょっと待ってください!?
まさかわたしの努力は無駄……あ、ヴェルターが感心してるのでではありませんね!
ですが、脅されていると思っていた言葉は、すべて優しさだったわけですね?!
何て勘違いをしていたのでしょう……これは絶対に口に出せませんよ!
「が、頑張りました!」
「だとしてもやりすぎだよ。魔力欠乏の症状が出ているからね」
「あぁ……たしかにだるくて身体を持ち上げられませんからね……」
「ちなみに肉体的な運用だけでそこまでになるのはある意味才能だよ」
「魔法も使えないのに……」
「いや、この場合は『ティアナの魔力運用効率が高すぎる』と考えた方が良いだろうね」
「魔力の効率?」
問い返したわたしの声に反応する様子はありません。
むしろ一段と進む速度を増したような気さえします。
あのヴェルターが聞き逃した?
まだ一日と経っていませんが、何かおかしい。
背負われているから耳元だったはずなのに……。
「ところでティアナ、今日戦ったみたいにあの舞台を使える機会はあるのかな?」
「申請すれば可能ですが、ヴェルターが使うのですか?」
「いいや。私が相手をしてもいいけれど、できれば対戦相手が欲しいね。
だけどアミルカーレ様も外しておこう。彼は学生内でも別格なのだろう?」
「ヴェルターを何度も感心させるほどですからね。となると……」
知識はあっても魔法がからっきしのわたしは、試験秀才とからかわれる特異な存在です。
これでも成績上位者なんですけど、やっぱりゼロ点の科目があると主席にはなれません。
こんな両極端な成績のせいで魔法実技は下級生と、勉強は上級生と一緒なので、余り友人と言える人も居ないんですよね……。
うぅ……やっぱりわたしってばぜんぜん人脈作れてないですよね。
「そこでひとつ当てがある」
「ヴェルターに?」
「タイミングがいいことに、今は『仮面魔闘会予選』が開催されていたはずだ」
「……何故そんなことを?」
「あちこちに立て看板があって、ご丁寧にカウントダウンもしているよ。
何とその情報によると成績・実績不問。顔を含む情報を隠しての飛び入り参加まで許されているようだしね」
それに出ろ、と?
舞台はたしか仮想戦場だったと記憶していますが、わたしはわずか二十秒ほどで追い出されてしまうのですよ?
しかも疲労困憊でぐったりした状態で……というか予選の開催日って明日じゃなかったです?
そんなわたしの心情を読んだのか、ヴェルターは視線を向けて
「だから今夜は秘策を授けよう。覚悟は必要だけどね?」
と囁きました。
そんな言葉を思わず使ってしまいそうになる帰り道。
「ヴェルターすみません……」
「いや、ティアナがどれほど動けるか知りたくて止めなかった私が悪かったよ」
「ですが……」
「どんな世界であれ、子供がそこまで強靭なはずもないからね。単純に私の失念が招いた結果さ」
わたしは消えりそうな声で「はい……」と答えます。
じっとりと汗の滲んだ不快な身体を、ヴェルターは特に気にせず背負ってくれています。
力の入らない人ってとても重いはずなのに、ちっとも不安定さを感じることがありません。
これが身体に宿る魔力の力ですか?
やはり筋肉は正義というわけですね。
「少し暗くなってきたね。そういえば私は何処で夜を過ごせばいいだろうか?」
「今朝の借家を好きに使ってもらって構いません」
「それはありがたいね。ティアナは寮に戻るのかな?」
「……一緒に居てはいけませんか?」
「いや、私より君の都合を優先すべきじゃないかな。
私はこの世界の住人ではない。どうなっても最悪戻れば済むからね」
わたしがどうしたいか、ですか。
それなら答えは決まっています。
「ではヴェルターと一緒にわたしも借家に行きます」
「そうか、ならば私も力を尽くすとしよう」
「何かあるのですか?」
「ふふっ、まずは君の身体を気遣うところから始めようか」
身体の奥にズーンとオモリを置かれていたような疲れが、ほんわかと和らいだ気がします。
いったい何をしたのでしょうか?
あ、そうか……仮想戦場から追い出された後みたいに治癒するような魔法を掛けてくれているのですね。
ゆっくりと解されていくような心地よさを感じながらの下山……。
わたしはヴェルターの背に乗せられているだけなんですけれどね。
「しかし十二歳で二時間近くも山を登れるかね?
二十分ほどで音を上げると予想していたのに、ティアナは随分と私の予想を外してくれたよ」
「え゛……では何度も訊かれた『帰ろうか』って本心から……?」
「何を言っているのかな? 魔力で支えられても居ない身体では十分足らずでもかなりの運動量のはずなのだが……」
ちょっと待ってください!?
まさかわたしの努力は無駄……あ、ヴェルターが感心してるのでではありませんね!
ですが、脅されていると思っていた言葉は、すべて優しさだったわけですね?!
何て勘違いをしていたのでしょう……これは絶対に口に出せませんよ!
「が、頑張りました!」
「だとしてもやりすぎだよ。魔力欠乏の症状が出ているからね」
「あぁ……たしかにだるくて身体を持ち上げられませんからね……」
「ちなみに肉体的な運用だけでそこまでになるのはある意味才能だよ」
「魔法も使えないのに……」
「いや、この場合は『ティアナの魔力運用効率が高すぎる』と考えた方が良いだろうね」
「魔力の効率?」
問い返したわたしの声に反応する様子はありません。
むしろ一段と進む速度を増したような気さえします。
あのヴェルターが聞き逃した?
まだ一日と経っていませんが、何かおかしい。
背負われているから耳元だったはずなのに……。
「ところでティアナ、今日戦ったみたいにあの舞台を使える機会はあるのかな?」
「申請すれば可能ですが、ヴェルターが使うのですか?」
「いいや。私が相手をしてもいいけれど、できれば対戦相手が欲しいね。
だけどアミルカーレ様も外しておこう。彼は学生内でも別格なのだろう?」
「ヴェルターを何度も感心させるほどですからね。となると……」
知識はあっても魔法がからっきしのわたしは、試験秀才とからかわれる特異な存在です。
これでも成績上位者なんですけど、やっぱりゼロ点の科目があると主席にはなれません。
こんな両極端な成績のせいで魔法実技は下級生と、勉強は上級生と一緒なので、余り友人と言える人も居ないんですよね……。
うぅ……やっぱりわたしってばぜんぜん人脈作れてないですよね。
「そこでひとつ当てがある」
「ヴェルターに?」
「タイミングがいいことに、今は『仮面魔闘会予選』が開催されていたはずだ」
「……何故そんなことを?」
「あちこちに立て看板があって、ご丁寧にカウントダウンもしているよ。
何とその情報によると成績・実績不問。顔を含む情報を隠しての飛び入り参加まで許されているようだしね」
それに出ろ、と?
舞台はたしか仮想戦場だったと記憶していますが、わたしはわずか二十秒ほどで追い出されてしまうのですよ?
しかも疲労困憊でぐったりした状態で……というか予選の開催日って明日じゃなかったです?
そんなわたしの心情を読んだのか、ヴェルターは視線を向けて
「だから今夜は秘策を授けよう。覚悟は必要だけどね?」
と囁きました。
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