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第四章:仮面魔闘会
記憶の破片
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ガーディエル魔法学園はあくまでも猶予期間。
成人までに魔法が使えなければ、アミルカーレ様の元に嫁ぐことが決まっている。
いえ、むしろ魔法が使えてようやく嫁げるかもしれませんが……その辺りの取り決めはきちんと聞かされていません。
どちらにしても『ヴァルプルギス』を名乗ってからしか、わたしの人生は始まりません。
「体調は?」
「絶好調」
「気分は?」
「最高」
「では存分に」
「はいっ!」
ヴェルターを呼び出してから三日目。
予選を終えてからほぼ一日寝てしまったわたしは、またマフラーとゴーグルとカツラを身に着けた制服姿で控室へと向かいます。
昨日、鉛を詰め込まれたような全身の疼きが嘘のようになくなり、ヴェルターに返したように気分も体調もかつてないほど絶好調でした。
残り四日……ヴェルターとの契約期限までに魔法を使わなければなりません。
その片鱗にすら手が届いていないはずなのに、何故だか『何とかなる』と確信しています。
ヴェルターに任せておけば、なんてのは他力本願すぎると思うので、全力で彼の教えに応えていくつもりです。
そういえば勝つことに必死で、逆に何も考えていませんでしたが、魔法も使えないのに魔法士戦闘でよく勝てましたよね。
やはりヴェルターに施された術式、《神気剥奪》のお陰ですよね。
アレ、勝った後ってどうしたんでしたっけ?
…。
……。
…………ッ!!
わたしって急に現れたヴェルターに抱えられて、また急に消えたんでしたよね?!
元々この仮面魔闘会って注目されてるのに、変な名前で、こんな格好で、あんな戦闘を見せて、派手な退場までしたら……?
う゛ぇ、ヴェ、ヴェルター!?
まずいですよ! 絶対まずいですって! 目立ち方が完全に悪役ですよ!?
ちょっと魔力が増えただけなので、昨日と変わらず一発退場なのは変わらないって悲しいお墨付きを貴方からもらったばっかりですよ!
なのにこれって敵地になりません?!
――青ゲート、金獅子!
ぎゃーーー! 呼ばれちゃいました!
というこはすぐに出ないといけませんよね!?
ざわつく会場へと足を踏み出しますが、心の中はまだ嵐が収まっていません。
――赤ゲート、メイワ=メクダ!
やっぱり皆さん本名で登録しますよね!
隠さないといけないとはいえ、何て名前で登録したんですかあの賢者は!
帰ったらお仕置きですよ!! できるとは思えませんが!
相手方も呼ばれた状況でまごまごしている時間はありません。
通路の向こう側、光が差し込む会場へと足を急がせます。
明るい開けた舞台上では、すでにメイワ=メクダが待ち構えていました。
「金獅子、ねぇ……子猫の間違いじゃない?」
うん、わたしもそう思います。
なんだってヴェルターは金獅子という名前で登録したのですか。
本日二度目になる思いと共に顔を上げます。
わたしのカツラに似た赤茶の髪を揺らして挑発らしき言葉を使うのは、どう見ても十八歳以上した年上でした。
女生徒は素顔をさらしてニカっと頬を上げて笑っているのを見て、やっぱり仮面魔闘会って建前なのだと思い知らされます。
それにいくら魔法士が年齢や体格に左右されにくいと言っても、せめて同年代にすべきじゃないですかね……?
――はじめっ!!
わたしの混乱が収拾がつく前に試合は始まってしまいました。
・
・
・
実はわたしが仮面魔闘会へ参加する必要はないのです。
《神気剥奪》の術式を扱い、相手から魔力を奪えばいいだけなので、本来は協力者を探すだけで済むはずでした。
単に魔力量の多い魔法士をお金で雇えば解決しますし、本当にわたしが魔法を使えるようになるのなら家名を使って招集することも視野に入ってきます。
ヴァルプルギス家を敵に回したい人なんて居ませんからね。
けれどわたしが『他者を害しない方法』と言ったからか、ヴェルターはそんな楽な方法を強要しませんでした。
いえ、むしろ最初からヴェルターは『仮面魔闘会への参加』を提案していましたね。
たしかにいくら回復するとはいえ、『他者の魔力を引き剥がす邪法』を大々的にするわけにはいきませんからね。
それにこんな風に正々堂々と競い合いで魔力を奪える機会があるのなら利用しない手はありません。
逆にだからこそわたしは負けられず、魔力を奪える機会を逃してはいけないのですが。
「それと同時に『実戦』を体感できるのも良いね」
「あれ、仮想戦場ではカンが鈍るとかって仰っていませんでした?」
「ティアナ以外は『やり直し』が許されるからね」
「わたしに限って『一度きり』になるわけですね」
「魔力の大小も使いようというわけだね」
こうして仮面魔闘会に参加したわけですね。
あれ、参加した? 過去形なのは――
「……アナ、ティアナ。本戦が始まってしまうよ」
「ヴェルター……?」
「そう、君の賢者だよ。ところで遅刻しても相手は待ってくれるのかな?」
「遅刻……ダメですよ!?」
「では身支度を済ませて――」
もう三日も着れば、そろそろ『いつも』と言っていいでしょうか。 三日……?
いえ、それよりもマフラーとゴーグルにカツラを手早く被って用意を完了させます。
すかさずヴェルターが手を差し出してくれ、笑みと共に「向かおうか」と優しく掛けてくれた言葉に「はいっ!」と元気よく返しました。
成人までに魔法が使えなければ、アミルカーレ様の元に嫁ぐことが決まっている。
いえ、むしろ魔法が使えてようやく嫁げるかもしれませんが……その辺りの取り決めはきちんと聞かされていません。
どちらにしても『ヴァルプルギス』を名乗ってからしか、わたしの人生は始まりません。
「体調は?」
「絶好調」
「気分は?」
「最高」
「では存分に」
「はいっ!」
ヴェルターを呼び出してから三日目。
予選を終えてからほぼ一日寝てしまったわたしは、またマフラーとゴーグルとカツラを身に着けた制服姿で控室へと向かいます。
昨日、鉛を詰め込まれたような全身の疼きが嘘のようになくなり、ヴェルターに返したように気分も体調もかつてないほど絶好調でした。
残り四日……ヴェルターとの契約期限までに魔法を使わなければなりません。
その片鱗にすら手が届いていないはずなのに、何故だか『何とかなる』と確信しています。
ヴェルターに任せておけば、なんてのは他力本願すぎると思うので、全力で彼の教えに応えていくつもりです。
そういえば勝つことに必死で、逆に何も考えていませんでしたが、魔法も使えないのに魔法士戦闘でよく勝てましたよね。
やはりヴェルターに施された術式、《神気剥奪》のお陰ですよね。
アレ、勝った後ってどうしたんでしたっけ?
…。
……。
…………ッ!!
わたしって急に現れたヴェルターに抱えられて、また急に消えたんでしたよね?!
元々この仮面魔闘会って注目されてるのに、変な名前で、こんな格好で、あんな戦闘を見せて、派手な退場までしたら……?
う゛ぇ、ヴェ、ヴェルター!?
まずいですよ! 絶対まずいですって! 目立ち方が完全に悪役ですよ!?
ちょっと魔力が増えただけなので、昨日と変わらず一発退場なのは変わらないって悲しいお墨付きを貴方からもらったばっかりですよ!
なのにこれって敵地になりません?!
――青ゲート、金獅子!
ぎゃーーー! 呼ばれちゃいました!
というこはすぐに出ないといけませんよね!?
ざわつく会場へと足を踏み出しますが、心の中はまだ嵐が収まっていません。
――赤ゲート、メイワ=メクダ!
やっぱり皆さん本名で登録しますよね!
隠さないといけないとはいえ、何て名前で登録したんですかあの賢者は!
帰ったらお仕置きですよ!! できるとは思えませんが!
相手方も呼ばれた状況でまごまごしている時間はありません。
通路の向こう側、光が差し込む会場へと足を急がせます。
明るい開けた舞台上では、すでにメイワ=メクダが待ち構えていました。
「金獅子、ねぇ……子猫の間違いじゃない?」
うん、わたしもそう思います。
なんだってヴェルターは金獅子という名前で登録したのですか。
本日二度目になる思いと共に顔を上げます。
わたしのカツラに似た赤茶の髪を揺らして挑発らしき言葉を使うのは、どう見ても十八歳以上した年上でした。
女生徒は素顔をさらしてニカっと頬を上げて笑っているのを見て、やっぱり仮面魔闘会って建前なのだと思い知らされます。
それにいくら魔法士が年齢や体格に左右されにくいと言っても、せめて同年代にすべきじゃないですかね……?
――はじめっ!!
わたしの混乱が収拾がつく前に試合は始まってしまいました。
・
・
・
実はわたしが仮面魔闘会へ参加する必要はないのです。
《神気剥奪》の術式を扱い、相手から魔力を奪えばいいだけなので、本来は協力者を探すだけで済むはずでした。
単に魔力量の多い魔法士をお金で雇えば解決しますし、本当にわたしが魔法を使えるようになるのなら家名を使って招集することも視野に入ってきます。
ヴァルプルギス家を敵に回したい人なんて居ませんからね。
けれどわたしが『他者を害しない方法』と言ったからか、ヴェルターはそんな楽な方法を強要しませんでした。
いえ、むしろ最初からヴェルターは『仮面魔闘会への参加』を提案していましたね。
たしかにいくら回復するとはいえ、『他者の魔力を引き剥がす邪法』を大々的にするわけにはいきませんからね。
それにこんな風に正々堂々と競い合いで魔力を奪える機会があるのなら利用しない手はありません。
逆にだからこそわたしは負けられず、魔力を奪える機会を逃してはいけないのですが。
「それと同時に『実戦』を体感できるのも良いね」
「あれ、仮想戦場ではカンが鈍るとかって仰っていませんでした?」
「ティアナ以外は『やり直し』が許されるからね」
「わたしに限って『一度きり』になるわけですね」
「魔力の大小も使いようというわけだね」
こうして仮面魔闘会に参加したわけですね。
あれ、参加した? 過去形なのは――
「……アナ、ティアナ。本戦が始まってしまうよ」
「ヴェルター……?」
「そう、君の賢者だよ。ところで遅刻しても相手は待ってくれるのかな?」
「遅刻……ダメですよ!?」
「では身支度を済ませて――」
もう三日も着れば、そろそろ『いつも』と言っていいでしょうか。 三日……?
いえ、それよりもマフラーとゴーグルにカツラを手早く被って用意を完了させます。
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