落ちこぼれ貴族は召喚した賢者に愛されています

もやしいため

文字の大きさ
24 / 38
第四章:仮面魔闘会

記憶の破片

しおりを挟む
 ガーディエル魔法学園はあくまでも猶予期間。
 成人までに魔法が使えなければ、アミルカーレ様の元に嫁ぐことが決まっている。
 いえ、むしろ魔法が使えてようやく嫁げるかもしれませんが……その辺りの取り決めはきちんと聞かされていません。
 どちらにしても『ヴァルプルギス』を名乗ってからしか、わたしの人生は始まりません・・・・・・

「体調は?」

「絶好調」

「気分は?」

「最高」

「では存分に」

「はいっ!」

 ヴェルターを呼び出してから三日目。
 予選を終えてからほぼ一日寝てしまったわたしは、またマフラーとゴーグルとカツラを身に着けた制服姿で控室へと向かいます。
 昨日、鉛を詰め込まれたような全身の疼きが嘘のようになくなり、ヴェルターに返したように気分も体調もかつてないほど絶好調でした。

 残り四日……ヴェルターとの契約期限までに魔法を使わなければなりません。
 その片鱗にすら手が届いていないはずなのに、何故だか『何とかなる』と確信しています。
 ヴェルターに任せておけば、なんてのは他力本願すぎると思うので、全力で彼の教えに応えていくつもりです。

 そういえば勝つことに必死で、逆に何も考えていませんでしたが、魔法も使えないのに魔法士戦闘でよく勝てましたよね。
 やはりヴェルターに施された術式、《神気剥奪アグニ》のお陰ですよね。
 アレ、勝った後ってどうしたんでしたっけ?

 …。
 ……。
 …………ッ!!
 わたしって急に現れたヴェルターに抱えられて、また急に消えたんでしたよね?!
 元々この仮面魔闘会マスカレードって注目されてるのに、変な名前・・・・で、こんな格好・・・・・で、あんな戦闘・・・・・を見せて、派手な退場・・・・・までしたら……?

 う゛ぇ、ヴェ、ヴェルター!?
 まずいですよ! 絶対まずいですって! 目立ち方が完全に悪役ヒールですよ!?
 ちょっと魔力が増えただけなので、昨日と変わらず一発退場なのは変わらないって悲しいお墨付きを貴方からもらったばっかりですよ!
 なのにこれって敵地アウェーになりません?!

 ――青ゲート、金獅子きんじし

 ぎゃーーー! 呼ばれちゃいました!
 というこはすぐに出ないといけませんよね!?
 ざわつく会場へと足を踏み出しますが、心の中はまだ嵐が収まっていません。

 ――赤ゲート、メイワ=メクダ!

 やっぱり皆さん本名で登録しますよね!
 隠さないといけないとはいえ、何て名前で登録したんですかあの賢者は!
 帰ったらお仕置きですよ!! できるとは思えませんが!

 相手方も呼ばれた状況でまごまごしている時間はありません。
 通路の向こう側、光が差し込む会場へと足を急がせます。
 明るい開けた舞台上では、すでにメイワ=メクダが待ち構えていました。

金獅子きんじし、ねぇ……子猫の間違いじゃない?」

 うん、わたしもそう思います。
 なんだってヴェルターは金獅子という名前で登録したのですか。
 本日二度目になる思いと共に顔を上げます。

 わたしのカツラに似た赤茶の髪を揺らして挑発らしき言葉を使うのは、どう見ても十八歳以上せいじんした年上でした。
 女生徒は素顔をさらしてニカっと頬を上げて笑っているのを見て、やっぱり仮面魔闘会マスカレードって建前なのだと思い知らされます。
 それにいくら魔法士が年齢や体格に左右されにくいと言っても、せめて同年代にすべきじゃないですかね……?

 ――はじめっ!!

 わたしの混乱が収拾がつく前に試合は始まってしまいました。

 ・
 ・
 ・

 実はわたしが仮面魔闘会マスカレードへ参加する必要はないのです。
 《神気剥奪アグニ》の術式を扱い、相手から魔力を奪えばいいだけなので、本来は協力者を探すだけで済むはずでした。
 単に魔力量の多い魔法士をお金で雇えば解決しますし、本当にわたしが魔法を使えるようになるのなら家名を使って招集することも視野に入ってきます。
 ヴァルプルギス家を敵に回したい人なんて居ませんからね。

 けれどわたしが『他者を害しない方法』と言ったからか、ヴェルターはそんな楽な方法を強要しませんでした。
 いえ、むしろ最初からヴェルターは『仮面魔闘会マスカレードへの参加』を提案していましたね。
 たしかにいくら回復するとはいえ、『他者の魔力を引き剥がす邪法』を大々的にするわけにはいきませんからね。
 それにこんな風に正々堂々と競い合いで魔力を奪える機会があるのなら利用しない手はありません。
 逆にだからこそわたしは負けられず、魔力を奪える機会を逃してはいけないのですが。

「それと同時に『実戦』を体感できるのも良いね」

「あれ、仮想戦場ヴァーチャルウォーではカンが鈍るとかって仰っていませんでした?」

「ティアナ以外は『やり直し』が許されるからね」

「わたしに限って『一度きりじっせん』になるわけですね」

「魔力の大小も使いようというわけだね」

 こうして仮面魔闘会マスカレードに参加したわけですね。
 あれ、参加した・・? 過去形なのは――

「……アナ、ティアナ。本戦が始まってしまうよ」

「ヴェルター……?」

「そう、君の賢者だよ。ところで遅刻しても相手は待ってくれるのかな?」

「遅刻……ダメですよ!?」

「では身支度を済ませて――」

 もう三日も着れば、そろそろ『いつも』と言っていいでしょうか。 三日・・……?
 いえ、それよりもマフラーとゴーグルにカツラを手早く被って用意を完了させます。
 すかさずヴェルターが手を差し出してくれ、笑みと共に「向かおうか」と優しく掛けてくれた言葉に「はいっ!」と元気よく返しました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...