落ちこぼれ貴族は召喚した賢者に愛されています

もやしいため

文字の大きさ
30 / 38
第五章:魔法士の産声

金獅子3

しおりを挟む
 捕えようと迫る尾を見て、私を攻略するために策を弄する金獅子ティアナに笑みが漏れる。
 ……いや、これは引き裂こうとしているようなものだね。
 だが――

「逆に言えば魔力さえ伴っていれば、防御力など無視して一定量の魔力を強制的に奪われてしまうことにもなる。
 ある意味今の金獅子ティアナのような存在ですら、無傷ノーミスで打倒できる可能性を秘めた、非常に優秀な捕縛結界ともいえるわけだね?」

 元々は金獅子ティアナのような巨獣を仕留めるための場所だったのかもしれない。
 巻かれる尻尾を軽く跳んで避ければ、切り替えした金獅子ティアナの口が迫っている。
 おや……想定外に速い。
 呑み込まれてしまえば彼女が・・・大変なことになるな、と新たな《結界》で受けて後方へ飛ばされた。

 で、あれだけの速度を見せて追撃してこない?
 不思議な静止に、恭順でも見せるのかと思いきや、背後に巨体に似合うだけの大きさを誇る《火炎弾フレアバレット》が揺らめいていた。

「なるほど! 確かに金獅子まものならば魔法くらい使うかもしれない!」

 あの恐ろしいまでの獅子ライオンの再現率は彼女自身の想像力を糧に作り出した架空の魔物・・・・・だ。
 しかし発射される五発の・・・火炎弾フレアバレット》を思えば、この大会で実体験を元に覚えたものだろう。
 だとすれば何と学習能力の高いことか、と飛び交う《火炎弾フレアバレット》の射線を外して立ち回る私に笑みが浮かぶ。
 彼女の羨望かんさつがこんなところにまで及んでいるとは本当にすばらしい。

 足を止めて次に放ったのは《水球弾アクアバレット》で、これも先ほど見た魔法だね。
 ちょこまかと回避する私を捕まえるために次に用意するのは、《水牢》を使った《水封爆アクアリム》かな?
 まさか他人の魔法を見るだけで再現するだなんて誰も思わないだろうね。

「ルゥゥゥラアアアァァァ!!」

「これはまた……」

 金獅子ティアナの咆哮を合図に息を呑む光景が広がる。
 それは踏み込ませないために周囲を赤熱した地面で囲み、一方的に攻撃するために小石逆巻く暴風を扱うのかね?
 先日この場で私がアミルカーレ様との戦いで見せた第一位階の二つが再現されていた。
 ふふ……ことごとく私の予想を超えてくれる。

「しかし、その程度は私ができることでしかないね?」

「グルッ!?」

 《加熱ヒート》は《冷却フリーズ》で。《送風ブロウ》は正反対の風を当てて相殺する。
 力加減を間違えてしまうと消えないから少し面倒だけれど、驚いてもらえたなら報われるというものだね。
 肉弾戦よりも魔法戦は私も望むところなので「もっと撃ち込んできても構わないよ?」と声を掛ける。
 反応するように飛び出したのは《水球弾アクアバレット》を《冷却フリーズ》で凍らせた第四位階の中でも難しい部類に入る《氷柱舞アイスニードル》。

「グラァァァ!!」

 ぽんぽんと下位を合成して上位魔法を放ち始める金獅子ティアナの非凡さにやはり頬が緩んでしまう。
 飛来する《氷柱舞アイスニードル》を近付く端から《加熱ヒート》で丁寧に水に還していく。
 これはほんの下準備……果たして金獅子ティアナ異界の賢者ひとのちえに気付くだろうか?

 二十発ほどの《氷柱舞アイスニードル》で意味がないことを知ったのか、《火炎弾フレアバレット》に切り替えた。
 しかも揺らめく火の玉を発射しながら私へと向かってくる。
 振り下ろされる左前足を《結界》で流すと、追随するように襲い来る《火炎弾フレアバレット》が見える。
 タン、と右足を鳴らして飛び散った水を持ち上げこれも防いだ。
 魔法を常駐させながらとなると処理の一部を奪われるはずだけれど、動きに精彩を欠いていないね?

 体躯ごと振り回してきた渾身の右前足は、私の目からしてもかなりの速度だ。
 ちょうど《火炎弾フレアバレット》への対処で機を逃してしまったことだし、《結界》で受け止めようか。
 そのとき、なんとなく金獅子ティアナが笑ったような気がした。

 ――ガシャン

 絶対に壊れない強度を持っていた《結界》が砕かれた音に思わず目を見張る。
 あの巨体の直撃を受ければいくら私の魔力量でも……と横へと無理に跳んで距離を取り急造の《結界》を展開した。
 弾かれるように五メートルほども飛ばされてしまったが……

「今度は壊れていない? いや、そうかこれは――」

 《神気剥奪アグニ》か!
 ははっ、なるほど! たしかに私は君に『例外なく魔力を奪い取る術式だ』と説明したな!
 あぁ、本当に、君は! 私を楽しませてくれる!
 たしかに先のように魔法からでさえ魔力を奪えるが、それに耐えうる強靭な身体が必要なので教えさえしなかったというのに!

 唸り声を上げて止まった金獅子ティアナは、一つ目と二つ目の《結界》の差を感じているのだろうか。
 地続きの魔法なら全部吸い上げるが、ひとたび接触が離れれば《神気剥奪アグニ》が途絶えてしまう。
 二度目の《結界》が壊れなかったのはそのためだ。

 しかし。そう、しかし、だ。
 そこまで《神気剥奪アグニ》を使いこなすというのならば、認めなくてはいけない。
 高みの見物をしている場合でもなくなってしまった。

「ティアナ、君は私と『相対し得る者』になってしまった・・・・・・・ね?」

「ガァァァっ!!」

 咆哮とともに飛び掛って来る。
 《結界》を崩す目的か、差し出すのは術式を灯した右前足だった。
 励起させるのに魔力を使い、対象に触れられずに魔力が奪えなければ肉を外気に晒すかのように激痛が走るはず。

 痛みを無視して?
 いえ、感じていないのかもしれませんね。
 悪い兆候で無ければいいのですが、と振り下ろされる右前足を《結界》で防いで壊させ、すぐ下に展開した《結界》で受け止めた。

「《神気剥奪それ》は優秀な術式ですが、オン・オフが非常にデリケートなのだよ」

 聞こえているかもわからないけれど、講義を怠るのは師匠せんせいではありませんからね。
 しかしその防御も、一瞬で《神気剥奪アグニ》を励起し直せば《結界》は壊れてしまう。
 その間にするりと踏み込み、首に巻きつくマフラーへ手を伸ばし、地面へと引き倒して踏みつけた。

だから・・・君が召喚したよんだ異界の賢者ししょうは、こんなにも理不尽にすごいのだ、と教えるとしよう」

 手に施した術式に魔力が赤く・・灯す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男
ファンタジー
【通称:パイプ椅子令嬢/本編完結】 前世で病弱のまま人生を終えた少女は、異世界で辺境伯令嬢レヴィーネとして転生した。 二度目の人生で彼女が選んだ生き方は、「誰よりも強く、自由であること」。 魔法が支配する世界で、彼女が最も信頼する武器は――鍛え上げた肉体と、ドワーフ謹製の黒鋼製パイプ椅子だった。 学園での陰謀、洗脳国家、地下闘技場、鎖国する和風国家、そして大陸規模の経済と交通網。 あらゆる理不尽を前にして、レヴィーネは一切の迷いなく“物理”で道を切り拓いていく。 相棒となる元聖女アリス、実務を一手に引き受ける秘書ミリア、そして個性豊かな仲間たち。 筋肉と再生と経済――三つの力が噛み合ったとき、彼女たちの行く先は国家の枠を超えていく。 これは、悪役令嬢という役割を“ヒール”として引き受けた一人の少女が、 世界を相手にリングへ上がり続けた物語。 爽快さとスケールを両立した、長編ファンタジー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

処理中です...