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第五章:魔法士の産声
金獅子4
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手の甲に赤く灯る紋章のような模様はティアナと同じ《神気剥奪》だ。
しかし彼女よりも深く広く躯と魂に刻まれたもの……うん、この感触は久々だね。
頭を抑えると同時に発動した術式は、彼女の持つ魔力を吸い上げ私に還元していく。
「やはり奪われるのには慣れていないようだね」
流れ込んでくるティアナの魔力は、私の身体を蝕み痛みと熱をもたらす。
懐かしい感覚に目を細めながら、目に見えて動きが悪くなったじたばたと暴れる金獅子の挙動を見切る。
「大きな体躯は高い攻撃力と広い射程を有するが、もぐりこまれると実に対応がしにくい。
手足の可動範囲に制限があるからで、加えて魔力の流れを乱されてしまうと魔法や強化はまともに機能しなくなる」
今の君のようにね。
しかしそれでも動けるのは金獅子は特別製というわけかね?
もう少し検分したいけれど、余り悠長にもしていられないし――
「そろそろ詰めに入ろうか」
左手に《麻痺》を宿して鼻先を撫でると、金獅子は一瞬仰け反るように震えて地面に伏した。
思った通り、しばらく経っても起きてこれないことを確認してから右手の《神気剥奪》を解除する。
怪我や死さえも遠ざけるこの仮想戦場でも、こうした状態異常は防ぎきれない。
正確には体調への異常は順次回復するため、『効果が持続しない』とするべきかな。
一瞬でも魔法が作用するので、回復に合わせて異常状態を重ね掛けし、維持し続ければいいだけ。
また、回復するにしても肉体的損傷を伴うわけでは無いので魔力消費はかなり緩やかなはずだ。
つまり単なる時間稼ぎにしかならない。
本来ならばまったく使えない魔法となるはずだが――
「今はそれが必要だ。ティアナ、帰っておいで」
この数日間観測し続けたティアナの情報を頭に浮かべ、金獅子の右前足へ触れて《神気剥奪》へ接続する。
繋いだティアナの魔力を掌握し、彼女本来の姿を取り戻すために禁呪指定の《変質化》を解放した。
――グルルルアアアア!!
ティアナが行った《自己改変》とは違い、他者が干渉する《変質化》は、体躯に拒絶と軋みを伴わせる。
ゆっくりと縮み行くその変質は、私が施した状態異常によって動けないはずにも関わらず咆哮を上げるほどに凄絶なもの……。
元に戻るだけのはずが、どちらかといえば金獅子が本当の身体のように体感し、使いこなす完成度が恐ろしい。
体躯が三メートルを切ったところでコートを脱いで金獅子に掛けた。
踏みつけているティアナに与えた体格に合わせて伸縮するマフラーと違い、学園の制服は破れてほとんど残っていないだろうからね。
観客席のざわめきを無視して獅子の体躯のまま小さくし、コートにすっぽり覆われるくらいになってからティアナを作る。
「あ――ヴェるター?」
地面に伏していた金獅子から声が……いや、元の姿に戻ったティアナから上がる。
獅子の時と変わらぬ美しい金の髪が、コートの下からするりと見えた。
観客席からの小さな悲鳴と大多数の視線が集まる中、ティアナの可愛らしい顔が外気に晒される。
今度は観客席から違う声が上がる中、寝惚けたようなティアナは頭を支えるように手を触れる仕草を取った。
裸身にマフラーとコートを掛けただけという、煽情的な姿のままで、だ。
まったく、状況確認を怠るのは君の悪い癖だよ。
すぐに前に座り、姿勢に合わせてずれ落ちるコートを支えて前を止めた。
「おはよう、ティアナ。身体の調子はどうかな?」
「えっと、何だかぼんやりします。ここは……?」
「ここは仮面魔闘会の決勝戦だよ。そして優勝おめでとう」
「え――きゃぁ!? なんでわたし裸なんですか!!」
ようやく気付いたようだけれど、周囲までは見えてないみたいだ。
今のまま連れ出した方が手間はなさそうだね……とりあえず
「説明はあとで。ともかくここから移動するとしようか」
「ヴェルター!?」
ティアナが何かを口にする前に抱き上げ、何度もやったように借家へ転移した。
これで人目に晒されることなく安心して彼女に説明ができるというものだ。
あぁ、学園の成績に関しては私の範疇ではないけれど、後で関係者への説明に走る必要があるね。
まずは仮面のまま参戦を許可してくれたアミルカーレ様への根回しからか……。
彼は優秀だが少しティアナへの執着が強すぎて面倒なんだよね。
と思わず小さく溜息を零すも、今は二度の変質化を経たティアナの状態を確認する方が先決だ。
「それじゃ《神気剥奪》とティアナが体験した色々の説明を始めよう」
移り変わった景色に目を白黒させているティアナに向けて私は声を掛けた。
しかし彼女よりも深く広く躯と魂に刻まれたもの……うん、この感触は久々だね。
頭を抑えると同時に発動した術式は、彼女の持つ魔力を吸い上げ私に還元していく。
「やはり奪われるのには慣れていないようだね」
流れ込んでくるティアナの魔力は、私の身体を蝕み痛みと熱をもたらす。
懐かしい感覚に目を細めながら、目に見えて動きが悪くなったじたばたと暴れる金獅子の挙動を見切る。
「大きな体躯は高い攻撃力と広い射程を有するが、もぐりこまれると実に対応がしにくい。
手足の可動範囲に制限があるからで、加えて魔力の流れを乱されてしまうと魔法や強化はまともに機能しなくなる」
今の君のようにね。
しかしそれでも動けるのは金獅子は特別製というわけかね?
もう少し検分したいけれど、余り悠長にもしていられないし――
「そろそろ詰めに入ろうか」
左手に《麻痺》を宿して鼻先を撫でると、金獅子は一瞬仰け反るように震えて地面に伏した。
思った通り、しばらく経っても起きてこれないことを確認してから右手の《神気剥奪》を解除する。
怪我や死さえも遠ざけるこの仮想戦場でも、こうした状態異常は防ぎきれない。
正確には体調への異常は順次回復するため、『効果が持続しない』とするべきかな。
一瞬でも魔法が作用するので、回復に合わせて異常状態を重ね掛けし、維持し続ければいいだけ。
また、回復するにしても肉体的損傷を伴うわけでは無いので魔力消費はかなり緩やかなはずだ。
つまり単なる時間稼ぎにしかならない。
本来ならばまったく使えない魔法となるはずだが――
「今はそれが必要だ。ティアナ、帰っておいで」
この数日間観測し続けたティアナの情報を頭に浮かべ、金獅子の右前足へ触れて《神気剥奪》へ接続する。
繋いだティアナの魔力を掌握し、彼女本来の姿を取り戻すために禁呪指定の《変質化》を解放した。
――グルルルアアアア!!
ティアナが行った《自己改変》とは違い、他者が干渉する《変質化》は、体躯に拒絶と軋みを伴わせる。
ゆっくりと縮み行くその変質は、私が施した状態異常によって動けないはずにも関わらず咆哮を上げるほどに凄絶なもの……。
元に戻るだけのはずが、どちらかといえば金獅子が本当の身体のように体感し、使いこなす完成度が恐ろしい。
体躯が三メートルを切ったところでコートを脱いで金獅子に掛けた。
踏みつけているティアナに与えた体格に合わせて伸縮するマフラーと違い、学園の制服は破れてほとんど残っていないだろうからね。
観客席のざわめきを無視して獅子の体躯のまま小さくし、コートにすっぽり覆われるくらいになってからティアナを作る。
「あ――ヴェるター?」
地面に伏していた金獅子から声が……いや、元の姿に戻ったティアナから上がる。
獅子の時と変わらぬ美しい金の髪が、コートの下からするりと見えた。
観客席からの小さな悲鳴と大多数の視線が集まる中、ティアナの可愛らしい顔が外気に晒される。
今度は観客席から違う声が上がる中、寝惚けたようなティアナは頭を支えるように手を触れる仕草を取った。
裸身にマフラーとコートを掛けただけという、煽情的な姿のままで、だ。
まったく、状況確認を怠るのは君の悪い癖だよ。
すぐに前に座り、姿勢に合わせてずれ落ちるコートを支えて前を止めた。
「おはよう、ティアナ。身体の調子はどうかな?」
「えっと、何だかぼんやりします。ここは……?」
「ここは仮面魔闘会の決勝戦だよ。そして優勝おめでとう」
「え――きゃぁ!? なんでわたし裸なんですか!!」
ようやく気付いたようだけれど、周囲までは見えてないみたいだ。
今のまま連れ出した方が手間はなさそうだね……とりあえず
「説明はあとで。ともかくここから移動するとしようか」
「ヴェルター!?」
ティアナが何かを口にする前に抱き上げ、何度もやったように借家へ転移した。
これで人目に晒されることなく安心して彼女に説明ができるというものだ。
あぁ、学園の成績に関しては私の範疇ではないけれど、後で関係者への説明に走る必要があるね。
まずは仮面のまま参戦を許可してくれたアミルカーレ様への根回しからか……。
彼は優秀だが少しティアナへの執着が強すぎて面倒なんだよね。
と思わず小さく溜息を零すも、今は二度の変質化を経たティアナの状態を確認する方が先決だ。
「それじゃ《神気剥奪》とティアナが体験した色々の説明を始めよう」
移り変わった景色に目を白黒させているティアナに向けて私は声を掛けた。
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