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しおりを挟む凪はある場所に来ていた。それは、宗介の従兄弟であるキャプテンが参加するバスケットボールの大会だった。
宗介と共に到着した会場は、すでに満員だった。会場内には熱気がこもり、観客たちの高揚した声がこだまする。席に案内されたとき、凪はその距離に少し驚いた。キャプテンが手配してくれたのか、コートからかなり近い関係者席だった。
チームメンバーのアップが終わり、ベンチに選手が並び始めても、そこには馨の姿はなかった。やがて試合開始のブザーが鳴り、ボールが宙を舞う。
(本当に、いないんだ。)
頭ではわかっていた。馨はもうアメリカへ行くと決めたのだから、ここにいないのは当然だ。でも、目の前の現実として突きつけられると、想像していた以上に胸が締めつけられた。隣で歓声が上がっても、それが遠くに感じる。
「凪」
横から名前を呼ばれ、顔を向けると、宗介がこちらを見ていた。彼の指先がそっと凪の頬に触れ、少しだけ撫でるように動く。
「なんか悲しそうな顔してんな」
冗談めいた声なのに、宗介の表情はどこか曇っていた。心配してくれているのが、ひしひしと伝わってくる。
「……してないよ」
凪はそう答えながら、無理に笑みを作った。でも、宗介の手のぬくもりが優しすぎて、心のどこかが軋んだ。
試合は一進一退の接戦で、コート上の選手たちは激しく動き、応援の声もどんどん大きくなっていく。けれど、凪の心は不思議なほど落ち着かないままだった。視線はコートを向いていても、思考は別のところをさまよっていた。
そんなとき、背後から女性たちの会話が聞こえてきた。
「やっぱり馨くんいないと、チームの動きがなんか噛み合ってない感じするよね」
「馨、急にやめちゃったし。理由は詳しく知らないけど、なんか最近調子崩してたって聞いたよ。あんなに安定してたのに、急にどうしちゃったんだろうね」
凪は思わず耳を傾けてしまった。自分とはまったく関係のない第三者の言葉。そのはずなのに、胸の奥にじわじわと沁み込んでくる。
「確かに、そのちょっと前まではほんとに神がかってた。試合もキレキレで、表情もめちゃくちゃ良かったし。あのときの馨、すごく輝いてたよね。見てて本当に惚れ直すっていうか」
「推してて良かったって、あのときは思ったなあ」
無邪気なファンの言葉。そのなかに悪意はない。むしろ純粋な好意が込められているのに、なぜだろう。聞いているうちに、胸のどこかがじくじくと痛んでくる。
なぜ調子が良かったのか。普段の自分ならただ単に身体のコンディションや普段の生活が影響したと考えるのが普通なのに、馨の調子が悪かった理由が別にあると考えてしまった。
無意識に、手元で握っていたペットボトルがへこむほど強く握っていたことに気づき、凪は慌てて力を緩めた。
試合を観に来ているというのに、肝心の内容がまったく頭に入ってこない。点差がどうとか、どの選手が決めたとか、なにも覚えていなかったことに罪悪感が湧く。
気がつくと、試合は終了していた。コートには拍手と歓声が飛び交い、勝者と敗者が握手を交わしている。宗介が立ち上がって肩を軽く叩いてきた。
「ちょっと控え室よっていいか?あいつに声かけてくる。」
あいつとは宗介の従兄弟を指していることはすぐにわかり凪は頷いた。
「……うん」
答えた声は少し掠れていた。
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私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
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