君に不幸あれ。

ぽぽ

文字の大きさ
1 / 5

1

しおりを挟む


洒落た店が立ち並ぶ繁華街の一角で、静は一件のバーの扉を押した。

看板は控えめで、知らなければ通り過ぎてしまいそうな佇まいだ。中へ足を踏み入れると、薄暗く狭い空間に、磨き上げられた木の香りとアルコールの匂いが混じり合っている。静けさの奥に、確かな高級感が漂っていた。
一般人なら、少し躊躇してしまうような店だろう。

スタッフと目が合うと、そのスタッフは少しだけ頬を赤らめた。静はそれに対して微笑みを返す。

静はスタッフに案内され、カウンターの席へと腰を下ろす。革張りの椅子に身を預け、隣に座る男へと視線をやった。

座っていてもはっきりとわかるほどの長い脚。切れ長で、どこか色素の薄いビー玉のような瞳。通った高い鼻筋に、やや厚みのある唇。
輪郭は非の打ちどころがないほど整っており、まるで丹念に造られた美術品のようだった。意識せずとも人目を引きつける、魅惑的な容姿をしている。

静はグラスに口をつけながら、すっと息を飲み込む。
ゆっくりと酒を飲み干し、空になったグラスをカウンターに置く。ほんの一拍置いてから、隣の男へと視線を向けた。


「お兄さん、一人ですか?」


声をかけると、男は驚いたようにこちらを見て、大袈裟なくらい大きく目を見開いた。


「……はい、そうです。あなたもですか?」


その呼び方に、静は心の中でくすりと笑う。


「はい、一人です。よかったら……一緒に飲みませんか?」

「え? 一緒に、ですか?」


戸惑いを隠しきれない声色に、静はわざと少し間を置いた。
そして、ほんのり悲しげに目を伏せる。


「……迷惑でしたか?」


上目遣いで、ちらりと男の表情を窺う。
男は一瞬言葉に詰まった後、困ったように眉を下げ、それでも優しく微笑んだ。


「いえ。そんなことは。
こんな綺麗な方に誘っていただけるなんて、むしろ光栄です」


その返事を聞いて、静は口元に、これ以上ないほど整った笑みを浮かべた。

(全部、君のせいだから)

胸の内でそう呟きながら、静は新しいグラスを手に取った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

処理中です...