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しおりを挟む慶也は少し眉間に皺を寄せた。
「それ、誰に聞いたの?」
「お前の彼女だよ。自慢げに話してた。慶也に旅行に誘われたってさ。」
琥珀の言葉に、慶也は一瞬だけ考えるような表情を見せたが、特に気にする様子もなく、淡々と答えた。
「ふうん。親父と母さんが二人で温泉旅行に行く予定だったんだけど、中止になっちゃったんだよね。それで、美沙を誘ってみただけだけど。」
まるで何事もないかのように話す慶也。その態度を見て、琥珀の胸はぎゅっと締め付けられる。慶也にとって美沙を誘うことは特別なことではなく、むしろ当然の選択ように話す慶也に憤る。心のどこかで、慶也に自分を選んでほしいという期待を捨てきれない自分がいた。
「だったら、俺を選んでくれてもよかったじゃん。あんな女と行っても、どうせ楽しくないだろ?」
苦しさをごまかすように、冗談めかした口調で笑いながら言う。自分の中に渦巻く思いを隠すように、軽い調子を装うしかなかった。
その言葉に、慶也もくすっと笑った。
琥珀は内心、「確かにそうだな。やっぱり美沙を連れて行くのはやめて、琥珀を誘うことにするよ」と慶也が言ってくれるのではないか、と淡い期待を抱いてしまう。
しかし、そんな希望を打ち砕くように、慶也はさらりとこう答えた。
「行かないでしょ、男友達同士しかも2人で温泉旅行なんて。それに、美沙は俺の彼女だし、何も問題ないよ。」
「男友達」という言葉が鋭く胸に突き刺さる。慶也が自分を友達以上に思っていないことは、ずっとわかっていた。それでも、こうして目の前で平然と告げられると、その現実は想像以上に辛かった。琥珀の瞳には、じわりと涙が浮かんでくる。
「……琥珀?いきなり黙ってどうした?」
慶也の問いかけに、琥珀は慌てて顔をそむけ、何でもないように振る舞った。
「別に、なんでもない。明日、朝練で早いんだろ?早く帰ったほうがいいよ。」
「そんなこと普段は言わないのに。どうしたんだよ?」
「ちょっと……体調悪い気がしてきた。」
「悪い気がしてきたってなに。」
慶也は手に握っていたコントローラーを床に置き、テレビ画面を消した。慶也は真剣な表情を浮かべながら琥珀のそばに近づいてきた。ベッドに片膝をつき、体を乗り出すようにして琥珀の額にそっと手を当てる。その瞬間、二人の距離がぐっと近づいた。息をするのも忘れるほどの至近距離。交差する視線に、琥珀の胸がさらに痛む。
「熱はないみたいだけど……本当に大丈夫?」
「……大丈夫だよ。」
涙を必死にこらえながら、琥珀は視線をそらした。優しい声で問いかける慶也の存在が、琥珀の心をさらにかき乱していく。優しくしないでくれ。そんな態度を取られたら、また期待してしまう。慶也が自分の特別な存在だと思ってくれているのではないかと、そんな叶わない幻想に縋ってしまう。
そんな瞬間、ふと美沙の言葉が頭をよぎる。
(慶也はすごく優しいの。唯一の幼馴染を邪険に扱えないんだよ。琥珀くんの存在が、迷惑かもしれないのに。)
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