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しおりを挟む慶也は心配そうな顔をして言った。
「熱はなさそうだけど、今日は俺帰った方が良さそうだな。なんか俺の家から持ってきて欲しいものとかある?俺が部活の時によく飲んでるスポーツドリンクくらいしかないけど……それか、コンビニで何か買ってくるでもいいよ。チャリで行けばすぐだし」
琥珀はベッドに横たわったまま、無表情で答える。
「ない、もう寝る」
その短い返事に、慶也は一瞬眉をひそめたが、気にする様子を見せずベッドの淵に肘をついた。片手で頬杖をつきながら、もう一方の手で琥珀の柔らかい髪を指先ですく。
「そっか。琥珀が体調悪いとかあんまりないから、なんか変な感じだな。バカは風邪ひかないはずなのにな」
慶也はいつもの琥珀らしさを取り戻そうと、少し冗談めかして言った。しかし、琥珀からはいつものように返事は返ってこない。
「今日、花苗さんの帰り遅くなるんでしょ。それまで俺ここにいようか?具合が悪化しても困るだろうし」
この提案は琥珀を気遣ってのものだったが、その優しさが胸に刺さるようで、琥珀は強い口調で言い返してしまった。
「いい!!」
琥珀はその瞬間に自分の反応を後悔したが、どうしても引き返すことができなかった。
「……あっそ、せっかく心配してやったのに」
慶也は肩をすくめ、小さく溜息をついた。その声にはわずかな疲れがにじんでいた。
「じゃあお大事に」
彼は琥珀の身体に毛布をふんわりとかけた。その仕草は優しかったが、どこか距離を感じさせるものだった。慶也の目には、寂しげな色が浮かんでいるようにも見えた。
「ごめん」と言えばいいのに、琥珀の喉は固まって言葉が出てこない。扉がゆっくり閉まり、慶也の足音が遠ざかると、部屋はまた静かになる。
琥珀は毛布を頭の上まで引き上げ、膝を抱え込むようにして丸まった。熱い涙が瞼から溢れ、止まらなかった。
慶也が自分を心配してくれるのは分かっている。それが嬉しくないわけじゃない。むしろ、すごく嬉しい。それなのに、その優しさが自分だけではなく、美沙にも向けられている現実が琥珀の胸を苦しめる。
「全部、俺だけならいいのに……」
ドロドロとした嫉妬の感情が琥珀の体をめぐる。こんな感情がなくなれば楽になれるのに、どうしても我慢ができない。これも慶也を好きすぎるが上だ。
「慶也、ごめん……」
ただの男友達だと言われたことに対しての八つ当たりだったことは琥珀もわかっている。そのため、罪悪感や後悔が湧いてくるけど、その場にはもう慶也はいない。
琥珀は泣き疲れ、ベッドの中で重いまぶたを閉じた。
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