【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ

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何故ここに運ばれたのだろう。記憶を辿るけどぽっかりと抜けたように、全くそれらしき記憶は出てこない。

しばらくすると病室の扉が開いた。白衣を着た医者らしき男と母さんが一緒に病室に入ってきた。そして、その医者は俺が事故にあったこと。事故に遭ってから1週間目を覚さなかったこと。その事故で強く頭を打ちつけたことを説明した。だから頭にも包帯が巻いてあるのだと納得がいった。

人生の中で大きな怪我をしたこともなかった俺がまさか事故に遭うとは思わなくて、自分でも驚きだ。

事故にあった時と前後の記憶がはっきりしない。何かを思い出そうとするけど頭痛がしてきて、片手で額を抑える。そんな様子を見せると医者は俺に告げた。


「今日目覚めたばかりで、脳や体に負担をかけるのは良くないので、今は安静に過ごしてください。」

「……はい」


病院に通い慣れてないせいで、医者と話すのは妙に緊張して堅苦しい。1週間も寝てたのに、急に頭使わせんなよな。俺は馬鹿だからそんな要領よくねえんだぞと医者に文句の一つ言いたくなった。そして、後日細かい検査をすることになった。


「琥珀、本当に良かった
ママはもうこのまま琥珀が目覚めくれないんじゃないかって不安で不安で毎日仕方なかったんだから!!1週間ほぼ眠れなかったんだからね!」


母さんは掛布団の上からポスポスと俺のことを叩く。痛くはないがなかなかの力だったかもしれない。母さんの目元を見ると色の濃いくまができていて本当に寝ていなかったことがわかる。


「その…心配かけてごめんなさい」

「もうこんなこと勘弁だから!
ママの寿命いくら上げてもいいからお父さんとママより早く死ぬのだけはやめてよね!」


母さんの瞳には再び、涙が浮かびポロポロと流れていく。母さんの涙を見慣れてない俺はどうしたらいいものかと戸惑ってしまい、とりあえず母さんの目元へと腕を伸ばして病院服の裾で涙を拭いた。


「お父さんも会社早退してすぐくるっていうから、寝て待ってなさい。起きて急に色々なこと言われて疲れたでしょ?」

「ん、ちょっと疲れたかも」


俺は目を閉じながら、母さんに返事を返した。


「母さん」

「ん?どうしたの?」

「俺、退院したら母さんのカレー食べたい
腹減った」


母さんは俺の言葉に琥珀らしいなんていって泣きながら笑った。母さんが病室を後にし、部屋には静粛が訪れる。起きて早々暇すぎて仕方ない。この部屋は俺1人しかいないため、病室の外から漏れる声しか聴こえない。せめて携帯でもあればいいのになんて思うけど、俺の携帯は事故でボロボロになってしまったせいでデータは戻ってこないようだった。

事故って最悪。痛いし、入院すると暇だし、死ぬかもしれなかったし。だけど、事故にあった時の記憶はないため、なぜこんなことになったのかはわからない。

再び、目を瞑って、そういえば学校の授業とか俺馬鹿だからもうついていけないどうしよう、そもそもなんであんな偏差値高い高校に入ろうと思ったんだっけ…。なんて考えている間、いつの間にか眠ってしまっていた。

眠っている間、何かが俺の頰や額に触れるような感触がした。まるで壊れものに触れるように優しく撫でる。

目を覚ますと、ちょうど父さんが病室に入ってきたところだった。ベッド脇の椅子に腰をかけ、神妙な面持ちで腕を組む。

父さんに心配をかけるなってこんな時まで怒っていたけど、いつもと違ってどこか悲しみを堪えているような表情をしていて思わず「ごめんなさい」と素直に謝ってしまった。自分で言うけどこんなのは俺らしくない。


その次の日

母さんが病室に見知らぬ男を連れてきた。その男は身長が異様に高く、顔立ちが整っていて、どこか浮世離れした雰囲気をまとっている。雑誌の表紙から飛び出してきたモデルか何かかと思うくらいだ。

混乱している俺に対して母さんは告げる。


「ほら、琥珀
嬉しいでしょ?琥珀が眠っていた間、毎日お見舞いに来てくれたんだから」

「……は???」


思わず、間抜けな声が出てしまった。当たり前のように嬉しいでしょなんて聞いてくるけど、なんで俺が喜ぶと思っているんだ。喜ぶわけがない。だって俺の"知らない人"だ。

それに何故知らない奴が毎日俺の見舞いに来ているんだ。俺は寝ている間に別の世界線に来てしまったのではないのかなんて、バカみたいなことを考えてしまう。

男は俺をじっと見つめ、口を開きかけたが、その目には何故か切なげな色が宿っていた。その視線に耐えきれず、俺は思わず顔をそらす。

母さんの言葉に再び耳を疑う。


「琥珀どうしたの?1番喜ぶと思ったのに」


「1番喜ぶって……
えっと………誰???」

  
俺が放った一言によって、病室にこれでもかというくらい静かな沈黙が訪れた。重い空気が流れ息苦しいと言っても過言じゃない。母さんと男の方を見ると表情を固まっていた。
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