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しおりを挟む「いい判断」
蒴は満足気な顔をした。
「なんか監視役がいるからね」
「監視役ってなに?」
「ん?何でもない
冷めないうちに食べよ」
3人で鍋をつつきながら、最近あったことや適当なことを話す。
菫はこの時間が好きだ。
「お鍋、美味しい~」
鍋の美味しさに頬を緩めている菫を見ながら、2人は同時にビールを飲みこんだ。
「美味しい?よかった
もうそろそろ酒飲む?」
蒴が菫の頭を撫でながら聞くと、菫は首を大きく縦に振った。菫が器をテーブルに置いて立ちあがろうとすると、蒴がすかさずその前に立ち上がり冷蔵庫に向かう。美味しいものを食べてすっかり上機嫌になった菫は蒴の後ろについて行った。
それに気づかなかった蒴は冷蔵庫に開け、ビールを取り出して、さらに恭弥が買ってきてくれたワインを取り出す。
「蒴ちゃん、ワイン飲むの?」
背後にいた菫に突然話しかけられて、蒴は少しだけ体を跳ねさせ、菫の方を振り返る。
「座っててよかったのに
菫もワイン飲む?」
「うん、飲む!」
「じゃあ、ちょっとだけね」
「高そうなワインだもんね」
ワインのことなど全くわからないけど、高そうなことだけはわかる。
蒴の横に立ち、間近でワインボトルのラベルを見ていると、蒴が菫の頭上でふっと笑った。
「違うよ
何杯でも飲んでいいけど、菫は酒が弱いからちょっとっていう話ね」
数が月前の恒例晩餐会で蒴の飲んでいたワインを飲みたいとねだり2杯ほど飲んだ後、すぐにソファで眠ってしまったことがあった。起きた後は頭が痛くなり、少し身体の火照りも残っているような状態だった。
「大丈夫、そんな飲まないから」
「無理はしないでね」
「わかった!」
「じゃあ、悪いけど棚からワイングラス取ってもらっていい?」
「うん」
棚を開けて目に入ったワイングラスを取ろうとするも、グラスの大きさや高さが微妙に違う。
「ねえ、蒴ちゃん
どのグラス使えばいい?」
「ん?適当でいいよ
3つ同じのが揃ってるグラスなんてないから」
適当でいいと言われたので、目の前に置いてあったグラスを3つ取る。高そうなグラスであるため、絶対に落とさないように慎重に運ぶ。
テーブルの上にグラスを置き切った後、緊張がほぐれてふうと深く息をついた。
「そんなに慎重にならなくてもいいのに」
「ダメだよ
蒴ちゃんの大事なグラス割って嫌われちゃったら嫌だ」
菫はグラスを見つめながら、口元をへの字に曲げていると、テーブルに片肘をついた恭弥がニヤついた。
「いっそのこと割って嫌われちゃいな!」
「何でそんなこと言うの!」
恭弥の元に行き、抗議の声を上げに行こうとすると蒴が菫の腕を掴んで、椅子の方まで引き寄せる。
「菫、落ち着いて」
「…はい」
蒴に注意されて、不服そうな顔をする菫。
その姿はまるで親に怒られて納得のいかない子供のようだ。
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