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波乱の…
しおりを挟む蒴との冷戦状態は解消されたはずなのに、蒴と会うことは相変わらず少ないままのことに菫は憤りを覚えていた。
朔がさりげなく会いたくないということを伝えてきているのではないかと感じたが、金曜日は時間は短くなったものの会ってくれる。
会う時間が限られてしまった分、なんとかして、それ以外の日に会いたいと感じ何とかして会う口実を探そうとした。
ぼんやりと考え込んでいると、ふと、壁にかかっている猫のカレンダーが目に入った。まん丸とした青色の瞳の子猫と菫の目が合う。
子猫から視線を逸らし、日付の方に目を向けるとある1日に赤の大きなハートで囲われている日がある。そのハートは他の日付にも被さるほど主張をしていた。
「蒴ちゃんの誕生日…」
頭に焼き印のように刻まれた日付は忘れるはずはないのだが、念のため、万が一、自分が記憶喪失になったような時でも思い出せるように囲ってものだ。
もうすぐだというのに、他のことに気を取られすぎて何を上げるのか考えるのも忘れていた。
バイトもせず、親からの少しの仕送りで今まで溜めてきた貯金で暮らしているため買えるものも限られる。
プレゼントをあげるなら人から貰った金ではなく、自分で汗水垂らして稼いだ金でプレゼントをしたいと考えた菫は大学で使っているノートパソコンをカバンから乱暴に取り出し机の上に持ってきた。
「ちょっと早く段ボール運んで、遅いよ」
「は、はい、すいません」
いざという時のために登録している日雇いのバイト。
イベントの売店スタッフなんて聞こえはいいけど、商品の段ボールを運んだりなど、力仕事が紛れているのがほとんどだ。
ただ単に来客を案内や接客をするだけでそんなにいい給料が貰えるわけではない。
Tシャツやらタオルやら大量に詰め込まれた段ボールを"よいしょ"という鈍い声を合図に持ち上げる。
1枚ではあんなに軽いのに、何十枚も重なれば幼児1人分の重さはあるのではないかと大袈裟に感じてしまうほど。
元からそこまで筋肉があるわけでもなく、体も細身な菫には苦行だけど、これも蒴のためだと考えればなんてことない。
現場のリーダーに散々怒られて、大量の段ボールを運んだせいで力が入らず腕がプランと垂れ下がる。
帰りの電車の中では、眠ってしまい隣に座っていたおばさんの肩を借りていたようで、おばさんが席から立つと同時に頭が肩から落ちて目を覚ました。
そんなバイトを何度か繰り返してようやく振り込まれる給料。
決して多い額ではないが、通帳に刻まれた数字を眺めてニンマリと笑みを浮かべる。
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