好きな人の好きな人

ぽぽ

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「あれ、朋子さん
こんばんわ」


頭上から聞こえてくる声は初恋の相手の声だ。
なぜこうもタイミングよく会ってしまうのか菫には不思議でたまらない。


「あっら~、蒴くん!
また会っちゃった!こんな格好で恥ずかしいわ
お隣は彼女さん?やだ!すごい美人さん!」

「はじめまして、小谷美香といいます」

「ごめんなさいね。先に挨拶させちゃって!菫の母です!いつも菫がお世話になってます~!
いつもご迷惑おかけしてません??
蒴くんにはすでにかけちゃってるもんね~、いつも本当にありがとうね~」


菫と2人きりの時とは違い、猫撫で声を出す母親に菫は鳥肌が立ちそうになる。ここまで態度を変えることができるなんて、まるで役者のようだと菫は感心した。


「朋子さん、今日はどうされたんですか?」

「あのね、この子が引っ越しするっていうから手伝いに来たの!1人じゃ引越しの準備できないなんて言って」

「あ、ママ
それは…」


それを伝えたところで蒴は何も思わないことはわかっていたが、まさか母親の口から伝えられると思っていなかった。


「え、引っ越し?」


一呼吸おいて蒴からの返事が返ってくる。


「え?!もしかして蒴くん聞いてなかった?!
ちょっとなんで言わないの!!あんなにお世話になっといて!だったら今日ご挨拶になんか持って来ればよかった!」


菫は蒴の表情を一瞬だけ見ると、あまりにも冷たい表情をしていた。
慣れないその表情が怖くて菫は目を逸らす。


「言ってないよ
だってもう無関係だし!」

「え??ちょっとどういうこと?
無関係じゃないでしょ?!」

「菫、俺は無関係になった覚えないけど」


蒴のやけに冷静な声が菫の耳に届く。
自分からあんなことを言っといてまだ繋がりを持とうとする蒴の意図がわからない。


「蒴ちゃん…じゃなくて、花崎さんはなくても私はあるよ
ママ早く行こうよ、お店閉まっちゃうから」

「ふうん、花崎さんね…」


まるで喧嘩をした子供のようにわざとらしく呼び方を変えて、蒴とはもう赤の他人であることを強調するように言う。

菫は母の腕を強引に引き、一刻も早くその場を離れようとした。
しかし、去ろうとする菫たちを蒴が呼び止める。


「今日車ですか?
もし、車じゃないなら俺が送りますよ
どこまでですか?」

「大丈夫!歩いていくから!
ね?ママ?2人の邪魔しちゃダメだもんね」


蒴の方を見ることなく、菫は隣にいる母の腕を抱きしめながら母に問いかける。


「確かにそうね。2人の時間お邪魔しちゃダメよね!
じゃあ、蒴くんまたね!2人ともお幸せに~
今度、何か持っていくからね、お母さんたちにもよろしく!」


母は蒴達の方に向かって年甲斐もなく、無邪気に手をふると蒴は悲しそうな笑みを浮かべて手を振り返す。
隣にいる美香は菫の母親の方へと軽く頭を下げた。
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