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しおりを挟むすると、小谷社長はポケットの中に入っていた携帯画面を確認する。
「あっ、申し訳ないがちょっと席を外させてもらうよ
親子2人の時間なんて中々取れていないだろうからゆっくり話でもしていてくれ」
美香の父は席を外し、ラウンジの外へと消えていく。
蒴にとったらそれはありがた迷惑だった。
昔から蒴に対して威圧的な態度を取る父親と2人きりになることは何年経っても慣れない。
「おい、口ではうまく言ってると言っていたが、本当にうまくいってるか?
あちらの令嬢がお前に目かけてくれたことはうちの会社をさらに成長させるチャンスなんだからくれぐれも面倒は起こすなよ」
「わかっています」
美香と付き合う数ヶ月前のこと、小谷グループが主催するパーティーに蒴も招待され、その場に美香もいた。
そこで蒴に一目惚れをした美香が父親に蒴を紹介してほしいと願い、その話を会合の際に美香の父から蒴の父へと渡った。
小谷社長から話を聞いた蒴の父はすぐに蒴を呼び出し、遠回しに会社のために美香と付き合えと言った。
そんな父に蒴も逆らうことができない。そして、小谷社長が溺愛する1人娘を振ったとなると、今後の関係性が悪化する可能性が大きいということは蒴もわかっていたため、美香から告白を受けた際に付き合うと決めた。
蒴の父親は自分の会社のためになるようにとしか考えていない。そして自分自身もそんなことを考えてしまっていることに日々嫌悪を感じていた。
自分は政略結婚だとわかっている一方、真っ当に恋愛をしている感じている美香にも申し訳なかった。
しかし、会社のためにもこうせざるえない。
様々な感情が日々、蒴の脳内を渦巻いていた。
その後、美香の父ともしばらく話し宿泊先のホテルに戻った。いつもなら仕事が終わった後すぐ風呂に入るが、そんな気力が湧かず、椅子に座って背もたれに寄りかかり天井を見上げる。
「はあ…」
仕事のメールを確認しつつ、ふと携帯のアルバムを開くと、いつか撮った菫とのツーショットの写真が出てきた。
さっきまで刺々しい感情を抱いていたのに一気にそれは柔らぐ。
写真に映る菫の間の抜けた顔に蒴は思わず笑ってしまう。
(遠ざけないといけないのに、いざ菫が離れるとなると離してあげられない。俺はずるい奴だ。)
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