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しおりを挟む菫が昔から自分のことをすいていることはわかっていた。菫の感情と行動はあまりにもわかりやすい。
しかし、初めて思いを伝えられたのは菫が7歳の時。
そんな年齢な子に好きだと言われても子供の戯言くらいにしか思わなかったし、すぐに菫の気が変わると思っていた。しかし、菫はいくら断ろうと粘り強く接してくる。
そして、時間が経つにつれ菫は女性としてどんどん美しくなっていった。
妹くらいに見ていたはずなのに、学校では男とどういうふうに話しているのか、恋人はいるのか。そんなことを意識するようになっていた。
自分だけを好きでいて欲しい。他の男なんて目に入らなければいい。そんな独占欲まで湧いてきて、あえて菫を自分に夢中にさせるような行動をとってきた。
どんな男よりも優しくして、恋人のように大切に扱って。
しかし、菫からいくら好意を伝えられても、いずれは父親の会社を継げと言われていることがその時すでにわかっていた。
こんな廃れた世界で菫を巻き込んで悲しい思いをさせたくない。苦しませたくない。
いつまでも純粋なままな菫でいてほしいという自分勝手な感情で菫の好意には応えることができないけど、自分の傍から離れてほしくないという矛盾した気持ちが行き交う。
思い切って菫を無理に突き放したのはいいが、いざとなったら自分が離れられなくなっていることに呆れていた。
もう嫌われてしまっただろうか。
首元につけていたネクタイを緩めそれを眺める。
菫に冷たくしてしまった誕生日の時、部屋に投げつけられた紙袋の中にはこのネクタイとネクタイピン、祝いの気持ちと愛を伝える手紙が入っていた。
あんなにひどいことを言ってしまって、今更気持ちを取り返せるなんて思えないが、とにかく離れてほしくない。
菫の携帯に何度目かの電話をかけるも出ることはない。思わずため息をついてしまった。
(菫の声が聞きたい…会いたい…
帰国する前に、菫が好きそうなものを買っていってあげよう。)
帰国をして菫と会えることを思うといつのまに笑みが浮かんでいた。
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