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「ん?どうしたの?
行こう?」


伊藤くんは歩き出そうとするけど、私はその場に立ち止まる
伝票がないってことはそういうことだよね??


「お会計ってもしかして…」


「払っちゃった」


「え?!いつ払ったの??」


払っちゃったなんて可愛く言われても、いつ払ったのか全く分からない
今度こそは、私が払うつもりでお財布の中身も大丈夫かどうかこっそり確認していたというのに



「秘密」

人差し指を口元に当てながら、微笑みを浮かべる彼は美しい以外の何者でもなかった

それにしても、一体いつお金を出したんだろう
全然気づかない私が鈍感すぎるのもあるけど…


「ごめんね…お金どれくらいだった?」


「ううん、いらないよ」


「え!だってチケット代も…」


「いらないですよ
行きましょう」


伊藤くんは、私に向かって手を差し伸ばしてくる
私はその手をじっと見つめて戸惑っていると、強引に手を掴まれる


「え?」
 

「そろそろ、デートぽいことしませんか…」 


デート慣れしてそうなのに、いざ手を繋ぐとなると、指で頬をかきながら、恥ずかしそうに手を伸ばしてくる所はやっぱり可愛い


「俺さっき見たんだけどこれからイルカショーあるんだって
良かったら見に行く?」


「え!イルカショー?
行きたい!!」


あの可愛いイルカを間近で見れるなんて!
それに、イルカショーなんて何年振りだろ
年甲斐もなくワクワクしてしまう


「楽しみにしてくれてそうで何よりですじゃあ行きましょうか」


伊藤くんは喜ぶ私を見て、優しく微笑む


「もうさすがにあいつらいないよね?」


イルカショーの入り口に着くと同時に、
伊藤君は警戒するようにあたりをキョロキョロと見渡す



「私は別に一緒でも大丈夫だよ?」


「俺が嫌なの
わかる?」


よっぽどさっきの事が嫌だったのだろう
それにしても、仲良いはずなのに何でそこまで避けようとしているのかが不思議だ

「わからないけど、わかった…」

「そこは素直にわかったって言ってよ
だからあいつらには見つからないようにしようね」

「うん」

私の言動に伊藤くんは笑いながらも注意を投げかけた


「ここら辺の席でどう?
前すぎるとびしょ濡れになりそうだし」


「うん!大丈夫!」


しばらく待っていると、イルカショーが始まった
何頭ものイルカが全く一緒の動きをしながら、急に大ジャンプを披露したりする

あの子達、私より頭いいんじゃないの??


「すごい!」

「可愛い!!」


さっきからこの言葉ばかり出てくる
子供のようにステージに向かって拍手を送る

私はあまりに興奮していたため、しばらく気づかなかったけど、始まってから伊藤君の方から反応がない


伊藤くんの方に目を向けた瞬間、なぜかこっちをじっと見ていた伊藤くんと目が合ってしまった
逸らそうにも、逸らせなくて互いに見つめ合ってしまう


「え、あ、あの…
いるかが…」


「ユイさん、あのさ」


気まずくなって始めた、私の話を伊藤くんが遮った

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