6 / 22
第5話 狂気の果て
しおりを挟む
目が覚めると離宮の一室に寝かされていて、術後にこの部屋まで移動され、今まで眠っていたようだ。今回は舞台設定しただけで王妃様の願望通りに事が運んでしまった。魅せる要素などなかったことが、逆に私の心を穏やかにした。
王妃様が自ら望み選択した展開なのだ。私は納得して王妃様に黙祷した。
それにしても、悩みなく夢現術が終わることはまれで、いつもなら記憶の改竄、虚構の構築を後悔し、人生、魂への冒涜ではと思い悩むことになる。作り上げた夢を見せることへの抵抗感、創作であることの後味の悪さは罪悪感につながる。
幸運にもそれを回避できたのは、王妃様から私への祝福に違いない。
そう思いたい。
うつらうつらとしていると人の気配で目が覚める。目をこすりながらベッドの横を見ると室長が椅子に座っていた。
「今回はなかなか目覚めなかったから心配したわ。体調はどう?」
「ご心配おかけしました。お陰様で、お腹が空いていることから健康ではないかと」
「食事は用意してあるけど、すぐ食べる?」
「いえ、まだ寝起きなので後にします」
「そう。今準備させたから、あとで持ってきてくれると思うわ」
主任が連絡したからか新人が食事を持って現れた。彼女も創作夢を紡ぐことのできるホープで、今回の王妃様からの依頼で監査官の一人になっていた。監査官は術者の行動を監視して、必要であれば行動制限や強制隔離も行える。
あぁ、そんなことよりも報告しなければ。
「主任すみません。今回の依頼は失敗ですね」
「思ったよりも死期が近かったから仕方ないと思うわ。人の寿命なんて神様にしかわからないことだから」
「それにしても一瞬でした」
「王妃殿下の愛の熱量が高く、秘めていた俗物的な願望が強く表れてしまったけど。短くても強く輝いたのは事実よ。だから後悔はしないの。いいわね!」
「はい」
私は食事をとりながら二人を見つめる。室長はそのままでいいと私にジェスチャーして、新人の肩をたたき引き寄せる。そして新人の目を見て話し始めた。
「ところで、貴方は配属されて初めて夢現術に立ち会ったわけだけど。なにか思うところや質問でもあれば言ってみなさい」
「有難うございます。習ったことですけど、夢現術師は女性しかなれない。そして、死の間際にしか施術できないことに違和感を覚えます」
「なるほど、女性しかなれないは正確じゃないわね。過去には男性でも就けたのだけど、マナの薄まりと共に女性が中心になった経緯があるの。魔導革命の影響と勘繰られているから秘匿されることになったのだけど」
「それで過去の偉人に男性名で経歴不明の聖女がいるのかぁ……そもそも女性じゃなかったからですね」
「研究熱心でいいわね。それと、なぜ死期にしか魔法を使わないのかの回答だけど、何か思いついたことはないかしら。間違ってもいいから話してみて」
「そうですね……死を前にしないと夢の回廊が開かないって噂はあります。半信半疑ですが」
私もこの話を先輩から聞かされたものだ。実際は異なる理由であるけれけど。
わたしは真実を告げられたとき信じたくなかったが、事例として示されると納得してしまった。新人期間が終わるときに見せられた実証夢はそれほど強烈だった。
それは悪夢と言っていい。
「生きてさえいれば被験者に施術することは可能です。禁忌といわれる所以だけど、夢現術自体が夢への一方通行のダイブになからよ。被験者が亡くならない限り、術者は二度と現実世界に戻れないから禁止されているの」
「それって、危険じゃないですか!」
「安心して。今は魔道具で肉体の限界はモニターできるし、死期は魂の発火で明確に捉えられるから昔ほど危険じゃないわ」
「あの、もしも無視して死にそうにない人に術をかけて夢に飛び込むとどうなるのでしょう?」
「いい質問ね。そのうち実証夢、実証夢を見ることになるけど、他人の夢に長時間滞在したら術者は気が狂う。そして、被験者も引き寄せられるように狂気に染まる。貴方もいずれ記録に残る被験者の夢を見ることになるから。通称“悪夢”を楽しみにしているといいわ」
室長が悪い笑いを浮かべる。演技の上手さは脱帽ものだ。
新人はぶるぶると震えている。あの狂気は二度と見たくないと私もきつく手を握ってしまった。
死なないものに夢を見せた術者を精神探査すると、心は空白と言われるように活動がなく生ける屍となんら変わらない。そして、被験者は術者の狂気が飛び火するように、この世のものとは思えない悪夢を見続けることになる。
狂気は伝染して地獄図が夢の中に出来上がるのだ。
悪夢は禁忌を犯させない、非常に効果的な戒めの教材となっている。
王妃様が自ら望み選択した展開なのだ。私は納得して王妃様に黙祷した。
それにしても、悩みなく夢現術が終わることはまれで、いつもなら記憶の改竄、虚構の構築を後悔し、人生、魂への冒涜ではと思い悩むことになる。作り上げた夢を見せることへの抵抗感、創作であることの後味の悪さは罪悪感につながる。
幸運にもそれを回避できたのは、王妃様から私への祝福に違いない。
そう思いたい。
うつらうつらとしていると人の気配で目が覚める。目をこすりながらベッドの横を見ると室長が椅子に座っていた。
「今回はなかなか目覚めなかったから心配したわ。体調はどう?」
「ご心配おかけしました。お陰様で、お腹が空いていることから健康ではないかと」
「食事は用意してあるけど、すぐ食べる?」
「いえ、まだ寝起きなので後にします」
「そう。今準備させたから、あとで持ってきてくれると思うわ」
主任が連絡したからか新人が食事を持って現れた。彼女も創作夢を紡ぐことのできるホープで、今回の王妃様からの依頼で監査官の一人になっていた。監査官は術者の行動を監視して、必要であれば行動制限や強制隔離も行える。
あぁ、そんなことよりも報告しなければ。
「主任すみません。今回の依頼は失敗ですね」
「思ったよりも死期が近かったから仕方ないと思うわ。人の寿命なんて神様にしかわからないことだから」
「それにしても一瞬でした」
「王妃殿下の愛の熱量が高く、秘めていた俗物的な願望が強く表れてしまったけど。短くても強く輝いたのは事実よ。だから後悔はしないの。いいわね!」
「はい」
私は食事をとりながら二人を見つめる。室長はそのままでいいと私にジェスチャーして、新人の肩をたたき引き寄せる。そして新人の目を見て話し始めた。
「ところで、貴方は配属されて初めて夢現術に立ち会ったわけだけど。なにか思うところや質問でもあれば言ってみなさい」
「有難うございます。習ったことですけど、夢現術師は女性しかなれない。そして、死の間際にしか施術できないことに違和感を覚えます」
「なるほど、女性しかなれないは正確じゃないわね。過去には男性でも就けたのだけど、マナの薄まりと共に女性が中心になった経緯があるの。魔導革命の影響と勘繰られているから秘匿されることになったのだけど」
「それで過去の偉人に男性名で経歴不明の聖女がいるのかぁ……そもそも女性じゃなかったからですね」
「研究熱心でいいわね。それと、なぜ死期にしか魔法を使わないのかの回答だけど、何か思いついたことはないかしら。間違ってもいいから話してみて」
「そうですね……死を前にしないと夢の回廊が開かないって噂はあります。半信半疑ですが」
私もこの話を先輩から聞かされたものだ。実際は異なる理由であるけれけど。
わたしは真実を告げられたとき信じたくなかったが、事例として示されると納得してしまった。新人期間が終わるときに見せられた実証夢はそれほど強烈だった。
それは悪夢と言っていい。
「生きてさえいれば被験者に施術することは可能です。禁忌といわれる所以だけど、夢現術自体が夢への一方通行のダイブになからよ。被験者が亡くならない限り、術者は二度と現実世界に戻れないから禁止されているの」
「それって、危険じゃないですか!」
「安心して。今は魔道具で肉体の限界はモニターできるし、死期は魂の発火で明確に捉えられるから昔ほど危険じゃないわ」
「あの、もしも無視して死にそうにない人に術をかけて夢に飛び込むとどうなるのでしょう?」
「いい質問ね。そのうち実証夢、実証夢を見ることになるけど、他人の夢に長時間滞在したら術者は気が狂う。そして、被験者も引き寄せられるように狂気に染まる。貴方もいずれ記録に残る被験者の夢を見ることになるから。通称“悪夢”を楽しみにしているといいわ」
室長が悪い笑いを浮かべる。演技の上手さは脱帽ものだ。
新人はぶるぶると震えている。あの狂気は二度と見たくないと私もきつく手を握ってしまった。
死なないものに夢を見せた術者を精神探査すると、心は空白と言われるように活動がなく生ける屍となんら変わらない。そして、被験者は術者の狂気が飛び火するように、この世のものとは思えない悪夢を見続けることになる。
狂気は伝染して地獄図が夢の中に出来上がるのだ。
悪夢は禁忌を犯させない、非常に効果的な戒めの教材となっている。
0
あなたにおすすめの小説
鳥籠の花嫁~夫の留守を待つ私は、愛される日を信じていました
吉乃
恋愛
美しさと華やかさを持ちながらも、「賢くない」と見下されてきたカタリーナ。
格式ある名門貴族の嫡男との結婚は、政略ではないはずだった。
しかし夫はいつも留守、冷たい義家族、心の通わない屋敷。
愛されたいと願うたび、孤独だけが深まっていく。
カタリーナはその寂しさを、二人の幼い息子たちへの愛情で埋めるように生きていた。
それでも、信じていた。
いつか愛される日が来ると──。
ひとりの女性が静かに揺れる心を抱えながら、
家族と愛を見つめ直しながら結婚生活を送る・・・
******
章をまたいで、物語の流れや心情を大切にするために、少し内容が重なる箇所があるかもしれません。
読みにくさを感じられる部分があれば、ごめんなさい。
物語を楽しんでいただけるよう心を込めて描いていますので、最後までお付き合いいただけたら光栄です。
籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。
クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。
3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。
ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。
「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる