これは少年ラーズの異世界物語

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第6話 案内人ベルモントと代理人ラーズ

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 顔に生温い風を感じ目を開くと、そこは雲一つない星空と広大な海が広がっていた。
 僕の生まれた国に海はない。しかし独特のにおいでこれが話に聞いていた海だと直ぐ気が付くことができた。初めて見た海はとても雄大で暗く、近づくと吸い込まれてしまいそうに暗く、そして暗かった。ほぼ何も見えなかったので感じることこれ以上ない。

 僕は目の前にある縁から下を見下ろした。
 どうやらここは360度海に囲まれた直径2㎞はある小島のようだ。僕は島の中心にそびえ立つ100m以上はありそうなレンガ造りの塔の頂上にいる。
 塔の周囲には市場を思わせる色とりどりの布屋根が広がり、真夜中ではないのか人の活気もわずかに感じられた。

 僕は誰かいないか辺りを見渡した。
 そして念の為もう一度見渡したが当然のごとく誰もいない。

「現地に案内人がいるって言ったのに、いないのはどういう事なんでしょうかレグルスさん…。」

 誰かくるのを待っていた方が良いのかしばらく悩んだが、存在しないと思っていた時よりも下がった神への信頼度のせいで、僕は自然と移動することした。

 ふと、レグルスさんが神様だったと思い出す。あの神にはいないとは思うけど、これからはレグルスさんの狂信者に出会う可能性も考え、賢い僕はレグルス様と呼ぶことを決めた。


|||||


 螺旋状になっている内階段をしばらく降りていくと、古びた鉄扉が僕の前に現れた。扉の左側には小さな犬のような生き物を大事そうに抱える子供が描かれ、右側には果物を差し出す子供が描かれていた。恐らくどちらも同じ子供だろう。

 つい癖で扉に耳を当て入る前に部屋の中を探る。扉が厚いのか何も音は聞こえず、ひんやりとしていた。
 仕方なく扉の取手を握ろうとすると、鍵穴のようなマークが扉全体に青白く浮かび上がり、僕を迎え入れるように独りでにそれは開いた。この取手は何のためにあるのだろうか?

 扉に部屋へ招かれ一番最初に感じたのは、薬草をいぶしたような独特の匂いだ。
 傭兵団の拠点にたまに出張儀式にやって来るシャーマンの怪しい薬の匂いを思い出す。
 部屋の中は黄土色の明かりに照らされ、一本足の巨大な丸椅子が中央に陣取り、その上ではこの部屋の主人と思わしきローブ姿の巨大な人物がもぞもぞと動くのが見て取れた。

「この部屋に私の許可なく人の身で入れたということは、お前さんは神の代理人かい?」

 その人はこちらを見ようともせず、そう僕に声を掛けてきた。その巨体から勝手に男だと思っていた僕は、女性のような声に戸惑いながらも、レグルスという神の代理人だと伝えた。すると上手に椅子の上で体を回転させ、僕に振り向いてその顔を見せた。

 長い鼻には小さい老眼鏡をのせ、花と果物の装飾が施された黒いローブを身にまとい、初めて見るが年老いているのはわかる真っ白い人型のドラゴンだった。

 レグルス様…、ファンタジー生物がいる世界かどうかは教えて欲しかったです。

「【絶海の交差市場 ラズベル】へようこそ、代理人殿。この島の所有者で選定の儀の案内人の一人、ベルモントという者さ、どうぞよろしく。」

 顔の動きとローブから出てきたゆったりと揺れるしっぽを見る限りどう見ても着ぐるみの類ではない。首からぶら下がる巨大な宝石が埋め込まれた金のアクセサリー一つとってもその知性の高さが感じられる。
 
 どうやら僕は肌の色など誤差の範囲でしかない世界に送り込まれたようだ。
 銃口を向けなかった自分を褒めてあげたい。まぁ驚きすぎて身体が動かなかっただけなんだけど。

「開催から既に3か月以上経っての参加とは随分お寝坊さんだね。まぁ気負う必要なんてない。ここは所詮スタート地点一つ。次の場所へ向かう方法も単純明快、【この島から出ていく】ただそれだけさ。出て行くことさえ出来れば、どこへ行こうとも必ず次の案内人が現れる。まぁ気張らず頑張りな」

 そう言い終わると、ベルモントと名乗ったドラゴンさんは出口の扉を指し示す。
 そして話は終わった言わんばかりに僕に背を向け、またもぞもぞ机の上で作業を再開した。

 ………、えっそれだけ…?

 当然の如くその後の言葉を待った僕は、イメージしてた展開と全然違う事に肩透かしをくらった。てっきり案内人の人に導かれながら、神の代理人として何かするかと思っていた。そもそも神様が代理人を立ててまでさせたいことが島を出て行くことなんて、何の意味があるんだろうか一体…。
 
 未だ立ち尽くす僕に気が付いたのか、ドラゴンさんは再びこちらに目を向ける。

「…まだ何か用かい?」
「あの…、僕、レグルス様という神の代理人です。」
「それはさっき聞いたよ。」
「…、この後どうすればいいんですか?」
「それはさっき言ったろ、この島から出て行けばいいんだ」
「おすすめの方法は?」
「それを話したら、お前さんを代理人に選んだ神の資質を問えんじゃろうて…。」
「資質を問う?神様の??」

 部屋に微妙な空気が漂い始める。
 お互いの事前の認識が違うのだろう。話がかみ合っていない。
 昔リーダーが見張りの仕事を受けに現地に行ったら、野菜の送り先と逃げたら地の果てまで追うと無駄に脅された時に状況が似ている。その時の解決策はシンプルだった。疑問に思った事は聞く、ただそれだけだ。

「あの…、そもそも【選定の儀】ってなんですか?」
「お前さん本当に神の代理人であってるか??」

 僕の質問に怪訝そうな顔をしたドラゴンさん。
 意外に爬虫類の表情って読めることがわかる。
 でもその表情はちょっとやめてほしいな。
 僕が悪いわけじゃないないのになんかいたたまれない気持ちになるんだけど。

 とりあえず場の空気を変えるため、ドラゴンさんに僕はそれはそれは可愛いエンジェルスマイルをプレゼントしてあげた。首をかしげられたけどね!
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