これは少年ラーズの異世界物語

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第9話 船頭さんとライオンさん

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 主神、選定の儀、真なる椅子への到達、島から出る。
 ベルモントさんとのやり取りで僕の置かれている状況はだいたい理解できた。
 ここが地球ではないことも。レグルス様に勤労意欲がないことも。

 代理人に課せられた使命は最終目的地である【真なる椅子】に辿り着く事。
 レグルス様に結果を期待されていないが、ベルモントさんの先に進んだ方が良いという言葉を信じて行けるところまで行くつもりだ。

 まずはこの島を出る、それが僕の第一目標。

 この島は塔の頂上から見た限り海に囲まれた小島。橋で隣の島とつながっているわけではない。出る為には船が必要だ。
 代理人を選んだ神様の資質を問う試練らしいけど、話を聞く限り随分と簡単なようにおもえる。ここがスタート地点だからだろうか?

 とりあえず船着き場へ向かう為、カラフルな布屋根が連なる市場を通り抜けていく。市場は呼び込みの声もなく、観光客もまばらで落ち着いた雰囲気だ。

 市場はどこからかゆったりとした民族音楽が流れ、食欲をそそる香ばしい香りも漂っている。店頭には食べ物だけではなく、剣などの武具や宝飾類、生きた妖精なども並んでいた。

 僕は店頭の籠に入っている妖精に話しかけようとしたら、黒い武骨な金属の首輪をつけた店主に「指は近づけるなよ」と釘を刺された。「いたずらなんてしないよ」と答えたら、「ちょっと前に指を食いちぎられたアホがいるから指を近づけるなよ」と言い直された。この世界の妖精は凶暴で肉食のようだ、地球の妖精が草食かは知らないが。

 僕はついでとばかりに船着き場のことを聞いてみた。

「島を出る船を探しているんだけど、どこから出ているの?」

 店主のおじさんの眉毛がピクリと動くと、妖精の餌の準備をしていた手が止まってこちらを向いた。

「その若さで神の代理人とは恐れ入るね。この道を真っ直ぐ行けば、海岸に出る。そこにチケット屋があるから行先をいうんだな。」

 親切な店主がカウンターから身を乗り出し道を指し示す。
 そしては僕はお礼と共に疑問を口にする。

「何で代理人だとわかったの?」
「そりゃ、この島に入るには船で入ってくるか、大賢者ベルモントに拉致られるかの二択しかないからさ。出るのも同じ。それを知らないってことはそう言う事さ。」

 去り際にトラブルは起こすなよと言われた。
 そんなに僕ってトラブル起こすように見えるのかな?

 愛用の自動小銃は失ってしまったから、見た目はいたいけで純粋無垢な普通の子供にしかみえないはずなのに。足につけたホルダーから見える銃がそう見えさせてるのかもしれないね。

|||||


 船着き場がある海岸に着くと潮風が一段と濃くなった。
 遠くからだと黒一色だった海も波が白く受ける印象もまた違う。砂浜も広がっているが、夜の海を楽しむ人はいないようだ。

 海岸からいくつも伸びる木製の桟橋には、ボートぐらいの小さな小舟が数多く停泊しているのが見える。異質なのはその全ての小舟に、頭から真っ白いローブを被った船頭が質素な木製のオールを抱え、微動だにせず沖を眺めているとこだ。

 少し離れた所にチケット屋さんと思わしき建屋は見えるが、僕は残念ながらお金を持っていない。そんな僕が船に乗る方法なんて一つしかないだろう。
 
 僕は当然のごとく船頭に近づき、銃を突きつけた。

「すみません、この島から出ていきたいのですが船に乗せていただけませんか。行先は治安が良ければどこでもいいです。」

 鉛玉でのお願い。僕が唯一できる交渉術。上手くいかなかったら鉄火場になるのが欠点だが、物事を進めるには有効な手段だと思う。しかし、銃口を突き付けられても船頭さんはこちらを振り向くことすらしなかった。

パンッ!

 海面から小さな水しぶきき立ち上がり、波音しか無かった場所に銃声が響く。

「僕は本気です、あなたの代わりは他にもいますから。次は当てます。」

 実際に代わりはいた。僕がいる桟橋ですら4隻の小舟が停泊している。もちろん全て船頭付きでだ。ただ不気味なのは、このやり取りを見ているはずの他の船頭が、誰一人微動だにせず未だ沖を眺めている点だ。

 この船頭達もこの光景も。何か良くないものを感じる。昔誰かに聞いた死んだ人間を冥界へ渡す死者の川岸を連想させてくる。

 そして未だに銃口を向けられている船頭はこちらを見向きもしない。

 さて、どうするか…。撃つことにためらいはないが、流石にここまで無反応だと困るな。目的は運んでもらうことだからな。

「坊主、脅しても意味ないぜ。それは大賢者の魔法で出来ている人形さ。インプットされてること以外何もしない。」

 僕の行動に答えるかのように突然声を掛けられた。
 振り返るとそこには、3m近い背丈があるライオンの頭した人間と二十歳ぐらいの眼鏡をかけネクタイをしたスーツ姿の女の人が立っていた。

 ベルモントさんで多少慣れたけど、ファンタジー生物にはまだドキドキする。そして女の雰囲気はよろしくない。薄ら笑いを浮かべ僕を見定めているように見える。

 女の方は恐らく護衛だな、僕なんかよりはるかに場慣れしている気がする。

「そんな身構えんなよ、俺はかなり人がいい。欲しいものも他人に願わず自分の力で手に入れるしな」

 自画自賛するライオンさんの手に赤い光が集まりだしたと思ったら、長さ2mはありそうな大剣が突然姿を現した。
 するとその瞬間、近くにいた船頭が上下真っ二つに切り離されたのが視界に入り込むと、船頭の上半身がゆっくりと重力によって海へと落ちていく。
 
 剣筋は見えなかった。振りぬいて止まっている剣と真っ二つに分かれた船頭、そして今立ち上がった水しぶきが揃って初めてそれが切られたことを認識できた。

 ライオンさんは凶暴、把握。
 ところでレグルス様、今からでも遅くないのでちょっとスタート地点変えてくれませんか?見慣れた人間しかいないところがいいです。

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