これは少年ラーズの異世界物語

仮名文字

文字の大きさ
21 / 26

第21話 魔導塔倒壊

しおりを挟む
 それは夜を一瞬の昼に変え、島の全域に轟音は轟かせ、大地を揺らした。

 種の頂点に立ったドラゴンの住処を中心に吹き荒れた爆風は、市場のカラフルな布屋根を空へ吹き飛ばし、一拍遅れてきた瓦礫の破片は周囲一帯に風穴を無差別に開けた。

 爆心地となった部屋は未だ人が住めない熱量を保持している。
 部屋に開けられた大穴の縁にあるレンガは、魔法の絶する熱量を受けて溶け出し、今なお赤く己の存在を誇示していた。
 しかしその存在を無視するものがいた。大賢者ベルモントだ。
 かのドラゴンは平然とそれらに足跡を残し、全てが燃え尽きた部屋の中で、一人自身が吹き飛ばした者の行方を捜していた。
 
「久々過ぎて、加減を間違えちまったようだね、フェフェフェ…」
 
 自身の住処に壊滅的ダメージを与えたのにもかかわらず、気にも留めない大賢者。
 それとは対照的に、塔の中腹が半分以上吹き飛んだ惨状を目の当たりにした多くの者達は、詳細な状況を確認することもなく海岸へと逃げ出した。
 
 大賢者の奴隷達は冷静だった。彼らもまたベルモントに出会うまで、人の身でありながら国や世界から大罪の烙印を押された者達である。これ程度の事など見たこともあるしやってきた過去がある。
 
 えぐれた塔を見て、彼らの頭にあるのは何の為にという疑問だけだった。
 誰がと問うことに意味など無いし、大賢者の身をあんじる者など誰一人いない。
 
 ベルモントがついに世界との戦争を始める狼煙を上げたと馬鹿な考えを持つ者も現れる中、魔導塔がミシミシと不穏な重低音を響かせ、倒壊の予兆を辺りに知らせた。


|||||


 吹き飛ばされた女の子。
 身体から火の粉を散らし、風切り音を上げながら未だ島の上空を飛んでいた。
 街を越えほぼ直線に近い軌道のまま海へと着水すると、天まで伸びる高い水柱を生み出した。
 
 海水のおかげでまとわりついていた炎は消えたものの、彼女の全身は既に炭化し身動き一つ取ることが出来ないでいる。 
 それでも神に作られた彼女の命はついえなかった。
 無数の気泡に抱かれながら深い海の底へと沈んでいく中、自身を人間へと作り替えた神との会話を静かに思い出していた。

|||||

「やぁ、私の愛しい子。上手く星丸ごと自分のものに出来たようだね」
「………」

「別な事をやってもらう予定だったが、選定の儀の開催が決まってしまった。主神ゼファー様がたった100年姿をお見せにならなかっただけで。本当に忌々しい。」
「………」

「きっと法神か幻神の薄汚い手によって、今もどこかで拘束されているに違いない、そうに決まっている!!」
「………」

「憎い…、ゼファー様を独り占めにする奴が。あの自愛に満ちた笑顔を独占する奴が憎い!!」
「………」

「おや、慰めてくれるのかい?」
「………」

「優しい子だね」
「………」

「上手く育ってくれたのに非常に残念だが、代理人は人でなくてはならないらしくてね。送り込むには身体を1から作り直さなければならないだ。頑張れるかい?」
「………」

「ありがとう、私の愛し子。ゼファー様の椅子を簒奪する愚かな神々の代理人を皆殺しろ。主神はゼファー様以外ありえない。あっていいはずがない!!!」
「………」

「頼んだよ。私の愛しい子よ。君なら必ずやれると信じているよ」
「………」


|||||


「倒れるぞー!!!」

 100m以上あるへし折れた塔の先端は、星空からゆっくりと方向を変え、島を横断するように大地へと激突した。
 衝突によって下敷きとなった建屋の残骸を空へと舞い上がらせ、砂埃が島にいた者達の視界を広く奪っていく。島には怒号が飛び交い、恨みの呪詛があちこちから吹き出したが、その矛先を大賢者に向ける愚か者は誰一人いなかった。

 一方、水柱が立ち上がった砂浜では、無数の黒い蔦が白波の中からその姿を現した。絨毯のように広がりを見せたその蔦は、砂浜でうごめき集まると一つの巨大な蔦で出来た黒い球体へと形状を変えた。
 
 その球体の中から、全身が炭化し、性別を判別するのも難しくなったそれは現れた。
 かろうじて人の形をしたその姿を見て、笑みを浮かべたのは大賢者だ。

「死んでなくてよかったよ。形すら残っているなんて、随分といい身体を親紳からもらったみたいだね」
 
 パキリパキリと焦げた部分が剥がれ落ちると、その奥から傷一つない女の子の白い肌が現れる。顔の焦げが剥がれ落ちると、女の子もまた笑みを浮かべていたのが、大賢者にも見て取れた。

 この世界の生き物の強さを計るために刃を向けた結果だ、彼女に不満など当然なかった。むしろ前世とは違う人の姿で身動きすることの楽しさや、初めて出会う自分にとって脅威となる面白い存在の出現に喜びを覚えていた。

 二人の視線が交差する。
 
「さあ、少し遊んでやるよお嬢ちゃん。それがお望みなんだろ?」

 声が届くはずがない距離だったが、彼女の言葉が終わった直後、女の子が纏う黒い蔦は数倍にも膨れ上がり、ベルモントの元へと女の子を急速に運んでいった。

 



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...