22 / 26
第22話 火の手が上がる交差市場とすれ違う意思
しおりを挟む僕は護衛の人に抱えられたまま、海岸と塔のちょうど中間近くに位置する場所まで屋根の上をつたって逃げてきた。人混みを避ける為だ。
建屋の中にいた人達もぞろぞろと路上に顔を出し、状況を把握する為に奔走している者も見受けられる。
島に混沌した雰囲気が流れる中、周囲に目を光らせる護衛達に囲まれ、エンビーさんが僕と視線の高さを合わせる為に中腰になった。額にはうっすらと汗あり、ほのかに甘い香りも漂う。
「何があったか説明してくれラーズ。我々はベルモントの怒りを買ったのか?」
「恐らくそれは違う。見た限りだけど、僕たちに黒い蔦で攻撃してきた女の子とベルモントさんの戦闘に巻き込まれただけだと思う」
僕の予測に護衛達がおのおの口を開く。
「全く感じなかった魔力が、爆発の直前にいきなり感じる事が出来たのは、やはりベルモントの魔法だったか…」
「でも感じたのはかすかだった、あんな威力出せるものなの?」
「魔力も姿と同じで見えないようにしてたんだろ、あまりに大きすぎて隠せるレベルを超えたから、俺達にも感知できたんじゃないのか?」
エンビーさんは護衛の魔法うんぬんよりも、女の子との動向が気になるようだ。
それもそのはず、ベルモントさんとの交渉まであと少しの所で邪魔された感は否めない。
「なぜベルモントと戦闘など…。奴隷が反旗を翻したのか?」
「あの子も僕と同じ代理人の一人だと思う。僕に君も代理人か?って聞いてきたし、首輪も着けてなかった。ちなみにだけど他の代理人がベルモントさんと揉めた話は聞いたことある?」
「集めた情報が正しければ、それは無いはずだ。もしそんなことがあれば、ラーズに声をかける事はなかったかもしれない」
どうやらベルモントさんと揉めるのは正規の脱出ルートではないようだ。
まぁ僕とっては今更だけどね。
ドンッ!ドンッ!!ドンッ!!!
突如、僕達がいる位置から右手の方に広がる街や市場からいくつもの爆発と火柱が上がった。それは戦闘継続を意味し、あの爆発をあの子が生き抜いたことを表していた。
威力はまるで空爆だ…、いやそれ以上か?
その中をあの子は未だ生きて戦っている。まさしく僕と違って神の代理人と名乗っても名前負けしない。ベルモントさんが僕を脆弱な部類の子供と評価した理由も、あれと比較されたら納得の評価と言わざるを得ない。
「エンビー、これからの方針を決めたい」
護衛のリーダーを務めるグレドさんの掛け声に、エンビーさんは反応しなかった。
いや声をかけられる前から、眉間にしわを寄せたまま目を瞑り、何かを考え込んでいる。
その様子を他の護衛達は周囲を警戒しながらも、かたずをのんで見守っているが、グレドはエンビーさんの様子にかまわず話を続けた。
「俺はこの島からの脱出を提案する。自分の島を平然と吹き飛ばすような奴だ。場合によっては島丸ごと吹き飛ばしてもおかしくない。御話のベルモンドはそれが実現可能で、そして平然とそれをやるタイプだからな」
エンビーさんはまだ目をつぶったままだ。
未だ離れているとは言え、火柱も爆発も止まることはない。
「どの道この状況で交渉なんて不可能だろう。エンビー、どんな思いでここにいるか知らないが、悪いが決断をしてほしい。もしノーだというのらば違約金を払ってでも俺達はおろさせてもらう。」
判断を仰いでるようで、選択肢を一つしか持たせないグレドさん。
その信用を捨てる覚悟を示したグレドさんに反応したのか、エンビーさんは目を開け、一度星空を眺めた後大きな深呼吸をした。
そして重くなったその口を開いた。
「わかった、グレド。全員脱出の準備を始めてくれ」
グレドさんは深くうなずき、チケットを配り始めた。
別の男は通信機を取り出し、恐らく他の仲間を呼び出し始めたのだろう。
ここまでか…、仕方のない事だ。僕でも同じ判断をする。
エンビーさん抜きでも、ドクさんが交渉に応じてくれるかわからないが頼りにいくしかないか…。
エンビーさんは護衛から受け取ったチケットをおもむろに見つめた後、それをそのまま僕へと差し出した。
彼女の瞳は、死神が手ぐすね引いて待ち受ける戦場へ向かう時に、よく見た目と同じだった。
「ラーズも今すぐこの島を出ろ。私の故郷なら悪くない選択肢のはずだ。ドクには私から言っておく」
いやいやいや、そうじゃないだろ。この人は本当にもう…。
0
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる