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────0章『王様と彼らの泥舟』
■9「うたた寝の示す予見」
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****♡Side・久隆
────時間はほんの少し遡る。
久隆は悩んでいた。
自分の打ち出した計画に“本当にいいんだね?”と父に確認をされ、自分の持てる全てをかけ犠牲にしてでも『彼らの恋』を守ると心に誓う。そのこと自体になんら躊躇いはない。
では、何が問題だったのか?
“片倉 葵に接触するチャンス”がなかなか訪れないのだ。正直、今日のパーティーには葵が参加すると思っていた。先日の父の打診も暗に“チャンスが来る”と言われたのだと思っていたから、肩透かしを食らったような気分で。学校で葵は、ほぼ咲夜と常に行動を共にしており、クラスメイトである咲夜とは会話もしないのに、葵だけを呼び出すのは不自然。故に警戒心を生んでしまうのではないか、と懸念してしまう。
久隆は大里と共に屋敷の二階にある夕食を終え、彼を背もたれ代わりにして寄りかかる。母親を失ってからというもの、久隆は特に、兄にベッタリ甘やかされてきた。将来副社長に就任する兄が高校に入り、父の秘書となって仕事について勉強を始めるまで、兄が母代わりとでも言うように側に居てくれた。だが今は忙しく、ほぼ屋敷には顔をださない。K学園大学付属大学部に通う兄は、そのキャンパスと、父が社長を勤める大崎グループの本社との間に、マンションを借りている。
そのせいだろうか。大里を背もたれ代わりにするのは習慣になっていたから、それだけが原因とは言えないが、人肌の温もりが心を落ち着けてくれた。久隆には、兄の代わりにしているつもりはないが。
その大里から聞いた“片倉に対する集団強姦未遂”事件のことを思い出すと、胸くそが悪くなる。たまたま風紀に通報してくれた生徒がいたから良いものの、そうでなかったならと思うとゾッとした。こんなところで二の足を踏んでいる場合ではないのに、自然に接触する方法が見つからず落胆し、焦るばかり。
大里は一人で楽しそうに映画を観ていたが、こんな時、彼は話しかけて来ない。それはとても有難いこと。最も、話しかけられたところで「うるさい」と返すだけだが。彼はそれを知ってか知らずか、久隆が考え事をしている時には空気のように振る舞うようになった。程よい雑音と体温が思案するのにはもってこいである。なんら結論も出ないまま久隆はウトウトとしはじめて…。
夢と現実の狭間で“泥舟に乗った二人”が見えた。今にも沈んでしまいそうな泥舟に助け出そうと手を伸ばす自分。それは思いもよらないことで、チャンスが訪れることを予見しているかのようでもあった。
────時間はほんの少し遡る。
久隆は悩んでいた。
自分の打ち出した計画に“本当にいいんだね?”と父に確認をされ、自分の持てる全てをかけ犠牲にしてでも『彼らの恋』を守ると心に誓う。そのこと自体になんら躊躇いはない。
では、何が問題だったのか?
“片倉 葵に接触するチャンス”がなかなか訪れないのだ。正直、今日のパーティーには葵が参加すると思っていた。先日の父の打診も暗に“チャンスが来る”と言われたのだと思っていたから、肩透かしを食らったような気分で。学校で葵は、ほぼ咲夜と常に行動を共にしており、クラスメイトである咲夜とは会話もしないのに、葵だけを呼び出すのは不自然。故に警戒心を生んでしまうのではないか、と懸念してしまう。
久隆は大里と共に屋敷の二階にある夕食を終え、彼を背もたれ代わりにして寄りかかる。母親を失ってからというもの、久隆は特に、兄にベッタリ甘やかされてきた。将来副社長に就任する兄が高校に入り、父の秘書となって仕事について勉強を始めるまで、兄が母代わりとでも言うように側に居てくれた。だが今は忙しく、ほぼ屋敷には顔をださない。K学園大学付属大学部に通う兄は、そのキャンパスと、父が社長を勤める大崎グループの本社との間に、マンションを借りている。
そのせいだろうか。大里を背もたれ代わりにするのは習慣になっていたから、それだけが原因とは言えないが、人肌の温もりが心を落ち着けてくれた。久隆には、兄の代わりにしているつもりはないが。
その大里から聞いた“片倉に対する集団強姦未遂”事件のことを思い出すと、胸くそが悪くなる。たまたま風紀に通報してくれた生徒がいたから良いものの、そうでなかったならと思うとゾッとした。こんなところで二の足を踏んでいる場合ではないのに、自然に接触する方法が見つからず落胆し、焦るばかり。
大里は一人で楽しそうに映画を観ていたが、こんな時、彼は話しかけて来ない。それはとても有難いこと。最も、話しかけられたところで「うるさい」と返すだけだが。彼はそれを知ってか知らずか、久隆が考え事をしている時には空気のように振る舞うようになった。程よい雑音と体温が思案するのにはもってこいである。なんら結論も出ないまま久隆はウトウトとしはじめて…。
夢と現実の狭間で“泥舟に乗った二人”が見えた。今にも沈んでしまいそうな泥舟に助け出そうと手を伸ばす自分。それは思いもよらないことで、チャンスが訪れることを予見しているかのようでもあった。
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