R18【同性恋愛】『戻れない僕らの日常』【絆・対・相編】正規ルート編

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────3章『本格始動、宝船』

■9「懸念、その朝」

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 ****♡Side・久隆

 翌朝、久隆は話し声で目が覚めた。
「うん?」
 周りを見渡すと、咲夜と葵はいつの間にかリクライニングチェアの方に移動し、ブランケットをかけて寝ている。自分はどうやら、ソファーでそのまま寝てしまっていたらしい。誰かがかけてくれたブランケットを捲り、声のする方に目を向けると、大里の話し声が聞こえた。

「いや、だからダメだって」
 彼は部屋の隅で電話をしているらしい。
「違う。そういうことじゃないんだよ」
 大里は久隆と同じで、用がある限り通話という手段を取らないタイプだ。彼は一所懸命、電話の相手をなだめているようなのだが。
「泣くなよ」
 元セフレの誰かだろうか、大里は最近まで、来るもの拒まず誰とでも身体の関係を持つようなことをしていた。
「嫌いになんてなってない。もう、そういうの辞めたいだけだよ」
 中には本気の子もいただろう、久隆は大里に”傷つけるだけだから、辞めろ”と進言したこともある。久隆は最終的に”決めるのは結局大里なのだから”と、それ以上言うことを諦めた。彼は、自分の意見など受け付けない。それが先日、突然辞めたという。
「ごめんな」

 久隆は、投げやりだった彼が咲夜や葵と近づくことで、何かしら心に変化があったのだろうかと思った。そう思うと嬉しい。もちろん最初は、大切な二人に何かされるんじゃないかと恐れていたし、心配していることもある。大里には一人、長くセフレだった子がいるのだ。話によると、相手の子は本気だったようで、告白され断ったが”セフレでもいいから一緒にいたい”とすがられ、関係を持つようになったらしい。大里は心が痛むのか、その子のことは周りから見ても分かりやすいくらいに、特別扱いしていた。

 その子に対し久隆は“本気なら大里は、辞めたほうがいい”と口出ししてしまい、若干嫌われてしまったように感じている。久隆は、その子が他の大里のセフレから何度も嫌がらせや虐めを受けているところを目撃し、止めもした。その度に彼は“聖くんには内緒にして”と、久隆に懇願するのだ。なんとも健気でいじらしい子である。優しい大里のことだ、そのことが知られたら彼のために”自分とのセフレ関係を切る”に違いないと。彼にはそれが耐え難いことなのだ。

 大里から先日、彼との関係も切ったと聞き、久隆はとても心配になった。彼は大丈夫なのだろうか、と。大里にしてみれば、彼だけ手元に置くことは他の切ったセフレたちから何かされるかもしれないという懸念がある。大里なりの守り方なのだとは思うが、久隆は何か起こりそうな予感がするのだ。恨みが自分に向くならいい、無関係な咲夜と葵に向いてしまったらと思うと、ゾッとする。確か葵はその子と、同じクラスだ。

 大里が電話を切るとため息をついており、久隆はそんな彼に、
「おはよう」
 と声をかけた。
「久隆、おはよ」
 大里の浮かない表情。
「何かあった?」
 と、問えば、
「あの子が、どうしても側に居たいって」
 という返事が。やはり彼か。
「居させてあげたら?」
 久隆の言葉に大里は、
「!」
 すごく驚いた顔をした。”セフレなんて辞めろ”という久隆からそんな言葉がでるなんてと、いったところだろうか?
「久隆なら分かっているんだろ?守ってやれる自信がないよ。あいつらが“ただのセフレ”なら、そこまで心配しないけれど」

 そう。大里に近づいてきたセフレたちは、根底が体の関係を目的としているわけじゃない。大里の作ったゲームの恐怖から逃れる為に近づいてきた奴らなのだ。大里と繋がっていれば安心だ、というような。それなのに、その安心感を取り上げられた上に一人だけ特別扱いなんてしようものなら、彼が何されるか分かったものではない、ということなのだ。

「あの子は、他の奴らとは違うから。守ってやらなきゃいけない」
 大里は言って、唇を噛みしめる。
「だからセフレなんて辞めろって言ったのに」
「俺はゲームを終わらせることは出来ない。だったらせめて、好きにさせてやろうと思っただけだよ」
 彼は額に手をやった。久隆はそんな彼に、
「大里の優しさは間違ってるよ。最後まで責任が持てないなら、与えるべきじゃない」
 と。
「今ならわかるよ」
 ”すまない”と、彼は続けて。しかし久隆は”謝罪するべき相手は俺じゃない”と思っていた。

 ****

 久隆は流れる景色をぼんやりと眺めながら、大里のことを考えていた。撮影に向かう車内では後部座席で、葵が教科書を片手に咲夜に勉強を教わっている。運転席では珍しく、和がノリノリでカーオーディオから流れる曲、Give a little  moreを口ずさんでいた。

 大里が遊び人としてセフレを作った元々の原因が、自分にあることは分かっている。自分は自分自身のことで手一杯な上に無力だったから、大里に守られているばかりで彼の為に何かしたことはなかった。

 大里と久隆は“自分を大切にしない”という部分で似ている。
 方向性は違ってはいたが。

 お互い病んでいたから助け合える仲でもなかったし、寄り添うことも出来ず、大里は久隆のためにと自分自身を犠牲にしていった。そして彼は、どんな噂が流れようとも明るく振る舞って耐えたのだ。全ては、久隆を守るために。

 だから、彼はモテた。

 末っ子で自由奔放でわがまま、なんでも自分の思い通りになると思っている大里がしてきたことがもし、誰かの為だったら?大里が久隆を守るために作ったゲームの為に、彼の心は蝕まれていく。彼の周りに寄ってくる人間は利しか求めておらず、それを知りながら、目的の為に好きにさせるのだ。

 そんな中、唯一大里の心を癒したのが三年続いたセフレのあの子。

 簡単に手放していいのだろうか?
 幸せの形は色々だと思う。
 あの子が望むことが“両想いでなくても側にいたい”
 大里が求めることが“信頼と安らぎ”であるなら。
 二人を引き離すべきではないのでは?

 自分は一度、似たような体験している。両想いでなくても咲夜を幸せにしてあげたいと願った。だから、今がある。今度は自分が大里に何かしてあげる番なのではないだろうか?だが、一人ではきっと無理だ。

 それならば...。

 久隆は頬杖をつき考え事をしていたが、意を決して車内のみんなに声をかける。
「ねえ、頼みがあるんだ。みんなに」
 今度はみんなで、二人を守ってあげる番なのだ。三人に概要を話すと、こんな意見が葵から挙がる。
「この人数では無理なんじゃないかな?大里のセフレがどれくらいいるのか解らないけど」
 と。
「わかってる、そこなんだよネックは」
 と久隆が答えると、咲夜が葵を肘でつつく。
「サク、どうしたの?」
「生徒会に応援要請したらどうかな?生徒会に俺たちの同中の鶴城先輩がいるじゃない」
「あ、そうだね!今副会長だっけ」

 生徒会。
 そうか、生徒会...。

 久隆はふと、咲夜が内部生に絡まれていた時のこと、葵が絡まれていた時のことに思いを巡らす。K学園でのイジメの取り締まりは本来、風紀委員会の仕事。まだ起きていないことをどうにかすることは出来ないかもしれないが、これは国の機関ではなく生徒が運営しているものだ、風紀委員会や生徒会に事情を説明すれば未然に防ぐことも可能かもしれないと思った。
「生徒会の方は、二人に任せる。俺は風紀委員会に応援要請してみる」
 と、久隆は葵と咲夜に告げる。”三人よれば文殊の知恵”とは良く言ったものだ。隣で和が嬉しそうにニコニコしている。久隆はまた絆が深まっていくのを感じていた。こうやって、少しづつみんなで問題を解決してゆけばいいのだと。

 もう、自分は一人じゃない。

 支えあって、信頼しあって、寄り添っていける人がいるということは有り難いことなんだと、久隆は感じていた。

「ねえねえ、久隆くん」
「うん?」
「話変わるんだけどさ」
 葵が、”昨日、大里と話していたのだけど”と前置きをして。
「今度3on3やらないか?って」
「え?人数足りなくない?」
 久隆が”五人しかいないよ”と言うと葵は、
「佐倉さん誘えばいいじゃん」
 と、久隆の専属運転手のことをあげる。佐倉はヤンキー上がりで、ジムに通っておりスポーツ万能な、気さくで人懐こく明るい人だ。
「なるほど、庭にバスケットゴール買おうか」
 と久隆は、スマホで検索をかける。

「久隆くんって、スポーツは得意?歌は音痴だったけど」
 スマホの画面を見つめる久隆に対し、葵の毒舌に咲夜があんぐりと口を開けて固まった。
「どうかな?友達いなかったから、体育でしかやったことないけど」
「えーッ」
 と、葵が悲鳴をあげる。
「音痴、運動も音痴!」
「まだ、音痴かどうかわからないだろ」
 と、咲夜がフォローにならないフォローをするので、久隆が苦笑いをした。
「ところで、和。青ざめてるけど、どうかした?」
 久隆は先程から前を凝視して運転をする和が気になる。
「い、いえ」
「佐倉と何かあった?」
 と、久隆が問えばギクリとし。
「?」
「大丈夫です」
 久隆は不思議そうな顔で和を見ていた。

 ”きっとうまくいく”久隆は、そんな風に思っていたのだが...。そうは簡単に問屋は卸さない。オーマイガッ!と嘆きたくなる事件が久隆を待ち受けていたのである。
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