R18【同性恋愛】『戻れない僕らの日常』【絆・対・相編】正規ルート編

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────2章【久隆と葵】

□5「海岸にて」

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****♡Side・葵

「へぇ、アラビア料理って、こんな感じなんだ。うまそう」
久隆の姿が見えなくなると、大里が花火を片手にスマホでアラビア料理を検索していた。“どんなの?”と、咲夜も大里の手元を覗き込んでいる。
「美味しそうだよね、味の想像つかないけど」
と、葵。
「今度、みんなで行かね?」
と大里が、提案すれば咲夜が“行きたい”と答えた。以前であれば「花火見ろよ」と突っ込みを入れそうな大里であったが、段々葵たちのマイペースに馴れてきたようにみえ、コミュニケーションを優先するようになった。

「うし、最後の一本も終わり」
おしゃべりに夢中で全く手元など見ないまま、消化されていった花火たち。周りからしたら“何しに来たんだ?コイツら”という状況も、彼らにとっては日常茶飯事だ。
「片付けしよ」
久隆と彼の兄が戻らぬまま、葵たちは片付けを始めることにした。
「ねえ、大里」
葵はバケツの水を捨てながら、大里へ素朴な疑問をぶつけてみる。
「なんだ?」
と、しゃがんで他人の残したゴミを拾っていた大里が顔を上げた。

大里って、こういうとこ凄いよな。
うん。

「久隆くんって、和食が好きなの?」
「あー」

それはホントに素朴な疑問というもので、どこ食べに行くかという話になると久隆は和食系を選ぶ。そのわりには大崎家料理長の南が作ってくれるものは何でも美味しそうに食べるし、好き嫌いなさそうに見えるのだ。
「あれは完全に習慣のせいだよ」
「え?どういう意味?」
大里は“何故、葵が”久隆が和食が好き”と思ったかをすぐに理解したよううで、そんな風に答えをくれた。
「久隆の家族がちょっと変わってるから」
「?」
「たとえば“イタリアン食べたい”なんて言おうものなら、イタリアまで連れて行かれちゃうからさ」
「は?!」

何それ、本物趣向?
に、しても日本にいくらだって本場のレストランあるじゃないの。

「久隆のお祖父ちゃんがそういう人なんだよ」
「めんどくさー!」
「せっかくなら現地で食べよう、みたいなね」
久隆から親子三代クレイジーな奴らだ、と聞いたことはあるが不憫である。
「和食だったら、いちいち外国連れていかれることがないから習慣で和食っていっちゃうんじゃね?」
「なーんだ、そうだったのか」
「うち遊びに来ると、いつもピザ頼むし。意外と洋食の方が好きなんじゃないかと思うよ」
大里はゴミを拾い終えると立ち上がって、ビニールの口を閉じた。
「大里の家?一人暮らしだっけ?」
「そそ。ねーちゃんたちが苦手でさ」
四人の中で兄弟がいないのは自分だけなんだなあ、と葵は思ったのだった。

****

葵は、久隆と彼の兄が消えた方を見つめていた。

まだ戻って来ないなぁ。
話し込んでいるのかな?

隣の咲夜に目を移すと、彼も心配そうな表情をしている。葵が彼に何か言葉をかけようと思っていると、大里から話かけられた。
「そういえば、美崎先輩は承諾してくれたのか?」
と。美崎とは風紀委員会の委員長である。
「ああッ、ギター??」
それは学園祭の出し物のこと。
「おう」
「うんッ。OKだって」
「それは良かった..って、いつの間に⁈」
大里の後方から話し声がし彼が振り返ると、久隆と咲夜が何やら話をしていた。葵はきづいていたが、気配がしなかったため大里がえらく驚く。
「今、来たとこ。飯行こ」
「お、おう」
「久隆くんッ」
葵は久隆に駆け寄ると抱きついた。これは本能的なものだろうか、群れの中のボスが誰なのかを感じとり、甘えると落ち着く。ボス、それは意外にも久隆の兄ではなく、久隆自身であった。

「葵ちゃんは、甘えん坊だね」
久隆は甘えられるのが好きらしく、葵が甘えればいつでも甘やかしてくれた。それは周りからみると、まるで幼児と母のようである。
「兄さんが美味しいとこ、連れていってくれるってさ」
「やったぁ!」
久隆の兄はというと、和と何か話をしながら車を止めた方へ向かっている。
「お兄ちゃん、マイペースな人だねぇ」
葵は二人の背中を見つめ、そう溢す。花火に強引に参加したと思えば、車で寝ているし、突然来たかと思えば、何も言わずに戻る。もっと極端に言えば、貴方の目には和しか映らないのか、と突っ込みたくなるのだ。

「いつもはあんなんじゃないんだけど。ごめんな」
久隆が代わりに謝る横で、大里も不思議そうな顔をする。
「大崎先輩ってもっと、フレンドリーな人ってイメージなんだけどな。多少、口数少ないけど」
と、添えて。咲夜は彼のことをあまり知らないのか黙っている。
「さて、行こうか」
と久隆がみんなを促し歩き始めた。

「久隆くん、何の話してたの?」
葵は気になって彼に質問をする。
「夕飯の場所と、いつまでゆっくりできるのか聞いたんだけど月曜日から父の出張についていくんだって」
「へぇ、忙しいんだね」
「明日時間があるなら、葵ちゃんたちをどこか連れていって貰おうと思ったんだけど、予定あるみたい」
彼と大里は明日一緒にでかけるため、自分たちのことを心配してくれたのだ、と気づく。
「もしかしたら、和も予定が入るかも知れないから、送り迎えとかは佐倉に頼んでね。俺からも言っておくし」
なんという、至れり尽くせりの待遇。葵は彼の心配をよそに“明日はサクとどこ行こうかなぁ”などと考えていたのであった。
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