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────5章【葵と大里】
□3「彼らにとっての脅威」
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****♡Side・大里
「話って?」
大里は葵に呼ばれ、図書館近くの喫茶店にいた。ここで待ち合わせをするのは何度目だろうか。確か事件の前にもここに来たことがあった。たった数か月前のことなのに自分は、遠い過去に感じている。葵は窓際の席で、オレンジジュースを飲みながら、大里を待っていた。
「来るなり、それ?随分とご挨拶じゃない?」
葵の言う事は最もだが、気まずくていたたまれないのだ。
「ねえ、座ったら?」
「ああ」
どうして自分は、葵が怖いのだろうか。久隆とのことを咎められるのは分かっている。良くないことをしてしまったことも、分かっていた。
「何があったの?」
葵はため息をつくと、メニューを大里の方に押しやって。
「結婚しようって言った」
観念して全てを打ち明けようとした大里は、メニューに視線を落としながら、極めて冷静にそう告げる。一瞬の間があった後、
「はあ?!」
と葵が素っ頓狂な声を上げた。店内はざわついている為、目立つことはなかったが、
「頭どうかした?」
と素で問われる。
「大崎先輩…久隆の兄、が霧島の叔父である都筑と婚約した」
「あ、うん」
恐らく、葵も聞いていたのだろう。
「二人が婚姻してしまえば、霧島は親戚になる。初めの計画で必要とされていた、久隆と霧島の婚姻が絶対必要というわけではなくなる」
大里の話を聞いていた葵は、ふっと窓の外に目をやった。それは、自分も咲夜と婚姻することが出来るという道を示唆している。複雑な心境なのだろう。
「久隆は、このまま計画通りに霧島と婚姻するのは、片倉に対してフェアじゃないと思ったようだ」
そこで大里は一旦話を切った。店員が注文を取りに来たためだ。大里はコーヒーを注文すると、再び葵に視線を向ける。
「それってさ。俺も二人を揺るがす存在になっちゃってるってことだよね」
”どうして、すぐに言ってくれなかったのだろう”と、彼は呟くように言った。
「言えるわけ、ないだろ」
と、大里。
───フェアではないが、せっかくのチャンスも失いたくなかった。だから久隆はあんなに苦しそうだった。
「久隆にとっては、霧島も片倉も大切な存在なんだから。二人をくっつけてしまったら、自分は不要になると思っていたんだと思う」
自分だけじゃない。葵も傷つけることになるから、話をしたくなかったのだ。葵にとっても、久隆と咲夜は大事な存在。もし、二人を失ってしまったなら?
「久隆くん、バカだよ。そんなことあるわけないのに。ずっとずっと三人で一緒に居ようって約束したのに」
俯いた葵の瞳から涙が零れ落ち、テーブルを濡らす。大里はカーディガンのポケットからハンカチを取り出すと、彼に差し出した。彼は、震える手で、それを受け取る。
「だから俺は、そんな思いするくらいなら、俺と結婚しようって」
「大里」
「うん?」
「俺たちは、三人で一つなんだ。久隆くんが手を差し伸べてくれた時から、ずっと」
ハラハラ零れ落ちる涙。
「誰が欠けてもダメなの。お願いだから、俺たちのバランス崩さないで」
久隆はあの日、今にも沈みそうな泥船に乗って、救いのない大海原に投げ出された二人に手を差し伸べた。その相手の一人が運命の相手と知りながら、諦める選択をして、救うことに決めたのだ。心がボロボロになりながらも、必死で。それから三人は小さな小さな船にのり、幸せを模索し始めた。いつしか互いが固い絆で結ばれ、互いが居ればそれだけで幸せだと知ったのだ。
───俺は、その小さい船を簡単にひっくり返せる存在…。
自分が彼らにとって、どれほど脅威なのか。今さらながら気づかされた大里は、酷くショックを受けたのだった。
「話って?」
大里は葵に呼ばれ、図書館近くの喫茶店にいた。ここで待ち合わせをするのは何度目だろうか。確か事件の前にもここに来たことがあった。たった数か月前のことなのに自分は、遠い過去に感じている。葵は窓際の席で、オレンジジュースを飲みながら、大里を待っていた。
「来るなり、それ?随分とご挨拶じゃない?」
葵の言う事は最もだが、気まずくていたたまれないのだ。
「ねえ、座ったら?」
「ああ」
どうして自分は、葵が怖いのだろうか。久隆とのことを咎められるのは分かっている。良くないことをしてしまったことも、分かっていた。
「何があったの?」
葵はため息をつくと、メニューを大里の方に押しやって。
「結婚しようって言った」
観念して全てを打ち明けようとした大里は、メニューに視線を落としながら、極めて冷静にそう告げる。一瞬の間があった後、
「はあ?!」
と葵が素っ頓狂な声を上げた。店内はざわついている為、目立つことはなかったが、
「頭どうかした?」
と素で問われる。
「大崎先輩…久隆の兄、が霧島の叔父である都筑と婚約した」
「あ、うん」
恐らく、葵も聞いていたのだろう。
「二人が婚姻してしまえば、霧島は親戚になる。初めの計画で必要とされていた、久隆と霧島の婚姻が絶対必要というわけではなくなる」
大里の話を聞いていた葵は、ふっと窓の外に目をやった。それは、自分も咲夜と婚姻することが出来るという道を示唆している。複雑な心境なのだろう。
「久隆は、このまま計画通りに霧島と婚姻するのは、片倉に対してフェアじゃないと思ったようだ」
そこで大里は一旦話を切った。店員が注文を取りに来たためだ。大里はコーヒーを注文すると、再び葵に視線を向ける。
「それってさ。俺も二人を揺るがす存在になっちゃってるってことだよね」
”どうして、すぐに言ってくれなかったのだろう”と、彼は呟くように言った。
「言えるわけ、ないだろ」
と、大里。
───フェアではないが、せっかくのチャンスも失いたくなかった。だから久隆はあんなに苦しそうだった。
「久隆にとっては、霧島も片倉も大切な存在なんだから。二人をくっつけてしまったら、自分は不要になると思っていたんだと思う」
自分だけじゃない。葵も傷つけることになるから、話をしたくなかったのだ。葵にとっても、久隆と咲夜は大事な存在。もし、二人を失ってしまったなら?
「久隆くん、バカだよ。そんなことあるわけないのに。ずっとずっと三人で一緒に居ようって約束したのに」
俯いた葵の瞳から涙が零れ落ち、テーブルを濡らす。大里はカーディガンのポケットからハンカチを取り出すと、彼に差し出した。彼は、震える手で、それを受け取る。
「だから俺は、そんな思いするくらいなら、俺と結婚しようって」
「大里」
「うん?」
「俺たちは、三人で一つなんだ。久隆くんが手を差し伸べてくれた時から、ずっと」
ハラハラ零れ落ちる涙。
「誰が欠けてもダメなの。お願いだから、俺たちのバランス崩さないで」
久隆はあの日、今にも沈みそうな泥船に乗って、救いのない大海原に投げ出された二人に手を差し伸べた。その相手の一人が運命の相手と知りながら、諦める選択をして、救うことに決めたのだ。心がボロボロになりながらも、必死で。それから三人は小さな小さな船にのり、幸せを模索し始めた。いつしか互いが固い絆で結ばれ、互いが居ればそれだけで幸せだと知ったのだ。
───俺は、その小さい船を簡単にひっくり返せる存在…。
自分が彼らにとって、どれほど脅威なのか。今さらながら気づかされた大里は、酷くショックを受けたのだった。
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