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────1話*俺のものになってよ

19・嬉しい理由を理解する時

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****♡side・塩田

 塩田は浮かれていた。顔には出なかったが。
 雑誌を眺めなから物思いに耽りつつ。

──デートか。

 電車でんまから誘ってくれたことが何より嬉しくて、その意味を理解する。どこかへ行くことに意味があるわけではなく『一緒の時間を共有しよう』と大切な人に誘われることに意味があるのだと。

「またそんな物を見て」
 影が射し見上げれば、塩田の背後から手元を覗き込む副社長の皇。塩田は電車じゃないのか、と舌打ちをした。
「上司に向かって、舌打ちするなよ」
「ふん」
「業務中に恋愛雑誌なんか読みおって。女子高生かッ」
「サラリーマンですよ」
 何故か板井が横から答える。
 彼はため息をつくと、
「電車はいないのか。居たら居たでイチャイチャして目障りだがな」
と嫌みをたっぷり含みながら塩田の隣に腰かける。
 上品な香水が鼻先をかすめ、彼にチラッと視線を投げた。

「その雑誌には“業務中はイチャイチャしてはいけません”と注意書きはないのか?」
 彼は眉を潜め、塩田の手元を顎で指す。
「あるわけないだろ」
「じゃあ、書け。俺様が書いてやる!」
「断る!」
 塩田は抵抗虚しく、雑誌を奪われた。仕方ない。相手は着痩せしているが、バカみたいに鍛えている筋肉質な男、敵うわけがない。

 万年筆を取り出しサラサラっと何かを書いて寄越す、彼。それを見て塩田は驚いた。
「ん? どうかしたのか?」
「いや、意外だな」
 塩田は彼と雑誌を見比べて。彼の字は恐ろしく達筆であった。
「なんだ、俺様に惚れたのか?」
「いや」
 自分勝手で、俺様な皇。彼は見た目は良いが、中身は最悪だと思っていた。しかし選ぶ香水には品があり、着ているものもキチッとした折り目がついており、達筆でもある。

──おかしいのは、言動だけか?

「なんだ。惚れてもいいぞ」
「断る」

──完璧なものが欲しいワケじゃない。
 俺は、お日さまみたいに暖かいアイツが好きなんだ。
 いつでも優しく笑う、アイツが……。

「ちょっと!」
 そこへ、他部署にて用事を済ませた電車でんまが戻ってきた。
「何、人がいない間に塩田にちょっかいだ……痛ッ」
 言い終らないうちに電車は、板井の足につまづきカウンターに激突する。
「なんでこんなとこに足出して……」
と涙目で板井を見やる、電車。
「痛ッ」
 板井も涙目だ。
「おいおい、カウンター壊す気か?」
 そこへ唯野がコーヒーを片手にキッチンから戻ってくる。

「んもッ! おのれ、悪代官」
 ”諸悪の根元は副社長だ!”と言わんばかりに電車の怒りは皇へ。
「まて、お前ら」
 さすがの彼も困り顔だ。
「少しは上司を敬う気はないのか?」
 いつものことである。塩田は見なかったことにしたのだった。
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