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────4話*水面下の戦い
4・副社長と社長と秘書
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****♡Side・副社長(皇)
「皇さん」
皇は壁に背を預け腕組みをし、深いため息をついた。
そこへ声をかけてきたのは、社長秘書の神流川である。
「ん?」
「大丈夫……ですか?」
顔をあげ、彼の方に目を向けると心配そうにこちらを窺っていた。彼は自分より年上だが、立場上敬語や丁寧語で話しかけてくる。
塩田とは大違いだな、と思いながら皇は前髪をかきあげた。皇は二十代後半となったばかりであるがあまりにも童顔な為、髪を明るく染めている。
黒髪の塩田とは違い、白が似合わないためワイシャツはいつも色モノ。特に淡いピンクや紫を好んで着用している。
皇はなんと答えていいのかわからなかった。彼は自分と社長とのことを言っているのだ。
皇は数度に渡り社長から性的な行為を求められ、応じるしかなかった。
自分の立場を考えれば強く拒否できない。それが長年日本に根付いた縦社会というものだ。
望まないことを拒否するのは正しい。だからと言って、その後のことを考えれば居辛くなるだけ。しかも女性と違って妊娠することなどない身体。騒ぐなと言われれば傷つくのは自分だ。
──それに感じていないか、と聞かれたら否定はできない。
いくら単なる生理現象とは言え、目に見える変化が伴う。心がどんなに拒否しても、身体は違う。そのことに皇は葛藤していた。
「平気ではないが、大丈夫だ」
恐らく、その言葉が一番的確だろう。
社長に乱暴な求め方をされたのは一度だけ、彼は言葉巧みに皇をその気にさせる。汚いやり方ではあるが、自分の望みを叶えるために皇の罪悪感を軽減しようとしていた。
「今度は、出張ですよね?」
「ああ」
逃げ場なんて何処にもない。
『自分は皇のことを好いてはいるが、君は単なる性欲処理だと思えばいい』と社長は言う。塩田への想いが叶わない今、抜け出すことの出来ない泥の中にいるようなものなのだ。
慣れるしかないのだと、皇は思っていた。
付き合うことは出来ないというのが最後の抵抗。誰も助けてなんてくれない。いや、助けることなんてできない。相手は社長なのだから。
「今回は私も同行しますが……」
彼が気にかけてくれることが素直に嬉しかった。しかし、自分は社長と同室。断る事なんてできない。
「恐らく、私には何もできません」
申し訳なさそうな彼を見つめる。黒髪の毛先を自然に遊ばせ、長身で中肉中背くらいの体系だが、引き締まった腕から筋肉質なのが伺える。眼鏡をかけ、いつも濃いめのモノトーンのスーツに、切れ長の目、意志の強そうな眉。いかにも優秀そうだ。
出逢ったばかりの頃は冷たい印象を持ったものだが、彼は気遣いの出来る優しい人であった。その優しさが好意でなければどんなに良かっただろうか、と皇は思っている。彼は隠しているつもりのように見えるが、皇には筒抜けだった。
──どうして好きな人だけには振り向いてもらえないんだろう……。
「皇さん」
皇は壁に背を預け腕組みをし、深いため息をついた。
そこへ声をかけてきたのは、社長秘書の神流川である。
「ん?」
「大丈夫……ですか?」
顔をあげ、彼の方に目を向けると心配そうにこちらを窺っていた。彼は自分より年上だが、立場上敬語や丁寧語で話しかけてくる。
塩田とは大違いだな、と思いながら皇は前髪をかきあげた。皇は二十代後半となったばかりであるがあまりにも童顔な為、髪を明るく染めている。
黒髪の塩田とは違い、白が似合わないためワイシャツはいつも色モノ。特に淡いピンクや紫を好んで着用している。
皇はなんと答えていいのかわからなかった。彼は自分と社長とのことを言っているのだ。
皇は数度に渡り社長から性的な行為を求められ、応じるしかなかった。
自分の立場を考えれば強く拒否できない。それが長年日本に根付いた縦社会というものだ。
望まないことを拒否するのは正しい。だからと言って、その後のことを考えれば居辛くなるだけ。しかも女性と違って妊娠することなどない身体。騒ぐなと言われれば傷つくのは自分だ。
──それに感じていないか、と聞かれたら否定はできない。
いくら単なる生理現象とは言え、目に見える変化が伴う。心がどんなに拒否しても、身体は違う。そのことに皇は葛藤していた。
「平気ではないが、大丈夫だ」
恐らく、その言葉が一番的確だろう。
社長に乱暴な求め方をされたのは一度だけ、彼は言葉巧みに皇をその気にさせる。汚いやり方ではあるが、自分の望みを叶えるために皇の罪悪感を軽減しようとしていた。
「今度は、出張ですよね?」
「ああ」
逃げ場なんて何処にもない。
『自分は皇のことを好いてはいるが、君は単なる性欲処理だと思えばいい』と社長は言う。塩田への想いが叶わない今、抜け出すことの出来ない泥の中にいるようなものなのだ。
慣れるしかないのだと、皇は思っていた。
付き合うことは出来ないというのが最後の抵抗。誰も助けてなんてくれない。いや、助けることなんてできない。相手は社長なのだから。
「今回は私も同行しますが……」
彼が気にかけてくれることが素直に嬉しかった。しかし、自分は社長と同室。断る事なんてできない。
「恐らく、私には何もできません」
申し訳なさそうな彼を見つめる。黒髪の毛先を自然に遊ばせ、長身で中肉中背くらいの体系だが、引き締まった腕から筋肉質なのが伺える。眼鏡をかけ、いつも濃いめのモノトーンのスーツに、切れ長の目、意志の強そうな眉。いかにも優秀そうだ。
出逢ったばかりの頃は冷たい印象を持ったものだが、彼は気遣いの出来る優しい人であった。その優しさが好意でなければどんなに良かっただろうか、と皇は思っている。彼は隠しているつもりのように見えるが、皇には筒抜けだった。
──どうして好きな人だけには振り向いてもらえないんだろう……。
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