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────5話*俺のものだよ
6・飼い犬に手を嚙まれる
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****♡Side・社長秘書(神流川)
「皇くんは最近、塩田くんと一緒のことが多いんだね」
社長は明らかに不機嫌だった。口調は穏やかだが。
「しかし、今夜は社長と一緒に食事だと伺っております」
二人きりになれば、彼に何をされるか分からない。そう踏んだ神流川は、お得意様も誘っていた。もちろん女性だ。同じ男性など危険極まりない。
『告白してみたら? お残立てするし』
苦情係の課長唯野は、黒岩を追い払ったあと神流川にそう言った。しかし、その後の言葉が気になる。
『手遅れかも知れないけど』
あれは一体どういう意味だったのか。
皇の好きな相手は塩田だ。もしかしたら塩田とどうこうなってしまった、という意味なのだろうか。いやしかし、塩田には恋人がいる。
同じ課の電車紀夫だ。同じ課に恋人がいるのに社内に浮気相手をつくるだろうか。
それ以前に塩田は周りに無関心だ。いくら皇が猛アタックをしたとしても、恋人のいる身で他の人と二股するようには見えない。
むしろメンドクサイといいそうである。
──だとしたら、どういう意味なんだ。
自分、社長、総括の他にも皇を狙っている人物でもいるのか。
「神流川くん。先方は、ほんとに今日じゃなきゃダメって言ったの?」
社長は皇と二人きりの会食になるはずが、部外者が入ることに不服のようだ。それもそのはず、手配したのは神流川なのだから。
「ええ。今日以外は無理だという事です」
嘘も堂々としていればバレないものだ。まさか皇と二人きりになりたいからと、社長自ら先方に確認することもあるまい。そんな恥をかくことを、この社長はするわけがない。
「ほんと、間が悪いよねえ」
それもそのはず。選りすぐりの十社の中から、相手を選び抜いたのだから。皇は社内では”俺様”な素振りを見せるが、それは社長の指示。
一歩社外へ出ればその身のこなしと物腰の柔らかさ、品のある立ち居振る舞いや気遣いなどから、他社の者より憧れを抱かれている。食事に誘えば、ほいほいやって来るのだ。
しかし相手は選ばなければならない。余計なことを言う者はもっての外。何も言わずとも、察してくれる相手が良い。特に女性の方が察しもよく、今日の会食相手などはトップクラスの相手。誘われた理由にも、きっと気づいてくれているに違いなかった。
「皇くんを口説くつもりだったのに」
と社長はまだ不満を漏らしている。
「不満は結構ですが、唯野さんにあたるのは止めてくださいね。パワハラですよ。そのうち、噛みつかれても知りませんよ」
「彼はそんなことしないさ。賢いからね」
そんな悠長なことを言っていられるのも今のうちだと、神流川は思っていたのだった。
「皇くんは最近、塩田くんと一緒のことが多いんだね」
社長は明らかに不機嫌だった。口調は穏やかだが。
「しかし、今夜は社長と一緒に食事だと伺っております」
二人きりになれば、彼に何をされるか分からない。そう踏んだ神流川は、お得意様も誘っていた。もちろん女性だ。同じ男性など危険極まりない。
『告白してみたら? お残立てするし』
苦情係の課長唯野は、黒岩を追い払ったあと神流川にそう言った。しかし、その後の言葉が気になる。
『手遅れかも知れないけど』
あれは一体どういう意味だったのか。
皇の好きな相手は塩田だ。もしかしたら塩田とどうこうなってしまった、という意味なのだろうか。いやしかし、塩田には恋人がいる。
同じ課の電車紀夫だ。同じ課に恋人がいるのに社内に浮気相手をつくるだろうか。
それ以前に塩田は周りに無関心だ。いくら皇が猛アタックをしたとしても、恋人のいる身で他の人と二股するようには見えない。
むしろメンドクサイといいそうである。
──だとしたら、どういう意味なんだ。
自分、社長、総括の他にも皇を狙っている人物でもいるのか。
「神流川くん。先方は、ほんとに今日じゃなきゃダメって言ったの?」
社長は皇と二人きりの会食になるはずが、部外者が入ることに不服のようだ。それもそのはず、手配したのは神流川なのだから。
「ええ。今日以外は無理だという事です」
嘘も堂々としていればバレないものだ。まさか皇と二人きりになりたいからと、社長自ら先方に確認することもあるまい。そんな恥をかくことを、この社長はするわけがない。
「ほんと、間が悪いよねえ」
それもそのはず。選りすぐりの十社の中から、相手を選び抜いたのだから。皇は社内では”俺様”な素振りを見せるが、それは社長の指示。
一歩社外へ出ればその身のこなしと物腰の柔らかさ、品のある立ち居振る舞いや気遣いなどから、他社の者より憧れを抱かれている。食事に誘えば、ほいほいやって来るのだ。
しかし相手は選ばなければならない。余計なことを言う者はもっての外。何も言わずとも、察してくれる相手が良い。特に女性の方が察しもよく、今日の会食相手などはトップクラスの相手。誘われた理由にも、きっと気づいてくれているに違いなかった。
「皇くんを口説くつもりだったのに」
と社長はまだ不満を漏らしている。
「不満は結構ですが、唯野さんにあたるのは止めてくださいね。パワハラですよ。そのうち、噛みつかれても知りませんよ」
「彼はそんなことしないさ。賢いからね」
そんな悠長なことを言っていられるのも今のうちだと、神流川は思っていたのだった。
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