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────5話*俺のものだよ
8・皇副社長と唯野課長
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****♡Side・副社長(皇)
車のキーを塩田のデスクの上に置き忘れた皇は、苦情係に戻り嫌なモノを目撃してしまった。
──また、社長が……。
苦情係の唯野課長に気づかれないように苦情係を出ると、電話を切った頃合いを見計らい、呉崎社長に電話をかける。
『どうしたんだい、皇くん』
社長はいつだって皇には優しい声音。
「社長。唯野課長にパワハラするの、止めてください」
皇は震える声で、そう懇願した。
『なんのことだい?』
だが、彼は応じる様子はない。
下手なことを言えば逆効果。皇が何と返そうか迷っていると、後ろからスマホを取り上げられた。青ざめてそちらに視線を移すと、苦情係の課長である唯野だ。
彼は皇のスマホを耳に充てると、
「ええ。皇副社長が何か勘違いをされているようで。失礼いたしました」
と謝っている。
「説明してから参ります。では」
と言って、彼はスマートに通話を切った。
皇は唯野に怒られるのではないかとじっと彼を見つめていたが、彼はスマホの画面をクリーナーで拭くとこちらに差し出す。
「そんな顔するなよ」
と、彼。
優しい笑みを浮かべて。
「何故、怒らない? 俺が上司だから?」
と、皇。
しかし彼は壁に寄り掛かると、片手をポケットに入れため息をつく。
「唯野さんは、ずっとそうだ」
堪らなくなった皇はぎゅっと拳を握りしめる。
「何故、余計な事するなと怒らないんだよ」
「そんな必要ないから」
彼は自分よりも十以上も年上で、自分が営業で後輩だった頃からこうだ。彼が怒るのを自分は見たことがない。
「あの人があたれる相手は俺しかいない。その理由を持つ相手も」
「それはパワハラだ」
「知ってる」
彼はポンポンと皇の頭を叩く。
「それでも、俺は皇よりマシだ」
その言葉に、ぎくりとして彼を見た。
「身体、求められてるんだろ」
「……ッ」
その一言で色んなことが繋がり、一連のことに合点がいく。
「唯野さんが、仕向けたんだよな?」
皇の言葉に彼は返答しなかった。
「同情した?」
社長に良いようにされ、好きな人に振り向いてもらえない自分に彼は同情して塩田たちを仕向けたのだろうかと思うと、プライドをズタズタにされたような気分になる。
彼にだけは同情されたくなかった。対等でいたかったのだ。
「そんなことしてない。助けたいだけだ。皇がいつも俺を社長から庇ってくれているように」
泣くなよと言って抱き寄せられる。まるで子供を慰めるように。
「守ってやれなくて、ごめんな。もっと早く気づいてやれなくて」
彼は自分が営業時代にイジメに合っていた頃から、気にかけてくれた味方。社長が彼にパワハラを繰り返すのは自分が彼を慕っているからだと気づき、それからは距離を置いている。
「塩田たちが待ってるんだろ」
皇はこくりと頷いた。
「早く行ってやれよ。俺は大丈夫だから」
と、彼。
「後で連絡していい?」
と尋ねれば、
「ああ」
と返ってくる。
皇はハンカチで目元を拭うと、何ごともなかったように踵を返したのだった。
車のキーを塩田のデスクの上に置き忘れた皇は、苦情係に戻り嫌なモノを目撃してしまった。
──また、社長が……。
苦情係の唯野課長に気づかれないように苦情係を出ると、電話を切った頃合いを見計らい、呉崎社長に電話をかける。
『どうしたんだい、皇くん』
社長はいつだって皇には優しい声音。
「社長。唯野課長にパワハラするの、止めてください」
皇は震える声で、そう懇願した。
『なんのことだい?』
だが、彼は応じる様子はない。
下手なことを言えば逆効果。皇が何と返そうか迷っていると、後ろからスマホを取り上げられた。青ざめてそちらに視線を移すと、苦情係の課長である唯野だ。
彼は皇のスマホを耳に充てると、
「ええ。皇副社長が何か勘違いをされているようで。失礼いたしました」
と謝っている。
「説明してから参ります。では」
と言って、彼はスマートに通話を切った。
皇は唯野に怒られるのではないかとじっと彼を見つめていたが、彼はスマホの画面をクリーナーで拭くとこちらに差し出す。
「そんな顔するなよ」
と、彼。
優しい笑みを浮かべて。
「何故、怒らない? 俺が上司だから?」
と、皇。
しかし彼は壁に寄り掛かると、片手をポケットに入れため息をつく。
「唯野さんは、ずっとそうだ」
堪らなくなった皇はぎゅっと拳を握りしめる。
「何故、余計な事するなと怒らないんだよ」
「そんな必要ないから」
彼は自分よりも十以上も年上で、自分が営業で後輩だった頃からこうだ。彼が怒るのを自分は見たことがない。
「あの人があたれる相手は俺しかいない。その理由を持つ相手も」
「それはパワハラだ」
「知ってる」
彼はポンポンと皇の頭を叩く。
「それでも、俺は皇よりマシだ」
その言葉に、ぎくりとして彼を見た。
「身体、求められてるんだろ」
「……ッ」
その一言で色んなことが繋がり、一連のことに合点がいく。
「唯野さんが、仕向けたんだよな?」
皇の言葉に彼は返答しなかった。
「同情した?」
社長に良いようにされ、好きな人に振り向いてもらえない自分に彼は同情して塩田たちを仕向けたのだろうかと思うと、プライドをズタズタにされたような気分になる。
彼にだけは同情されたくなかった。対等でいたかったのだ。
「そんなことしてない。助けたいだけだ。皇がいつも俺を社長から庇ってくれているように」
泣くなよと言って抱き寄せられる。まるで子供を慰めるように。
「守ってやれなくて、ごめんな。もっと早く気づいてやれなくて」
彼は自分が営業時代にイジメに合っていた頃から、気にかけてくれた味方。社長が彼にパワハラを繰り返すのは自分が彼を慕っているからだと気づき、それからは距離を置いている。
「塩田たちが待ってるんだろ」
皇はこくりと頷いた。
「早く行ってやれよ。俺は大丈夫だから」
と、彼。
「後で連絡していい?」
と尋ねれば、
「ああ」
と返ってくる。
皇はハンカチで目元を拭うと、何ごともなかったように踵を返したのだった。
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