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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
5・分かることのない望み
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****♡Side・社長(呉崎)
「社長。もうこんなことはやめるべきです」
休日出勤に応じた彼は、社長室へ出向き強い語調でそう言った。
「皇には皇の人生がある。わかっておいででしょう?」
呉崎は社長室から見える風景を後ろ手に組んで眺めていたが、
「君は、いつでも強気だね」
と言って、彼の方に向き直る。
「でもそれは、君が僕にとって必要不可欠な存在だからこそ、許されることだと分かっているのかい?」
「と、言いますと?」
彼は怯むことなく、呉崎を見つめていた。
「そんな生意気な口をきけるのは、僕が許しているからだということだよ」
彼は呉崎の言葉に一瞬、目を見開いたがすぐ穏やかな表情になって、
「自分は、ダメなことをダメと言います。どんな相手であっても」
と口にする。
「本当にそうかい?」
それは、彼の言動に疑念を抱いたからではない。
「自分が忖度をするとでも?」
”それとも”と彼は続ける。
「以前は違ったとでも言いたいのですか? そこまで綿密でなければ、気が済みませんか?」
穏やかな彼が嫌味を吐くのを呉崎はじっと見ていた。
──君は、僕のお気に入り。
決して株原の中から出しはしない。
僕の庭で彼らを守り、足掻き、朽ち果てるまで。
『社長が執着している相手は、本当に皇副社長なのですか?』
再び、秘書神流川に言われた言葉が脳裏を過る。
フッと笑みを零すと、呉崎は彼の肩に手を置いた。
「板井君とはよろしくやっているのかね? 唯野君」
さすがの彼も、”信じられない”と言う顔で呉崎に目を向ける。
「セクハラして楽しいですか?」
にらみつけるでもなく、冷静な彼の反応が呉崎を焦らす。
「ああ。楽しいよ」
──決して屈しない君を嬲るのは。
とても甘美だ。
「悪趣味ですね」
「そうかい?」
「ええ、とても」
”なら”と、呉崎は唯野の腰に手を回し引き寄せ、
「不愉快だと言う顔をしてごらんよ」
と耳元で囁く。
「板井君はどんな風に君を抱くの?」
スルリと腰を撫でながら意地悪く問うても彼は、身じろぎどころか眉一つ動かさない。
呉崎の性欲が自分に向くことはないと思ってのことだろう。
「そんなこと聞いてどうするんです?」
と蔑んだような眼差しを向けた彼は、
「興味なんかないクセに」
と吐き捨てるように言った。
呉崎はその言葉に驚く。
「あなたがこんなことをするのは、ただの嫌がらせ。それ以上でもそれ以下でもない。そんなことは初めから分かっている」
そう言って唇を嚙み締める彼。
「じゃあ、君は何を望んでいるんだい?」
自分でも何故そんなことを問うのか分からなかった。
彼の去った社長室で一人、デスクに片手をついて呉崎は項垂れていた。
『こんなことで、皇を守れるというのならいくらだって耐えてやる』
彼は恨みのこもった瞳を向け、そう言った。
──『何かを望んでいるのは、あなたでしょう?』
……か。
呉崎は十七年前の事件のことを反芻する。
彼は誰にも助けを求めることなく、一人で耐えていた。
──あの時、君を組み敷いていれば僕の心は満たされたのだろうか?
「社長。もうこんなことはやめるべきです」
休日出勤に応じた彼は、社長室へ出向き強い語調でそう言った。
「皇には皇の人生がある。わかっておいででしょう?」
呉崎は社長室から見える風景を後ろ手に組んで眺めていたが、
「君は、いつでも強気だね」
と言って、彼の方に向き直る。
「でもそれは、君が僕にとって必要不可欠な存在だからこそ、許されることだと分かっているのかい?」
「と、言いますと?」
彼は怯むことなく、呉崎を見つめていた。
「そんな生意気な口をきけるのは、僕が許しているからだということだよ」
彼は呉崎の言葉に一瞬、目を見開いたがすぐ穏やかな表情になって、
「自分は、ダメなことをダメと言います。どんな相手であっても」
と口にする。
「本当にそうかい?」
それは、彼の言動に疑念を抱いたからではない。
「自分が忖度をするとでも?」
”それとも”と彼は続ける。
「以前は違ったとでも言いたいのですか? そこまで綿密でなければ、気が済みませんか?」
穏やかな彼が嫌味を吐くのを呉崎はじっと見ていた。
──君は、僕のお気に入り。
決して株原の中から出しはしない。
僕の庭で彼らを守り、足掻き、朽ち果てるまで。
『社長が執着している相手は、本当に皇副社長なのですか?』
再び、秘書神流川に言われた言葉が脳裏を過る。
フッと笑みを零すと、呉崎は彼の肩に手を置いた。
「板井君とはよろしくやっているのかね? 唯野君」
さすがの彼も、”信じられない”と言う顔で呉崎に目を向ける。
「セクハラして楽しいですか?」
にらみつけるでもなく、冷静な彼の反応が呉崎を焦らす。
「ああ。楽しいよ」
──決して屈しない君を嬲るのは。
とても甘美だ。
「悪趣味ですね」
「そうかい?」
「ええ、とても」
”なら”と、呉崎は唯野の腰に手を回し引き寄せ、
「不愉快だと言う顔をしてごらんよ」
と耳元で囁く。
「板井君はどんな風に君を抱くの?」
スルリと腰を撫でながら意地悪く問うても彼は、身じろぎどころか眉一つ動かさない。
呉崎の性欲が自分に向くことはないと思ってのことだろう。
「そんなこと聞いてどうするんです?」
と蔑んだような眼差しを向けた彼は、
「興味なんかないクセに」
と吐き捨てるように言った。
呉崎はその言葉に驚く。
「あなたがこんなことをするのは、ただの嫌がらせ。それ以上でもそれ以下でもない。そんなことは初めから分かっている」
そう言って唇を嚙み締める彼。
「じゃあ、君は何を望んでいるんだい?」
自分でも何故そんなことを問うのか分からなかった。
彼の去った社長室で一人、デスクに片手をついて呉崎は項垂れていた。
『こんなことで、皇を守れるというのならいくらだって耐えてやる』
彼は恨みのこもった瞳を向け、そう言った。
──『何かを望んでいるのは、あなたでしょう?』
……か。
呉崎は十七年前の事件のことを反芻する。
彼は誰にも助けを求めることなく、一人で耐えていた。
──あの時、君を組み敷いていれば僕の心は満たされたのだろうか?
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