R18【同性恋愛】リーマン物語『俺のものになってよ』

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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命

6・塩田と唯野の想い

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****♡Side・塩田

「珍しいな、そっちから声をかけてくれるなんて」
 課長唯野は、そう言って柔らかく微笑んだ。
 彼は以前とは少し変わったと思う。塩田に対して強行手段を選んだことは許せるようなことではないが、それでも”いい上司”であった。
 だが何かを諦めていたような以前の彼とは違っている。
 唯野を変えたのは板井だろう。

「任務を請け負っている以上、戦況くらい確認する必要はあると思うが?」
と塩田。
「そうだな」
 塩田の言葉に彼は複雑な表情をした。
「なあ、塩田」
「なんだ」
 何か間違った答えを返しただろうかと思っていると、
「塩田にとって皇のことは、ただの任務なのか?」
と問われる。
 塩田は思わず唯野を睨みつけた。

「俺に何を求めてるんだ?」
 塩田は一歩踏みこむと、その瞳を覗き込む。
「最低な質問をするんだな。俺に紀夫を裏切らせておいて」
 仮にそれ以上の感情を持ったとしても、絶対に口にする気はない。最も、その質問をした相手が皇だったなら塩田とて、もっと心のあることを言うだろう。
「すまない」
 彼はスッと塩田から視線を逸らす。
 その行動が塩田は気に入らなかった。
 謝るくらいなら、初めから聞かなければいい。
 お節介なんてやめてしまえばいいのだ。

「俺は、塩田のことが好きだった」
 何を言いたくてそんなことをカミングアウトするのか。
「あんたは好きな奴をレイプするのか? それじゃあ社長と変わらないな」
 こんな話をしに来たわけではないのに、胸糞が悪い。
「力づくでも、手に入れたかった」
「簡単にあきらめるくせにか?」
 イラつくのは、加害者のくせにまるで被害者のような態度を取るからだ。
 塩田の言葉に驚いた顔をして唯野がこちらを見る。

「あんたは俺をどうしたいんだ」
 ホントは弱いくせに気丈に振舞う唯野を自分は憎んでいるのだろうか。いや、腹は立つが憎んでいるのとは違うはずだ。
「すまなかった」
 そう言って唯野が塩田に両腕を伸ばす。
「欲しかったんだ、お前が」
 ぎゅっと抱きしめられながら、塩田はため息をつく。
「俺はあんたのモノにはならないし、今更そんなことを言うのは止めろ」

 これ以上、誰を傷つけたら救われるのだろう?
 こんなことが知られたら、板井だって傷つくはずだ。
 
 塩田は唯野の腕を解くと、彼のジャケットのポケットに手を突っ込みハンカチを取り出すと、
「酷いことをされてんのはこっちなのに、なんであんたが泣くんだ」
と言ってその目元に押し付ける。
「あんたは身勝手過ぎる。どんな過去を抱えているのか俺には分からないけれど。それはあんたの問題であって、俺の問題じゃない」
 唯野は受け取ったハンカチで自分の目元を拭うと、
「正論だな」
と苦笑いをした。

「皇のことは任務ではあるが、遊びで身体を弄ぶようなことはしない。俺はそんな非常識じゃない」
 塩田はそう言い放つと腕を組む。
「それに、板井が傷つくようなことを俺にするのは止めろ。俺にこれ以上誰かを傷つけさせるな」
 上司を上司とも思っていない物言いだが、この社ではそれが許されている。
 それでいいとしつこく塩田をこの社に入れようとしたのは社長なのだから。

「板井とは上手く言っているのか?」
「ああ。大丈夫」
 浮かない顔をして大丈夫と言うんだなと思いながらも、そこには触れずに質問を続けた。
「社長の方は?」
「そっちはまだ何とも言えないな」
 社長から皇を守るのが塩田の任務。
 その社長を何とかするのが唯野の目的だ。

「社長には恐らく協力者がいる」
と唯野。
 塩田は詳しい話を知らなかった。
「突き止められそうなのか?」
「どうだろう。今は何とも言えないが、神流川はどうやらこっち側だということは分かった」
 唯野がどんなシナリオを描いているのか分からないが、今社内では社長派と副社長派の派閥が出来ていることだけは確かなようだ。
「まずは協力者の正体を突き止めないとな」
 唯野が呟くように言うのを、塩田は複雑な思いで聞いていたのだった。
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