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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
7・お前もかよ!
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****♡Side・塩田
フォローが必要だなと思った塩田は唯野と二人で話をした後、板井と屋上にいた。
互いにそんなにコミュニケーション能力があるわけではないのに板井とは気が合い、入社して早々に連絡先を交換した仲だった。
常識人で真面目。裏では『課長の忠犬』などとも呼ばれている。
どんな話も他言するような奴ではなく、信頼も厚い。
だがそんな彼が、社内一の情報通である『秘書室長』とよく一緒にいるという噂を耳にした。
──板井の興味は課長にしかない。
大方課長のことでも聞いていたのだろう。
秘書室長は課長の同期だというし。
今まで何事にも無関心でいた自分が、ここへ来て首を突っ込もうとしているのは、課長唯野がバカなことを言うからだ。
「ほら」
と言って塩田が板井にカフェオレのペットボトルを差し出すと、彼は小さく笑んでそれを受け取った。
「なんの賄賂だ?」
と、彼。
「賄賂を渡せば吐いてくれることでもあるのか?」
フェンスに寄りかかりそう問えば、
「何が知りたい」
と言われる。
「知りたいことはいろいろあるが、それは賄賂じゃなく祝い」
塩田の言葉に”祝い?”と不思議そうに問い返す板井。
「課長とつきあってるんだろ?」
「あ、ああ」
板井の曖昧な返答に塩田は怪訝な顔をする。
何故二人して浮かない顔をするのか?
「何かあったのか?」
唯野が浮かない顔をしているのはきっと板井がこんなだからだ。
「自信が……持てないんだ」
板井はベンチに腰掛けると手の中でペットボトルを弄びながら。
「何に?」
板井は皇のように容姿端麗で地位があるというわけじゃない。
電車のように柔らかい雰囲気を持っているわけじゃない。
けれども、背が高く端正な顔立ちをし、好感が持てる容姿をしていると思う。真面目さが伝わってくるし、塩田と違い気遣いが上手く礼儀正しい。
「課長は……塩田が好きだったんだろう?」
板井の言葉に塩田は、”はじまったよ”と思っていた。
「あのなあ。そんなのは一時の気の迷いだ」
板井がどこまで何を知っているのか分からない為、うかつなことは言えない。
「でも、課長は塩田に強引に迫ったんだろ? あの人は……淡泊なのに」
”ああ、知っているのな”と塩田は心の中でため息をつく。
だが、それなら話は早い。
「じゃあ、逆に聞くが」
板井は常識人。ならば、こういえば納得するかもしれない。
「お前は好きな奴をレイプするのか?」
板井は塩田の言葉に息を呑んだ。
「好きな奴は、大切にするもんじゃないのかよ」
強引さは思いの強さなんかじゃない。自分勝手なだけだ。
──まあ、思い返せば……紀夫との始まりもそんなだったけれど。
ドイツもこいつもイカレてる。
「少なくとも、板井はそんなことしないだろ?」
彼は塩田の言葉に俯いた。
”お前もかよ!”と塩田は額に手をやる。
「まあいい。俺はそんなもの好きとは言わない」
唯野の『好意』を否定する塩田に彼は何を思うのだろう?
「それに、俺は紀夫にしか興味はない。あいつが笑っていてくれたらそれでいい」
腕組みをし、ため息をつく塩田。
「課長がそれでもフラフラしてるって言うなら、しっかりと自分に向けておけよ」
”相手がお前じゃなきゃこんなお節介しないんだからな”と付け加えると、板井は驚いた顔をしてこちらをみた。
「なんだよ?」
塩田がムッとしながら問うと、
「どんな待遇なんだ、それは」
と問われる。
「板井は俺にとって初めての友人で親友だからだよ」
”バカじゃねえの?”と続けて。
それは、そんなことも分からないのか? という嫌味だ。
板井は深いため息を一つつくと、
「なんか、塩田を好きになる理由が分かった気がするよ」
と口にした。
「どういう意味だよ、それ」
「そういう意味だよ」
と板井。
「わけわからん」
塩田は投げやりに言葉を吐き出すと空を見上げたのだった。
フォローが必要だなと思った塩田は唯野と二人で話をした後、板井と屋上にいた。
互いにそんなにコミュニケーション能力があるわけではないのに板井とは気が合い、入社して早々に連絡先を交換した仲だった。
常識人で真面目。裏では『課長の忠犬』などとも呼ばれている。
どんな話も他言するような奴ではなく、信頼も厚い。
だがそんな彼が、社内一の情報通である『秘書室長』とよく一緒にいるという噂を耳にした。
──板井の興味は課長にしかない。
大方課長のことでも聞いていたのだろう。
秘書室長は課長の同期だというし。
今まで何事にも無関心でいた自分が、ここへ来て首を突っ込もうとしているのは、課長唯野がバカなことを言うからだ。
「ほら」
と言って塩田が板井にカフェオレのペットボトルを差し出すと、彼は小さく笑んでそれを受け取った。
「なんの賄賂だ?」
と、彼。
「賄賂を渡せば吐いてくれることでもあるのか?」
フェンスに寄りかかりそう問えば、
「何が知りたい」
と言われる。
「知りたいことはいろいろあるが、それは賄賂じゃなく祝い」
塩田の言葉に”祝い?”と不思議そうに問い返す板井。
「課長とつきあってるんだろ?」
「あ、ああ」
板井の曖昧な返答に塩田は怪訝な顔をする。
何故二人して浮かない顔をするのか?
「何かあったのか?」
唯野が浮かない顔をしているのはきっと板井がこんなだからだ。
「自信が……持てないんだ」
板井はベンチに腰掛けると手の中でペットボトルを弄びながら。
「何に?」
板井は皇のように容姿端麗で地位があるというわけじゃない。
電車のように柔らかい雰囲気を持っているわけじゃない。
けれども、背が高く端正な顔立ちをし、好感が持てる容姿をしていると思う。真面目さが伝わってくるし、塩田と違い気遣いが上手く礼儀正しい。
「課長は……塩田が好きだったんだろう?」
板井の言葉に塩田は、”はじまったよ”と思っていた。
「あのなあ。そんなのは一時の気の迷いだ」
板井がどこまで何を知っているのか分からない為、うかつなことは言えない。
「でも、課長は塩田に強引に迫ったんだろ? あの人は……淡泊なのに」
”ああ、知っているのな”と塩田は心の中でため息をつく。
だが、それなら話は早い。
「じゃあ、逆に聞くが」
板井は常識人。ならば、こういえば納得するかもしれない。
「お前は好きな奴をレイプするのか?」
板井は塩田の言葉に息を呑んだ。
「好きな奴は、大切にするもんじゃないのかよ」
強引さは思いの強さなんかじゃない。自分勝手なだけだ。
──まあ、思い返せば……紀夫との始まりもそんなだったけれど。
ドイツもこいつもイカレてる。
「少なくとも、板井はそんなことしないだろ?」
彼は塩田の言葉に俯いた。
”お前もかよ!”と塩田は額に手をやる。
「まあいい。俺はそんなもの好きとは言わない」
唯野の『好意』を否定する塩田に彼は何を思うのだろう?
「それに、俺は紀夫にしか興味はない。あいつが笑っていてくれたらそれでいい」
腕組みをし、ため息をつく塩田。
「課長がそれでもフラフラしてるって言うなら、しっかりと自分に向けておけよ」
”相手がお前じゃなきゃこんなお節介しないんだからな”と付け加えると、板井は驚いた顔をしてこちらをみた。
「なんだよ?」
塩田がムッとしながら問うと、
「どんな待遇なんだ、それは」
と問われる。
「板井は俺にとって初めての友人で親友だからだよ」
”バカじゃねえの?”と続けて。
それは、そんなことも分からないのか? という嫌味だ。
板井は深いため息を一つつくと、
「なんか、塩田を好きになる理由が分かった気がするよ」
と口にした。
「どういう意味だよ、それ」
「そういう意味だよ」
と板井。
「わけわからん」
塩田は投げやりに言葉を吐き出すと空を見上げたのだった。
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