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────1話*俺のものになってよ
2・課長の想いと目測【微R】
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****side■課長(唯野)
──えらい、ラブラブだな。
唯野は向かい側のソファーに足を組み、塩田と電車を眺めていた。
二人の会話は聞こえないが、塩田の方が夢中なことに驚く。対面騎乗位で電車にしがみつく塩田が厭らしく腰を振るのを見ていた。
──俺が引いたところで現状は変わらない。
本人はわかっていないだろうが。
自分は既婚者で、塩田は部下。
入社一日目、あることがきっかけで塩田に惹かれたことを彼は知らない。
思えば、彼に出会ったのはこの会社が初めてではなかった。
社長がある大学の学園祭にて優秀な人材をスカウトしたことを知っていたのは秘書だけ。唯野がそのことについて知らされたのは、大学の卒業間近になってから。
”どうしても親御さんの承諾を得られない。説得するのを手伝って欲しい”と社長に頼まれ、塩田の家に出向いたのがきっかけ。
部下になるということで一言、二言話はしたが、
『どちらでもいい』
と入社に対して彼は積極的とは言えない姿勢を見せた。
初めはやる気がないのかと思ったが。
それが『どうせ反対されるから』という理由なのを知り、彼を自由にしてやりたくなったのだ。
そして入社一日目のあの日、
『おめでとう』
という言葉と共に昇進祝いをくれた彼。
ぶっきらぼうで冷たいという印象は一気に吹き飛んだ。
あの時貰った万年筆は自分にとって宝物。彼自身も欲しいと思うのは、贅沢な願いなのだろうか?
「塩田」
「もっと……」
唯野は服を身につけ部屋を出る。これ以上は居ても無駄だと思いながら。
だが、現状二人が付き合っているとは思いがたい。
何故なら、あの塩田が恋人関係を受け入れるとは考え辛いからだ。
──しかし、時間の問題だな。
電車が塩田に特別な感情を持っていることは薄々気付いてはいた。
何処へでも追いかけていくし。
終電に乗り遅れたといっては、塩田の家に押しかける。お気に入りのバナナの家具も勝手に押し付ける。塩田は無頓着なのか、それを受け入れていた。互いに居心地のいい相手であることは、想像に難くない。
──問題は塩田のほうだと思っていたが、どうやら電車のほうかも知れない。
癪だから手は貸さないがな。
「あれ? 塩田は」
苦情係に戻ると唯野は板井の小指に躓いて転ぶ。
振り返ると、彼は足を押さえつつそう問う。
「電車とお楽しみだ」
嫌味をたっぷり含め、板井に返事をし給湯室へ。
「ふう」
──塩田を取られるのは悔しいが、まだ負けたわけじゃないしな。
チラリとカウンターのほうへ目を向けると、不満そうにしている副社長の皇がいた。まったく気付かず、ぎょっとする。
──なにやってるんだ? 皇副社長は。
コポコポとコーヒーをカップに注いでいると、数テンポ遅れ給湯室へ板井が顔を出す。給湯室入り口の壁にへばりつきながら、
「お楽しみって……やっちゃってるってコトですか?」
「他にどんな意味があるんだ。それより、あれは?」
ショックを受ける板井に、皇のほうを顎で指す。
「なんか、ずっと居るんですよ」
「へえ」
少しづつ変わり始めていた。彼らの日常は。
──えらい、ラブラブだな。
唯野は向かい側のソファーに足を組み、塩田と電車を眺めていた。
二人の会話は聞こえないが、塩田の方が夢中なことに驚く。対面騎乗位で電車にしがみつく塩田が厭らしく腰を振るのを見ていた。
──俺が引いたところで現状は変わらない。
本人はわかっていないだろうが。
自分は既婚者で、塩田は部下。
入社一日目、あることがきっかけで塩田に惹かれたことを彼は知らない。
思えば、彼に出会ったのはこの会社が初めてではなかった。
社長がある大学の学園祭にて優秀な人材をスカウトしたことを知っていたのは秘書だけ。唯野がそのことについて知らされたのは、大学の卒業間近になってから。
”どうしても親御さんの承諾を得られない。説得するのを手伝って欲しい”と社長に頼まれ、塩田の家に出向いたのがきっかけ。
部下になるということで一言、二言話はしたが、
『どちらでもいい』
と入社に対して彼は積極的とは言えない姿勢を見せた。
初めはやる気がないのかと思ったが。
それが『どうせ反対されるから』という理由なのを知り、彼を自由にしてやりたくなったのだ。
そして入社一日目のあの日、
『おめでとう』
という言葉と共に昇進祝いをくれた彼。
ぶっきらぼうで冷たいという印象は一気に吹き飛んだ。
あの時貰った万年筆は自分にとって宝物。彼自身も欲しいと思うのは、贅沢な願いなのだろうか?
「塩田」
「もっと……」
唯野は服を身につけ部屋を出る。これ以上は居ても無駄だと思いながら。
だが、現状二人が付き合っているとは思いがたい。
何故なら、あの塩田が恋人関係を受け入れるとは考え辛いからだ。
──しかし、時間の問題だな。
電車が塩田に特別な感情を持っていることは薄々気付いてはいた。
何処へでも追いかけていくし。
終電に乗り遅れたといっては、塩田の家に押しかける。お気に入りのバナナの家具も勝手に押し付ける。塩田は無頓着なのか、それを受け入れていた。互いに居心地のいい相手であることは、想像に難くない。
──問題は塩田のほうだと思っていたが、どうやら電車のほうかも知れない。
癪だから手は貸さないがな。
「あれ? 塩田は」
苦情係に戻ると唯野は板井の小指に躓いて転ぶ。
振り返ると、彼は足を押さえつつそう問う。
「電車とお楽しみだ」
嫌味をたっぷり含め、板井に返事をし給湯室へ。
「ふう」
──塩田を取られるのは悔しいが、まだ負けたわけじゃないしな。
チラリとカウンターのほうへ目を向けると、不満そうにしている副社長の皇がいた。まったく気付かず、ぎょっとする。
──なにやってるんだ? 皇副社長は。
コポコポとコーヒーをカップに注いでいると、数テンポ遅れ給湯室へ板井が顔を出す。給湯室入り口の壁にへばりつきながら、
「お楽しみって……やっちゃってるってコトですか?」
「他にどんな意味があるんだ。それより、あれは?」
ショックを受ける板井に、皇のほうを顎で指す。
「なんか、ずっと居るんですよ」
「へえ」
少しづつ変わり始めていた。彼らの日常は。
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