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────1話*俺のものになってよ

12・彼女と電車の関係とは?

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****Side■塩田

「どこで会うんだ?」
 翌日。
 起きるなり気が重かった。
 恋人となる予定の相手の彼女から品定めされるのだ。
 誰だって気が重くなるだろう。

「会社の近くのレストラン」
と電車。
「水かけられたりするんじゃないのか?」
 電車は塩田の言葉にぷっと吹き出す。
「ドラマの見過ぎだよ」
 塩田はあまりドラマを見たことがなかったが、トレンディドラマの定番と言えば、これだろうと思っていた。
「どんな人?」
「うーん……」
 塩田が着替えるのを眺めながら電車が唸る。

「普通の子だよ」
 悩んでの答えがそれかよと思いながら、上着を羽織り鏡を覗き込む。
「何、そんな見つめて」
 鏡越しに電車と目が合う。電車は何も言わずに傍まで歩いてくると、塩田を後ろから抱きしめた。
「なんだよ」
「好き……」
 彼の腕が少し震えていて、思わず身をよじり電車に目を向ける。
「どうした?」
と問うが、
「なんでもないよ」
という返答。

 お付き合いをしたことのない塩田には、彼がなにを不安に思い懸念しているのか、全く想像がつかなかった。
 こんな時、気が利いた一言でも言えたらいいのにと思うばかりだ。

 待ち合わせの場所はホテル内のレストラン。
 サラリーマンなどがしょっちゅう来るようなところではなく、普通の子と言っていた相手はどう見ても普通ではなかった。

──これは一体どういうことだ?

 電車の家庭の事情については今まで聞いたことがない。
 彼女は大学時代から付き合っているとしか聞いてはいなかった。その為、普通の子と言われ、近場のOLなのだろうかと想像もしたが、想像とはまったく違っている。

 待ち合わせ先に一足先についていた美女は、不機嫌そうに塩田を見つめている。彼女の身なりからの印象はよい家柄、もしくは稼ぎの良い者。
「ねえ」
 電車が彼女の声にびくりと肩を揺らし、ティーカップをテーブルに置く。
「紀夫、あなたの趣味にとやかく言う気はないけど……」

──紀夫?
 恋人だったならおかしくはないが。

「本気なの?」
「うん」
「はあ……」
 彼女は肩を竦め立ち上がり、
「パパにはあなたから言って頂戴ね」
 そう言い残し去っていった。
 塩田はため息をつくとテーブルに片肘をつき顎を乗せる。
「電車、どういうことか説明しろ」
 最小限の会話は三十分ほどで終了。どちらかと言うと間のほうが長かったような気も。
「ん、うん」

 沈黙の長い別れ話というのはあるのかもしれない。
 しかし何かが想像とは違っていた。
 本当に恋人だったのだろうか?
 どちらかというと、あまり顔を合わせない許嫁のような空気を感じたのである。
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