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────7話*彼の導く選択
14・彼の提示する未来
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****♡Side・塩田
先日から電車が何かを話したそうにしているのは分かっていたが、いやな予感がして避けてきた塩田だったが。
「ねえ、優ちゃん」
電車は皇を呼ぶ声。
──優ちゃん?
「なんだ、紀」
それに返事をする皇。
──紀?
二人の呼び方に塩田は眉を潜める。まさか電車は皇にくら替えでもしようというのだろうか。
ムッとしているとその電車に後ろから抱き着かれ、彼をチラリと見上げた。
名前の呼び方が変わったくらいで特にいつもと変わらないように見える。
「ご機嫌斜めなの? 塩田」
「お前は随分機嫌が良いように見えるが?」
皇は電車の質問に返答を寄越したのち、会議があると言ってそそくさと玄関に向かったようだ。
「だって、昨日もいっぱい愛し合ったしね」
と電車。
塩田はそこでむせた。
「な、なんだよ。皇との方が仲いいみたいじゃないか。名前で呼び合っているみたいだし」
相手にペースに乗せられてしまっては電車の思うツボだと思った塩田はムッとしたままそう答える。
「これからも一緒にいるわけだし、副社長じゃ嫌だっていうからさ」
彼の言いまわしに少し引っかかりを感じたものの、どうそれを言葉にしていいのかわからない塩田は、
「そうかよ」
とため息をつく。
「塩田も名前で呼んで欲しいの? 以往タンって呼ぼうか?」
「それはちょっと……」
首筋にちゅっと口づけられて、浮気の線を心の中で消去した。彼がそんなに気が多いわけでもなく、器用でもないことは自分が一番知っているはずだ。
「皇に鞍替えする気なのかと思ったぞ」
それでも思ったことは伝えるべきだと思う塩田は心中を吐露する。
「俺は……塩田以外に興味ないよ」
いつも明るい彼が、真面目なトーンで少し投げやりな言い方をすることに塩田はドキリとした。
それが本心なのは分かる。
しかし何か感じるものがあったのだ。
「どうしてわからないかな、塩田は」
シャツの中に手のひらが差し入れられ、胸を撫でられる。心臓の辺りを。
「俺は塩田のためならなんでもするのに」
「紀夫?」
「そんなに不安そうにしなくても大丈夫。俺はいつでも塩田の傍に居るよ」
塩田は彼の手にシャツの上から自分の手を添えた。
「不安になるだろ、誰だって」
”急に呼び方を変えたら”と続ければ、彼の手がするりと離れていく。
自分は何かいけないことを言ってしまったのだろうかと思っていると、電車はふっと笑って塩田の正面に立った。
「ねえ、塩田」
彼は塩田の目の前でしゃがみこむと塩田の両手を掴んで、
「今すぐじゃなくてもいい。俺と結婚して欲しい」
「それは……無論」
「そして、三人でずっと一緒にいようよ」
「え?」
言われている意味が分からずに思わず漏れてしまった疑問符。
「塩田は副社長のこととても心配しているよね?」
塩田の未来には電車と結婚するという道がちゃんと見えている。その証拠にすぐに返事をくれたと彼は言う。
しかし、妙な間があったのはこのままその未来に進むことを躊躇っているからだと。躊躇う原因は皇にあるのだ。
「別に二股だってかまわないって言ってる」
「いや……それはおかしいだろ」
非常識すぎる提案に塩田は眉を寄せた。
「でも、結果はそうなる」
と彼。
強い光を湛えた瞳。それはきっと確信。
「塩田はずっと俺が別れ話をすると思っている。それは何故なの? 副社長のことが引っかかっているからでしょ」
「それは……」
答えることが出来ないというのは、肯定と同等。
「あの人が塩田以外と一緒にいて幸せになれるというのなら、塩田は悩まない。そうでしょ?」
自惚れならどんなに良かっただろう。
人の心は変わるものだ。だからいつか彼に好きな人ができるならそれで良いと思う。しかし今突き放したら、皇の行く先は地獄でしかない。
好きでもないという言い方は少し違うのかもしれないが、望まない相手に身体を開き続けるのはどう考えても地獄としか思えないのだ。
「だったら一緒にいればいい。違うの?」
単純明快な答え。そうは思うが、塩田はどうしても頷けないのだった。
先日から電車が何かを話したそうにしているのは分かっていたが、いやな予感がして避けてきた塩田だったが。
「ねえ、優ちゃん」
電車は皇を呼ぶ声。
──優ちゃん?
「なんだ、紀」
それに返事をする皇。
──紀?
二人の呼び方に塩田は眉を潜める。まさか電車は皇にくら替えでもしようというのだろうか。
ムッとしているとその電車に後ろから抱き着かれ、彼をチラリと見上げた。
名前の呼び方が変わったくらいで特にいつもと変わらないように見える。
「ご機嫌斜めなの? 塩田」
「お前は随分機嫌が良いように見えるが?」
皇は電車の質問に返答を寄越したのち、会議があると言ってそそくさと玄関に向かったようだ。
「だって、昨日もいっぱい愛し合ったしね」
と電車。
塩田はそこでむせた。
「な、なんだよ。皇との方が仲いいみたいじゃないか。名前で呼び合っているみたいだし」
相手にペースに乗せられてしまっては電車の思うツボだと思った塩田はムッとしたままそう答える。
「これからも一緒にいるわけだし、副社長じゃ嫌だっていうからさ」
彼の言いまわしに少し引っかかりを感じたものの、どうそれを言葉にしていいのかわからない塩田は、
「そうかよ」
とため息をつく。
「塩田も名前で呼んで欲しいの? 以往タンって呼ぼうか?」
「それはちょっと……」
首筋にちゅっと口づけられて、浮気の線を心の中で消去した。彼がそんなに気が多いわけでもなく、器用でもないことは自分が一番知っているはずだ。
「皇に鞍替えする気なのかと思ったぞ」
それでも思ったことは伝えるべきだと思う塩田は心中を吐露する。
「俺は……塩田以外に興味ないよ」
いつも明るい彼が、真面目なトーンで少し投げやりな言い方をすることに塩田はドキリとした。
それが本心なのは分かる。
しかし何か感じるものがあったのだ。
「どうしてわからないかな、塩田は」
シャツの中に手のひらが差し入れられ、胸を撫でられる。心臓の辺りを。
「俺は塩田のためならなんでもするのに」
「紀夫?」
「そんなに不安そうにしなくても大丈夫。俺はいつでも塩田の傍に居るよ」
塩田は彼の手にシャツの上から自分の手を添えた。
「不安になるだろ、誰だって」
”急に呼び方を変えたら”と続ければ、彼の手がするりと離れていく。
自分は何かいけないことを言ってしまったのだろうかと思っていると、電車はふっと笑って塩田の正面に立った。
「ねえ、塩田」
彼は塩田の目の前でしゃがみこむと塩田の両手を掴んで、
「今すぐじゃなくてもいい。俺と結婚して欲しい」
「それは……無論」
「そして、三人でずっと一緒にいようよ」
「え?」
言われている意味が分からずに思わず漏れてしまった疑問符。
「塩田は副社長のこととても心配しているよね?」
塩田の未来には電車と結婚するという道がちゃんと見えている。その証拠にすぐに返事をくれたと彼は言う。
しかし、妙な間があったのはこのままその未来に進むことを躊躇っているからだと。躊躇う原因は皇にあるのだ。
「別に二股だってかまわないって言ってる」
「いや……それはおかしいだろ」
非常識すぎる提案に塩田は眉を寄せた。
「でも、結果はそうなる」
と彼。
強い光を湛えた瞳。それはきっと確信。
「塩田はずっと俺が別れ話をすると思っている。それは何故なの? 副社長のことが引っかかっているからでしょ」
「それは……」
答えることが出来ないというのは、肯定と同等。
「あの人が塩田以外と一緒にいて幸せになれるというのなら、塩田は悩まない。そうでしょ?」
自惚れならどんなに良かっただろう。
人の心は変わるものだ。だからいつか彼に好きな人ができるならそれで良いと思う。しかし今突き放したら、皇の行く先は地獄でしかない。
好きでもないという言い方は少し違うのかもしれないが、望まない相手に身体を開き続けるのはどう考えても地獄としか思えないのだ。
「だったら一緒にいればいい。違うの?」
単純明快な答え。そうは思うが、塩田はどうしても頷けないのだった。
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