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『二人を繋ぐ宝物の日々』
8・夏海と紅
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****♡Side・夏海
自分には秘密がある。優しい兄、親友の望、大好きな父母に言えない秘密が。
───お兄ちゃんは早くに運命の相手と恋に落ちた。
いつでも二人は一緒で楽しそうで、憧れだったの。自分もいつか好きな人ができて素敵な恋愛ができたら良いなって思っていた。ジェンダー差別を受けることが無く同性婚可能な時代に産まれた自分は、父と母にいつも言われていた。
「好きになる人は男女どっちでもいいのよ」
「なっちゃんに好きな人ができたら紹介してね」
と。
大崎家には代々言い伝えがある。それはこういうものだ、大崎家の男児は姫川家の人間と惹かれあうというもの。大崎家の男児ならば全員そうだとは限らないが、幼馴染みに姫川のものが居た長子は、男児だったから相手が決まっていたも同然だった。その一年後産まれた子供は、女の子だったので縛られた運命も無く、両親はとても楽しみにしていた。
兄の恋愛に憧れていた夏海本人も、
「きっといつか素敵な人に出逢って恋をするんだ!」
と思っていた。
しかし、恋どころか自分がどちらの性別にも違和感があることに気付く。どちらでもない自分。そんな時でも傍にいてくれたのは”栗原 望”というサバサバして優しい女の子。彼女は夏海がどんなに他の子と違っていても、友達でいてくれた。
大好きで大親友。
性別なんて曖昧でも大丈夫、きっと恋をすれば自分がどっちなのか見えてくる。そんな風に思っていた。しかし、小学校に上がっても、中学生になっても夏海は恋をしなかった。それどころかみんなが騒ぐ芸能人やアイドルにもまったく何も感じなかったのである。
───きっとお兄ちゃんがイケメンすぎるからだ。理想が高いんだ。
夏海はそう思うことにした。あの事件が起きるまでは。
事件が起きる前、家族にも親友にもこのことを話すことの出来なかった夏海は、望と同じく幼馴染みである彼女の兄に、話を聞いてもらっていた。彼の名を”栗原 紅”と言う。彼が居なかったら、絶望してしまっていたに違いない。この時から二十年近く経った現在でも、その事は家族にも兄にも知られてはいない。真咲を失って苦しむ兄に、これ以上心的な負担を与えたくはなかった。
『夏海、いつでも俺が力になってやるから』
紅はこの世で一番優しい愛を夏海に与えてくれた人だ。自分自身の人生を犠牲にしてまでも、夏海を心から愛した人。
「あら、兄だわ」
この時の夏海には、その未来はまだ分かっていないが。画材を買おうと立ち寄った店の前に、彼はいた。
「紅くん、何してるの?寄り道なんて珍しいね」
「ああ。友人が用があるって言うから。あ、来た」
「え、嘘」
相手を見て、驚く二人。それは、K学園で二大セレブとして有名な片割れ、大里グループの子息であった。今でこそ、交流のある大崎家と大里家だが、そのきっかけを作ったのは望の兄。
「こんにちは。お兄さんと仲良くさせていただいている、大里 稔《みのる》と申します」
彼は自己紹介をすると、にっこり微笑んだ。
「君が妹さんだね。なるほど、噂通りの美人だね」
将来、望がこの大里家の子息”稔”と婚姻することで、両家の絆が深まるのだ。縁とは不思議なものである。
自分には秘密がある。優しい兄、親友の望、大好きな父母に言えない秘密が。
───お兄ちゃんは早くに運命の相手と恋に落ちた。
いつでも二人は一緒で楽しそうで、憧れだったの。自分もいつか好きな人ができて素敵な恋愛ができたら良いなって思っていた。ジェンダー差別を受けることが無く同性婚可能な時代に産まれた自分は、父と母にいつも言われていた。
「好きになる人は男女どっちでもいいのよ」
「なっちゃんに好きな人ができたら紹介してね」
と。
大崎家には代々言い伝えがある。それはこういうものだ、大崎家の男児は姫川家の人間と惹かれあうというもの。大崎家の男児ならば全員そうだとは限らないが、幼馴染みに姫川のものが居た長子は、男児だったから相手が決まっていたも同然だった。その一年後産まれた子供は、女の子だったので縛られた運命も無く、両親はとても楽しみにしていた。
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と思っていた。
しかし、恋どころか自分がどちらの性別にも違和感があることに気付く。どちらでもない自分。そんな時でも傍にいてくれたのは”栗原 望”というサバサバして優しい女の子。彼女は夏海がどんなに他の子と違っていても、友達でいてくれた。
大好きで大親友。
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───きっとお兄ちゃんがイケメンすぎるからだ。理想が高いんだ。
夏海はそう思うことにした。あの事件が起きるまでは。
事件が起きる前、家族にも親友にもこのことを話すことの出来なかった夏海は、望と同じく幼馴染みである彼女の兄に、話を聞いてもらっていた。彼の名を”栗原 紅”と言う。彼が居なかったら、絶望してしまっていたに違いない。この時から二十年近く経った現在でも、その事は家族にも兄にも知られてはいない。真咲を失って苦しむ兄に、これ以上心的な負担を与えたくはなかった。
『夏海、いつでも俺が力になってやるから』
紅はこの世で一番優しい愛を夏海に与えてくれた人だ。自分自身の人生を犠牲にしてまでも、夏海を心から愛した人。
「あら、兄だわ」
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「ああ。友人が用があるって言うから。あ、来た」
「え、嘘」
相手を見て、驚く二人。それは、K学園で二大セレブとして有名な片割れ、大里グループの子息であった。今でこそ、交流のある大崎家と大里家だが、そのきっかけを作ったのは望の兄。
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