3 / 72
1話 戻れない過去
3 彼女の目的地
しおりを挟む
戀の元恋人である彼女が賞を取ったのは、別れてしばらく経っての事だった。そのことを知ったのは、たまたまである。
戀はじっと雑誌を見つめていた。数年前の事なのに、こんなに引きづっているのは心残りがあるからだろう。”おめでとう”が言えたなら、この気持ちに終止符が打てるのだろうか。そんなことを思いながらため息をつく。
「戀、今でも引きづっているのよ。彼女のこと」
「そうなんですか」
自分の世界にどっぷり浸かっていた戀は叔母と陽菜の会話で我に返る。
「いや、余計なこと言わなくていいから」
せっかく友達になってくれると言った相手なのだ。自然体でいたいと思う反面、カッコ悪いところは見せたくないと思った。
「あれから数年経つのにね」
簡単に黙ってくれはしないとは思ったが、案の定叔母はそう付け加える。
気まずいなと思ってると、陽菜から意外な言葉が。
「そんなに引きづっているということは、よっぽど可愛い人だったんですね」
彼女の言う可愛いは、一概に容姿のみを言ったわけではないとは思う。だが考えるよりも先に言葉が出ていた。
「いや、陽菜さんのほうが100倍可愛い」
それは事実には違いないが、言ってしまってから恥ずかしさがこみ上げる。
「え?」
彼女に聞き返され、戀は”何でもない”と返答をしつつ顔を両手で覆った。見なくとも、叔母が意味深な表情でこちらを窺っていることは想像がつく。
まだ出会って間もない相手に”一体何を言っているんだ、自分は”と自己嫌悪に陥るものの言ってしまった言葉は取り返しがつかないだろう。聞こえていなかったことを祈るのみ。
「恋ってねえ、突然落ちるものなのよ」
叔母がまた余計なことを言いはじめ、戀は居たたまれない気持ちになる。仕方なく雑誌を立てて顔を覆うものの、”上下が逆”と陽菜に指摘されてしまった。これでは動揺していることが丸わかりである。
心を落ち着けようと、昨夜陽菜とメッセージアプリにてやりとりをした内容を思い出す。確か彼女は『明日用があってこの駅を利用するので、朝れいの珈琲店に来られないか』といった内容の質問を寄越したのだ。明日とはもちろん今日の事。
休みの日にはここにくる習慣のある戀はYESの返事をしたが、その後やり取りが途絶えた。彼女曰く、送信を押し忘れたということだが。
待ったつもりはなかったが、行き違いになってしまっては申し訳ないと思った戀は開店と同時にこの店にいた。
「そう言えば、陽菜さんは何処かに用があってここに寄ったんじゃないの?」
戀は話を変えるべく、そう質問してみる。
叔母とデザートのリンゴケーキの話で盛り上がっていた陽菜が思い出したようにこちらに視線を移した。
「戀も食べるわよね?」
「ああ、うん」
叔母の作るリンゴとクルミとレーズンの入ったリンゴケーキは絶品である。甘いものがさほど好きというわけでない戀も、ここのリンゴケーキは好んでよく口にしていた。
叔母が奥へ引っ込むと陽菜の方に視線を戻した戀。彼女はなんだか硬い表情をしていた。もしかして触れてはいけない質問だったのだろうか?
時刻は8時を回ろうとしていた。この珈琲店の営業時間は朝の7時から15時。一旦休みの時間を挟んで17時から21時まで。
とは言え、早朝に混むのは平日くらいだ。その為、土日の場合は11時までバイトを雇ってはいなかった。それでもなお、土日の朝にここを開けているのには理由がある。
「図書館に用があって」
重々しく口が開かれ目的の場所を告げられたが、そんなに言いづらい場所だったかと戀は首を傾《かし》げた。
この街には大きな図書館がある。それはこの珈琲店が朝から開けている理由の一つでもあった。図書館の開館は9時。ここの常連客の中にも図書館を利用する年配客がいるのである。彼らがその前にここに寄っていくことから、叔母は土日にも店を開けることにしていたのだった。
「そういえば、ここから20分ほど歩いたところに図書館があったね。俺は一度も行ったことがないけれど」
”どんなところなの?”と雰囲気を問う。
「良ければ、一緒に行ってみませんか」
それは戀にとって願ってもない申し出だったのである。
戀はじっと雑誌を見つめていた。数年前の事なのに、こんなに引きづっているのは心残りがあるからだろう。”おめでとう”が言えたなら、この気持ちに終止符が打てるのだろうか。そんなことを思いながらため息をつく。
「戀、今でも引きづっているのよ。彼女のこと」
「そうなんですか」
自分の世界にどっぷり浸かっていた戀は叔母と陽菜の会話で我に返る。
「いや、余計なこと言わなくていいから」
せっかく友達になってくれると言った相手なのだ。自然体でいたいと思う反面、カッコ悪いところは見せたくないと思った。
「あれから数年経つのにね」
簡単に黙ってくれはしないとは思ったが、案の定叔母はそう付け加える。
気まずいなと思ってると、陽菜から意外な言葉が。
「そんなに引きづっているということは、よっぽど可愛い人だったんですね」
彼女の言う可愛いは、一概に容姿のみを言ったわけではないとは思う。だが考えるよりも先に言葉が出ていた。
「いや、陽菜さんのほうが100倍可愛い」
それは事実には違いないが、言ってしまってから恥ずかしさがこみ上げる。
「え?」
彼女に聞き返され、戀は”何でもない”と返答をしつつ顔を両手で覆った。見なくとも、叔母が意味深な表情でこちらを窺っていることは想像がつく。
まだ出会って間もない相手に”一体何を言っているんだ、自分は”と自己嫌悪に陥るものの言ってしまった言葉は取り返しがつかないだろう。聞こえていなかったことを祈るのみ。
「恋ってねえ、突然落ちるものなのよ」
叔母がまた余計なことを言いはじめ、戀は居たたまれない気持ちになる。仕方なく雑誌を立てて顔を覆うものの、”上下が逆”と陽菜に指摘されてしまった。これでは動揺していることが丸わかりである。
心を落ち着けようと、昨夜陽菜とメッセージアプリにてやりとりをした内容を思い出す。確か彼女は『明日用があってこの駅を利用するので、朝れいの珈琲店に来られないか』といった内容の質問を寄越したのだ。明日とはもちろん今日の事。
休みの日にはここにくる習慣のある戀はYESの返事をしたが、その後やり取りが途絶えた。彼女曰く、送信を押し忘れたということだが。
待ったつもりはなかったが、行き違いになってしまっては申し訳ないと思った戀は開店と同時にこの店にいた。
「そう言えば、陽菜さんは何処かに用があってここに寄ったんじゃないの?」
戀は話を変えるべく、そう質問してみる。
叔母とデザートのリンゴケーキの話で盛り上がっていた陽菜が思い出したようにこちらに視線を移した。
「戀も食べるわよね?」
「ああ、うん」
叔母の作るリンゴとクルミとレーズンの入ったリンゴケーキは絶品である。甘いものがさほど好きというわけでない戀も、ここのリンゴケーキは好んでよく口にしていた。
叔母が奥へ引っ込むと陽菜の方に視線を戻した戀。彼女はなんだか硬い表情をしていた。もしかして触れてはいけない質問だったのだろうか?
時刻は8時を回ろうとしていた。この珈琲店の営業時間は朝の7時から15時。一旦休みの時間を挟んで17時から21時まで。
とは言え、早朝に混むのは平日くらいだ。その為、土日の場合は11時までバイトを雇ってはいなかった。それでもなお、土日の朝にここを開けているのには理由がある。
「図書館に用があって」
重々しく口が開かれ目的の場所を告げられたが、そんなに言いづらい場所だったかと戀は首を傾《かし》げた。
この街には大きな図書館がある。それはこの珈琲店が朝から開けている理由の一つでもあった。図書館の開館は9時。ここの常連客の中にも図書館を利用する年配客がいるのである。彼らがその前にここに寄っていくことから、叔母は土日にも店を開けることにしていたのだった。
「そういえば、ここから20分ほど歩いたところに図書館があったね。俺は一度も行ったことがないけれど」
”どんなところなの?”と雰囲気を問う。
「良ければ、一緒に行ってみませんか」
それは戀にとって願ってもない申し出だったのである。
0
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる