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2話 過去の綻び
6 世知辛い世の中
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こんな時、人はどのような行動を取るのが正しいのだろうか。
駅に落し物はないか確認してから駅前の交番へ届け出ようと思っていた戀と陽菜。
彼女はあの日、前からぶつかってきた少年に気を取られているうちに、バッグから財布を抜き取られた可能性があると話していた。今のところ証拠はないが、バッグの指紋を照合して貰えば白黒はっきりするだろう。
電車の中ではバッグを前にしていたというし、限りなく黒に近い。それでも確たる証拠もないのに警察へ突き出すのもどうなのだろうか。ここは駅へ向かい、防犯カメラでも確認して貰うべきか。
「あの子たち、どうしてあんなところにいるのかな?」
幼い方はつまらなそうに地面を見つめているが、兄と思しき方は何故か駅に入っていく人達をきょろきょろと見やっている。
「誰か待っているにしても、何か変だな」
まさか次のターゲットを探しているのだろうか。
通常、待ち合わせをしているのであれば、駅へ向かっている人か駅から出てくる人に目を向けるだろう。
待ち合わせではなく、誰かを探していたとしてもだ。
彼の行動はどうも、『駅を使う予定はあるが相手が彼を見知っている』とは限らない相手を捜しているように見えた。
「ちょうどいい。声をかけてみよう」
不審な動きをしているのだ。誰かを捜しているなら、”どうしたの?”と声がかけやすいだろう。
「え、戀くん?! わたし、まだ心の準備が」
ショルダーバッグの位置を直し、慌てる陽菜。その手を戀は掴んだ。
少しづつ彼らと距離が近づいていく。
戀は胸が高鳴るのを感じていたが、それが秘密を暴こうとする興奮からなのか、それとも恋心を抱いた相手と手を繋いでいるからなのか判断がつかなかった。
だが意外な展開により、戀の足が止まる。
「あ、あの時のお姉ちゃん。お兄ちゃん! ねえ」
つまらなそうに地面を見つめていた幼い方の少年が二人の気配に気づき、隣の少年に声をかけたのだ。驚く隣の少年の反応を待たずに、弟の方がこちらへ駆けてくる。
「お姉ちゃん!」
近くまで駆けてきた少年は、何故か目に涙を浮かべている。小学一年生くらいだろうか。とても可愛らしい。
「ねえ、覚えてる? 僕……」
「え、ええ。覚えているわ。ケガはなかった?」
陽菜は小さく呼吸をしたのち、しゃがみ込んで少年と視線を合わせる。
戀には駅前交番の前に立っている警官が視界の端に映った。こちらを見ているように感じ、そちらに視線を移すとなんだかニコニコしている。戀は思わず頭を下げた。
「あのっ、お姉さん!」
後から追いついた兄の方が申し訳なさそうな顔をしながらこちらを窺《うかが》っている。『お兄ちゃん』と呼ばれていたのだから、兄なのだろう。
「うん?」
陽菜は立ち上がると、弟の方の頭を撫でながら兄に視線を向けた。
「ちょっと話したいことがあるんだけど」
彼は交番とは反対側にチラリと視線を向けながら。
駅に向かい左側に交番。駅に入らず右へ行くと公園があった。
大きな公園とは言えないが赤いゾウの滑り台と青い塗装がなされたブランコがあるのが見える。昨今、遊具は危ないと壊されてきた。ここの公園は遊具が残された貴重な場所でもある。
木の下に白いベンチが並んでいるのが見え、戀は彼女に公園を指さす。
彼らを連れて移動するのは正直気が引ける。ここから移動するということは、親や周りからしたら未成年者の連れ去りに受け取られても仕方がない。
だが交番前の警官からは知り合いもしくは、家族だと思われている可能性はありそうだ。
「とりあえず、そこの公園に行こう。ここでは通行の邪魔になってしまうし、彼も話辛そうだよ」
彼らに先導してしてもらう形を取り、公園に向かうことにした。相手がこちらに話があるというのだ。無視するのも可哀そうだ思った。何とも世知辛い世の中だ。
陽菜はいつの間にか弟の方に懐かれていた。彼に手を引かれている。
戀はそんな彼らを見ながら、先ほどのアトリエで手に入れたチラシをポケットから取り出す。彼らの事情次第ではこのチラシを渡そうと考えていたのである。
駅に落し物はないか確認してから駅前の交番へ届け出ようと思っていた戀と陽菜。
彼女はあの日、前からぶつかってきた少年に気を取られているうちに、バッグから財布を抜き取られた可能性があると話していた。今のところ証拠はないが、バッグの指紋を照合して貰えば白黒はっきりするだろう。
電車の中ではバッグを前にしていたというし、限りなく黒に近い。それでも確たる証拠もないのに警察へ突き出すのもどうなのだろうか。ここは駅へ向かい、防犯カメラでも確認して貰うべきか。
「あの子たち、どうしてあんなところにいるのかな?」
幼い方はつまらなそうに地面を見つめているが、兄と思しき方は何故か駅に入っていく人達をきょろきょろと見やっている。
「誰か待っているにしても、何か変だな」
まさか次のターゲットを探しているのだろうか。
通常、待ち合わせをしているのであれば、駅へ向かっている人か駅から出てくる人に目を向けるだろう。
待ち合わせではなく、誰かを探していたとしてもだ。
彼の行動はどうも、『駅を使う予定はあるが相手が彼を見知っている』とは限らない相手を捜しているように見えた。
「ちょうどいい。声をかけてみよう」
不審な動きをしているのだ。誰かを捜しているなら、”どうしたの?”と声がかけやすいだろう。
「え、戀くん?! わたし、まだ心の準備が」
ショルダーバッグの位置を直し、慌てる陽菜。その手を戀は掴んだ。
少しづつ彼らと距離が近づいていく。
戀は胸が高鳴るのを感じていたが、それが秘密を暴こうとする興奮からなのか、それとも恋心を抱いた相手と手を繋いでいるからなのか判断がつかなかった。
だが意外な展開により、戀の足が止まる。
「あ、あの時のお姉ちゃん。お兄ちゃん! ねえ」
つまらなそうに地面を見つめていた幼い方の少年が二人の気配に気づき、隣の少年に声をかけたのだ。驚く隣の少年の反応を待たずに、弟の方がこちらへ駆けてくる。
「お姉ちゃん!」
近くまで駆けてきた少年は、何故か目に涙を浮かべている。小学一年生くらいだろうか。とても可愛らしい。
「ねえ、覚えてる? 僕……」
「え、ええ。覚えているわ。ケガはなかった?」
陽菜は小さく呼吸をしたのち、しゃがみ込んで少年と視線を合わせる。
戀には駅前交番の前に立っている警官が視界の端に映った。こちらを見ているように感じ、そちらに視線を移すとなんだかニコニコしている。戀は思わず頭を下げた。
「あのっ、お姉さん!」
後から追いついた兄の方が申し訳なさそうな顔をしながらこちらを窺《うかが》っている。『お兄ちゃん』と呼ばれていたのだから、兄なのだろう。
「うん?」
陽菜は立ち上がると、弟の方の頭を撫でながら兄に視線を向けた。
「ちょっと話したいことがあるんだけど」
彼は交番とは反対側にチラリと視線を向けながら。
駅に向かい左側に交番。駅に入らず右へ行くと公園があった。
大きな公園とは言えないが赤いゾウの滑り台と青い塗装がなされたブランコがあるのが見える。昨今、遊具は危ないと壊されてきた。ここの公園は遊具が残された貴重な場所でもある。
木の下に白いベンチが並んでいるのが見え、戀は彼女に公園を指さす。
彼らを連れて移動するのは正直気が引ける。ここから移動するということは、親や周りからしたら未成年者の連れ去りに受け取られても仕方がない。
だが交番前の警官からは知り合いもしくは、家族だと思われている可能性はありそうだ。
「とりあえず、そこの公園に行こう。ここでは通行の邪魔になってしまうし、彼も話辛そうだよ」
彼らに先導してしてもらう形を取り、公園に向かうことにした。相手がこちらに話があるというのだ。無視するのも可哀そうだ思った。何とも世知辛い世の中だ。
陽菜はいつの間にか弟の方に懐かれていた。彼に手を引かれている。
戀はそんな彼らを見ながら、先ほどのアトリエで手に入れたチラシをポケットから取り出す。彼らの事情次第ではこのチラシを渡そうと考えていたのである。
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