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5話 変化していく日常
6 捜査を阻む手
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車を降り、ずんずんと近づいてくる影。彼は40代後半から50代くらいだろうか。
もっとも、見た目で年齢など分かりはしない。ただ、自分たちよりは随分年上に感じたのだ。
「知り合い?」
隣で青ざめる陽菜に問う。不味いという雰囲気は伝わってくるものの怯えている様子はないためストーカーの類ではないと思われた。
「父よ。どうしてここに」
「え、お父さん?!」
何故彼女の父がここにやってきたのか。瞬時に想像できなかったことは残念としか言いようがない。冷静になった考えたらわかることであったのに。
「陽菜、帰るぞ!」
近づくなり乱暴に彼女の手を掴む彼。
「待ってよ、お父さん」
戀は何も言えないままその場に立ち尽くす。すると矛先が自分へ向いた。
「あんたか、連日うちの娘を連れまわしてんのは」
その瞳は怒りに染まっている。戀が口を開こうとするより先に彼がそれを遮った。品定めでもするように戀を頭からつま先まで確認すると、想定外の言葉がその口から飛び出す。
「あんたは陽菜の上司か。それとも先輩か? 終業時間はとっくに過ぎているのに、こんな時間まで連れまわして。パワハラだぞ!」
「お父さん、彼は違うの」
「じゃあ何か? 同僚か」
戀は状況が悪化するのをただ黙ってみているしかできない。
余計なことを言って更に怒らせてしまうのだけは避けたかった。
「嫁入り前の娘を連れまわして。悪い噂が立ったらどうしてくれるんだ!」
『今は令和だよな?』そんなことを思いながらも戀は頭を下げ、謝罪の言葉を述べる。怒り方は昭和を感じさせるが、娘の心配をしていることは十分伝わってきた。
しかも兄は失踪してしまっている。娘もいなくなってしまったらと思っても無理はない。車内でなかったのが不幸中の幸いとでもいうべきか。
「とにかく。娘は連れて帰る。あんたもこれが業務だと言うならパワハラだからな。上司にそう言うように!」
全く話を聞かないまま、陽菜の手を引く彼。
戀は頭を下げ、その背中を見送ったのだった。
「散々でしたね」
「え? ああ……」
車が去っていくのを見届けて、頭をあげると例のコンビニ店員が傍まで寄ってきていた。その手には清掃用のトングとゴミ袋が。
「まあ、騒ぎにならなくて良かったですよ」
「そうだね」
幸い周りに人がいなかった為、ここに来づらくなるということもなさそうだ。
「親が子を心配するのは当然だよ」
「そうちゃそうですが、ああいうのドラマぐらいでしか見たことありませんでしたよ」
口うるさく言う親は年々減っているのだろうか?
「あ、そうだ」
「なんです?」
誤解については陽菜に任せる他ないが、一つ気になることが出来た。
「姫宮さんが失踪した時も彼のお父さんはここへ?」
「いや、直接うちには来なかったと思いますね」
もし来ていたとしたなら、同じように手がかりを掴んでいたはずだろう。彼の言葉に嘘はないと感じた。
「で、どうするんすか? この先」
「この先?」
彼の言葉に聞き返す戀。
「関係者が戦線離脱しちゃったわけでしょ? 高坂《たかさか》さん一人で聞き込みをするにも限度があるのでは?」
かなかな鋭い指摘である。陽菜が離脱してしまうと、例の女子高生たちに話を聞くのも困難かもしれない。
「ま。困ったことがあったらいつでも声かけてくださいよ。家、すぐそこだし」
「ありがとう」
彼と連絡先の交換をしていたことを思い出し、素直に礼を述べる。
「早速だけど」
「はい?」
戀はスマホを操作するとある画面を彼に向けた。
「これ見て欲しいんだけど」
「なかなか可愛いっすね。高坂さんはこういうタイプが好きなんです? でもちょっと犯罪じゃないかなあ」
戀の向けた画面を見ながらそんな感想を漏らす彼。戀は眉を寄せる。
「いや、そうじゃなくて。確かに可愛いけどさ。この制服? ここによく来る女子高生たちって」
「ああ。そうそう。これっすよ、これ。よく特定できましたね。高坂さん向いてるんじゃないですか? 探偵」
「会社をクビになったら検討するよ」
『やっぱりK学か』と心の中で呟きながら、曖昧な返事をする戀であった。
もっとも、見た目で年齢など分かりはしない。ただ、自分たちよりは随分年上に感じたのだ。
「知り合い?」
隣で青ざめる陽菜に問う。不味いという雰囲気は伝わってくるものの怯えている様子はないためストーカーの類ではないと思われた。
「父よ。どうしてここに」
「え、お父さん?!」
何故彼女の父がここにやってきたのか。瞬時に想像できなかったことは残念としか言いようがない。冷静になった考えたらわかることであったのに。
「陽菜、帰るぞ!」
近づくなり乱暴に彼女の手を掴む彼。
「待ってよ、お父さん」
戀は何も言えないままその場に立ち尽くす。すると矛先が自分へ向いた。
「あんたか、連日うちの娘を連れまわしてんのは」
その瞳は怒りに染まっている。戀が口を開こうとするより先に彼がそれを遮った。品定めでもするように戀を頭からつま先まで確認すると、想定外の言葉がその口から飛び出す。
「あんたは陽菜の上司か。それとも先輩か? 終業時間はとっくに過ぎているのに、こんな時間まで連れまわして。パワハラだぞ!」
「お父さん、彼は違うの」
「じゃあ何か? 同僚か」
戀は状況が悪化するのをただ黙ってみているしかできない。
余計なことを言って更に怒らせてしまうのだけは避けたかった。
「嫁入り前の娘を連れまわして。悪い噂が立ったらどうしてくれるんだ!」
『今は令和だよな?』そんなことを思いながらも戀は頭を下げ、謝罪の言葉を述べる。怒り方は昭和を感じさせるが、娘の心配をしていることは十分伝わってきた。
しかも兄は失踪してしまっている。娘もいなくなってしまったらと思っても無理はない。車内でなかったのが不幸中の幸いとでもいうべきか。
「とにかく。娘は連れて帰る。あんたもこれが業務だと言うならパワハラだからな。上司にそう言うように!」
全く話を聞かないまま、陽菜の手を引く彼。
戀は頭を下げ、その背中を見送ったのだった。
「散々でしたね」
「え? ああ……」
車が去っていくのを見届けて、頭をあげると例のコンビニ店員が傍まで寄ってきていた。その手には清掃用のトングとゴミ袋が。
「まあ、騒ぎにならなくて良かったですよ」
「そうだね」
幸い周りに人がいなかった為、ここに来づらくなるということもなさそうだ。
「親が子を心配するのは当然だよ」
「そうちゃそうですが、ああいうのドラマぐらいでしか見たことありませんでしたよ」
口うるさく言う親は年々減っているのだろうか?
「あ、そうだ」
「なんです?」
誤解については陽菜に任せる他ないが、一つ気になることが出来た。
「姫宮さんが失踪した時も彼のお父さんはここへ?」
「いや、直接うちには来なかったと思いますね」
もし来ていたとしたなら、同じように手がかりを掴んでいたはずだろう。彼の言葉に嘘はないと感じた。
「で、どうするんすか? この先」
「この先?」
彼の言葉に聞き返す戀。
「関係者が戦線離脱しちゃったわけでしょ? 高坂《たかさか》さん一人で聞き込みをするにも限度があるのでは?」
かなかな鋭い指摘である。陽菜が離脱してしまうと、例の女子高生たちに話を聞くのも困難かもしれない。
「ま。困ったことがあったらいつでも声かけてくださいよ。家、すぐそこだし」
「ありがとう」
彼と連絡先の交換をしていたことを思い出し、素直に礼を述べる。
「早速だけど」
「はい?」
戀はスマホを操作するとある画面を彼に向けた。
「これ見て欲しいんだけど」
「なかなか可愛いっすね。高坂さんはこういうタイプが好きなんです? でもちょっと犯罪じゃないかなあ」
戀の向けた画面を見ながらそんな感想を漏らす彼。戀は眉を寄せる。
「いや、そうじゃなくて。確かに可愛いけどさ。この制服? ここによく来る女子高生たちって」
「ああ。そうそう。これっすよ、これ。よく特定できましたね。高坂さん向いてるんじゃないですか? 探偵」
「会社をクビになったら検討するよ」
『やっぱりK学か』と心の中で呟きながら、曖昧な返事をする戀であった。
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