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11話 意外な結末
5 叔母と戀
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店内に流れる優しく美しいピアノ曲に耳を傾けながら、戀はこれからのことを考えた。
陽菜の兄を見つけるという目的は達成され、近いうちに偽りの恋人関係は解消されることになるだろう。
それは初めから決まっていた未来《こと》。
お役御免というやつなのだろうなと思いながら、陽菜の笑顔を思い出す。優しくて思いやりがあって、時に悪戯っぽい笑みを浮かべる彼女。繋いだ手が温かくて、陽菜と一緒にいるととても心穏やかでいられたことを。
気づけばいつの間にか囚われていた過去から抜け出している自分がいて。
それは陽菜のお蔭なのだと理解する。
だが、彼女が自分のことをどう思っているのかわからない。好きだと告げて玉砕する可能性もあるのだから、悠然と構えてはいられないだろう。今、自分に必要なのは覚悟かもしれない。
「そういう叔母さんの方はどうなんだよ。いい人とかいないの?」
「いい男なら目の前にいるわよ」
叔母の言葉に戀はため息をついた。
「昔は名前で呼んでくれていたのにねえ」
自分のことになるとこうやって昔のことを掘り返すのは、いつものことである。
「”大きくなったら藤乃《ふじの》と結婚するんだ”って……可愛かったのに」
「やめて」
小学生の頃の黒歴史を持ち出され、戀は両手で顔を覆う。
常連客から『叔母と甥は結婚できない』という法律の話をされ、理解したのは小学校高学年のことだった。
中学生になり、叔母の事を名前で呼んでいた戀は友人から揶揄われたことをきっかけに、叔母と呼び始めたのである。
思春期とは些細なことをこの世の終わりのように感じてしまう時期。逆に無敵だと思ってしまうような者もいるが、少なくとも戀は前者であった。
指の隙間からそっと様子を窺うと、叔母が面白そうにこちらを眺めていた。
そんな彼女に抗議しようとしたところでドアベルがカランコロンと音を立てる。
「あら、お客さんだわ」
入り口に視線を移す叔母。戀は”行った行った”とでも言うように追い払う仕草をした。彼女は”そんな邪険にしなくても”と顔を膨らませながら入り口へ向かっていく。
叔母が遠ざかっていくと、ため息一つ。
ここ最近は隣に陽菜がいた。だから一人になると少し寂しさを感じてしまうが、元の日常に戻っただけ。ただそれだけなのだ。
「写真で見るよりイケメンね」
入り口の方から叔母の声が聞こえ、戀は何気なくそちらに身体を向ける。それと同時に叔母がこちらに呼びかけた。
「戀、お客さん」
”俺は従業員じゃないぞ”と返事をしようとしたところで、こちらに向かって来た陽菜と目が合う。
「さっきこちらに連絡したら、マスターが戀くんまだここにいるって言っていたから」
「そっか。お兄さんの様子どう?」
陽菜や家族に再会し、断片的に戻った記憶もあるという話は聞いている。
「それでね、兄とお礼に来たの。直接会ってお礼が言いたいというから……ってお兄ちゃん?」
陽菜は背後を振り返り、兄がいないので二度見した。
「ちょっと、どこいったの……って、まだ入り口にいた。何してるのかしら」
何故か陽菜の兄は入り口で固まっている。
別に外の世界が珍しいというわけでもないだろう。戀の元カノは暇を見つけては彼を外に連れ出していたと言っていたのだから。
陽菜は呆れ顔で入り口を見ていたが、何かに気づき『へえ』と声を漏らした。
「どうかしたの?」
「ううん。ようやく兄にも春が来たみたい」
「これから冬本番なのに?」
驚く戀に”うん?”と不思議そうな表情をする彼女。何が何やらである。
その後戀は彼女の兄と会話を交わし、礼を言われたが。どうも今回の件だけを指しているような気がしなかった。つまり、何か別のことに関しても感謝されているような気がしたのである。
その違和感の正体に気づいたのは数日後のことであった。
陽菜の兄を見つけるという目的は達成され、近いうちに偽りの恋人関係は解消されることになるだろう。
それは初めから決まっていた未来《こと》。
お役御免というやつなのだろうなと思いながら、陽菜の笑顔を思い出す。優しくて思いやりがあって、時に悪戯っぽい笑みを浮かべる彼女。繋いだ手が温かくて、陽菜と一緒にいるととても心穏やかでいられたことを。
気づけばいつの間にか囚われていた過去から抜け出している自分がいて。
それは陽菜のお蔭なのだと理解する。
だが、彼女が自分のことをどう思っているのかわからない。好きだと告げて玉砕する可能性もあるのだから、悠然と構えてはいられないだろう。今、自分に必要なのは覚悟かもしれない。
「そういう叔母さんの方はどうなんだよ。いい人とかいないの?」
「いい男なら目の前にいるわよ」
叔母の言葉に戀はため息をついた。
「昔は名前で呼んでくれていたのにねえ」
自分のことになるとこうやって昔のことを掘り返すのは、いつものことである。
「”大きくなったら藤乃《ふじの》と結婚するんだ”って……可愛かったのに」
「やめて」
小学生の頃の黒歴史を持ち出され、戀は両手で顔を覆う。
常連客から『叔母と甥は結婚できない』という法律の話をされ、理解したのは小学校高学年のことだった。
中学生になり、叔母の事を名前で呼んでいた戀は友人から揶揄われたことをきっかけに、叔母と呼び始めたのである。
思春期とは些細なことをこの世の終わりのように感じてしまう時期。逆に無敵だと思ってしまうような者もいるが、少なくとも戀は前者であった。
指の隙間からそっと様子を窺うと、叔母が面白そうにこちらを眺めていた。
そんな彼女に抗議しようとしたところでドアベルがカランコロンと音を立てる。
「あら、お客さんだわ」
入り口に視線を移す叔母。戀は”行った行った”とでも言うように追い払う仕草をした。彼女は”そんな邪険にしなくても”と顔を膨らませながら入り口へ向かっていく。
叔母が遠ざかっていくと、ため息一つ。
ここ最近は隣に陽菜がいた。だから一人になると少し寂しさを感じてしまうが、元の日常に戻っただけ。ただそれだけなのだ。
「写真で見るよりイケメンね」
入り口の方から叔母の声が聞こえ、戀は何気なくそちらに身体を向ける。それと同時に叔母がこちらに呼びかけた。
「戀、お客さん」
”俺は従業員じゃないぞ”と返事をしようとしたところで、こちらに向かって来た陽菜と目が合う。
「さっきこちらに連絡したら、マスターが戀くんまだここにいるって言っていたから」
「そっか。お兄さんの様子どう?」
陽菜や家族に再会し、断片的に戻った記憶もあるという話は聞いている。
「それでね、兄とお礼に来たの。直接会ってお礼が言いたいというから……ってお兄ちゃん?」
陽菜は背後を振り返り、兄がいないので二度見した。
「ちょっと、どこいったの……って、まだ入り口にいた。何してるのかしら」
何故か陽菜の兄は入り口で固まっている。
別に外の世界が珍しいというわけでもないだろう。戀の元カノは暇を見つけては彼を外に連れ出していたと言っていたのだから。
陽菜は呆れ顔で入り口を見ていたが、何かに気づき『へえ』と声を漏らした。
「どうかしたの?」
「ううん。ようやく兄にも春が来たみたい」
「これから冬本番なのに?」
驚く戀に”うん?”と不思議そうな表情をする彼女。何が何やらである。
その後戀は彼女の兄と会話を交わし、礼を言われたが。どうも今回の件だけを指しているような気がしなかった。つまり、何か別のことに関しても感謝されているような気がしたのである。
その違和感の正体に気づいたのは数日後のことであった。
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