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最終話 新たなる一歩
2 陽菜の本音
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本来なら素敵なレストランでも予約して、ロマンチックな演出でもした方がいいのだろう。だが、そうこうしているうちに決心が鈍ってしまいそうだった。
それにダメ元なのだ。告白のチャンスさえ失うことを考えたら、思い立ったが吉日と開き直った方がいい。
だが戀は先の自分の発言がすでに告白と変わらないことには気づいていなかった。
『偽りでも恋人同士になれたのはとても嬉しかった』
そう言ってしまっていることに。
「偽りの関係はもう終わりだけれど、俺は陽菜さんと正式につき合えたらいいなと思ってる」
彼女はじっとこちらを見上げていた。
「俺、陽菜さんのことが好きな……うぐっ」
何故か戀は彼女の手によってその先の言葉を阻まれる。まるで”黙って”とでも言うように。まさかストーキングでもされているのだろうかと目だけで辺りを見渡すが。
ゆっくりと彼女の手が離れていき、衝撃的なことを言われた。
「戀くんがわたしのことを好きなのは知ってた」
陽菜の発言に今度は咽《むせ》る。
知っていてあんなことやこんなことをしてきたのかと思うと途端に恥ずかしくなった。
「マスターから聞いていたの。戀くんがわたしに好感を持ってるって。初めは冗談だと思っていたんだけど、観察しているうちに”ああ、そうなんだって”思った」
”一体、何を言ってくれてるんだ”と心の中で悪態をつく。
「それでね。観察しているうちに、気づいたらわたしも意識しちゃってた」
”でも”と彼女は俯き地面を蹴った。
これはフラれるパターンか? とドキドキしてしまう。
「元カノさん出てくるし、マスターには『戀は鈍感だから意思表示してもわからないかもね』って言われて」
「え」
「ちょっと焦ったんだ」
彼女の手が戀の腕に触れる。
「だからね」
「う、うん?」
偽りの恋人を演じることを提案したのには、そういう経緯があったからだと知った。
「このままだったら、どうしようかと思った」
「え?」
むぎゅっと抱き着かれ、戸惑いながらもふわりと抱きしめ返す。
「だって、マスターったらね。『戀はもたもたしているから、このままだとじじいになるわね』とか言うし。戀くんは『もう終わり』って言うし」
なんだかよく分からないが、叔母は意図的に陽菜を煽ったようだ。
つまり話を総合すると、陽菜は戀が元カノとヨリを戻さないように『恋人を演じる』という提案をしたということのようだ。
ただ初めは不安だったらしい。つき合うと変貌する男性というのは存在する。戀は偽りの恋人という立場を利用しようとはしなかった。それが陽菜には良い人として映ったようである。
両想いと捉えても良いのだろうか?
分からないまま、彼女の髪を撫でる。
「陽菜さ……」
名前を呼ぼうとして陽菜の指先が戀の口元にあてられた。
「その、他人行儀」
「うん?」
「またそうやって呼ぶ」
上目遣いに、じとっとこちらを見上げる彼女。
「いや、でも、まだ告白の途中だし」
「じゃあ、早く続き」
無茶苦茶だと思いつつも、彼女に振り回されるのは嫌じゃないと思い始めている。どんな陽菜も可愛く感じてしまうのだから。
「俺とつき合ってください」
こんな体勢で言うのは変。それは分かっているのだが。
胸の中の彼女は”喜んで”と微笑んだのち、再び戀の胸に顔を埋めた。
「さむーい」
「そうだね」
先ほどから抱き着いてくるのは、love的なものではなく寒いからだと気づき少しがっかりした。
「風邪引いちゃうからそろそろ図書館へ向かおうか」
「んー」
”戀くんのコートふわふわ”と言って離れたがらない陽菜に戀はクスっと笑ってしまう。そして巻いていたマフラーを解くと、彼女の首にかけてやる。
「温かい」
「カシミア100%」
「なにそれ、ズルい」
”ズルいってどういうことだよ”と笑いながら戀は彼女の手を取った。
正式な恋人として。
それにダメ元なのだ。告白のチャンスさえ失うことを考えたら、思い立ったが吉日と開き直った方がいい。
だが戀は先の自分の発言がすでに告白と変わらないことには気づいていなかった。
『偽りでも恋人同士になれたのはとても嬉しかった』
そう言ってしまっていることに。
「偽りの関係はもう終わりだけれど、俺は陽菜さんと正式につき合えたらいいなと思ってる」
彼女はじっとこちらを見上げていた。
「俺、陽菜さんのことが好きな……うぐっ」
何故か戀は彼女の手によってその先の言葉を阻まれる。まるで”黙って”とでも言うように。まさかストーキングでもされているのだろうかと目だけで辺りを見渡すが。
ゆっくりと彼女の手が離れていき、衝撃的なことを言われた。
「戀くんがわたしのことを好きなのは知ってた」
陽菜の発言に今度は咽《むせ》る。
知っていてあんなことやこんなことをしてきたのかと思うと途端に恥ずかしくなった。
「マスターから聞いていたの。戀くんがわたしに好感を持ってるって。初めは冗談だと思っていたんだけど、観察しているうちに”ああ、そうなんだって”思った」
”一体、何を言ってくれてるんだ”と心の中で悪態をつく。
「それでね。観察しているうちに、気づいたらわたしも意識しちゃってた」
”でも”と彼女は俯き地面を蹴った。
これはフラれるパターンか? とドキドキしてしまう。
「元カノさん出てくるし、マスターには『戀は鈍感だから意思表示してもわからないかもね』って言われて」
「え」
「ちょっと焦ったんだ」
彼女の手が戀の腕に触れる。
「だからね」
「う、うん?」
偽りの恋人を演じることを提案したのには、そういう経緯があったからだと知った。
「このままだったら、どうしようかと思った」
「え?」
むぎゅっと抱き着かれ、戸惑いながらもふわりと抱きしめ返す。
「だって、マスターったらね。『戀はもたもたしているから、このままだとじじいになるわね』とか言うし。戀くんは『もう終わり』って言うし」
なんだかよく分からないが、叔母は意図的に陽菜を煽ったようだ。
つまり話を総合すると、陽菜は戀が元カノとヨリを戻さないように『恋人を演じる』という提案をしたということのようだ。
ただ初めは不安だったらしい。つき合うと変貌する男性というのは存在する。戀は偽りの恋人という立場を利用しようとはしなかった。それが陽菜には良い人として映ったようである。
両想いと捉えても良いのだろうか?
分からないまま、彼女の髪を撫でる。
「陽菜さ……」
名前を呼ぼうとして陽菜の指先が戀の口元にあてられた。
「その、他人行儀」
「うん?」
「またそうやって呼ぶ」
上目遣いに、じとっとこちらを見上げる彼女。
「いや、でも、まだ告白の途中だし」
「じゃあ、早く続き」
無茶苦茶だと思いつつも、彼女に振り回されるのは嫌じゃないと思い始めている。どんな陽菜も可愛く感じてしまうのだから。
「俺とつき合ってください」
こんな体勢で言うのは変。それは分かっているのだが。
胸の中の彼女は”喜んで”と微笑んだのち、再び戀の胸に顔を埋めた。
「さむーい」
「そうだね」
先ほどから抱き着いてくるのは、love的なものではなく寒いからだと気づき少しがっかりした。
「風邪引いちゃうからそろそろ図書館へ向かおうか」
「んー」
”戀くんのコートふわふわ”と言って離れたがらない陽菜に戀はクスっと笑ってしまう。そして巻いていたマフラーを解くと、彼女の首にかけてやる。
「温かい」
「カシミア100%」
「なにそれ、ズルい」
”ズルいってどういうことだよ”と笑いながら戀は彼女の手を取った。
正式な恋人として。
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