43 / 96
7『それぞれが抱える問題と難関』
5【微R】ヤバすぎる男、総括黒岩
しおりを挟む
****side■唯野
「ねえ、修二さん」
行為に夢中になっていた唯野は彼に名を呼ばれ、瞼を上げる。その途端、優しく口づけられ深く腰を進められた。
「んんッ」
気持ちよくてどうにかなってしまいそうだ。彼にぎゅっとしがみつけば、優しく抱きしめ返してくれる。
──いつか恋をして、温かい家庭を作るのが夢だった。
俺の夢は叶わなかったけれど……。
板井とならきっと楽しい結婚生活ができるだろう、唯野はそんな風に思う。
自分に突き付けられた現実は、決して優しいものではなかった。愛しい娘は自分とは血のつながりがなく、まがい物の愛を信じていただけ。
──これが自分の運命だと言うのなら、受け止める。
でも彼だけは、俺から取り上げないでほしい。
振り返れば、幸せとは言い難い人生だった。その中でやっと手にした幸せが、彼。一途で誠実で真っすぐな彼はきっと自分を幸せにしてくれるだろう。欲しかった温かさを与えてくれる存在。
しかしそんな彼に、自分は何をしてあげられるだろうか?
──恋も愛も努力なんだと思う。
貰うだけでも駄目だし、与えるだけでも駄目だ。
「板井」
「はい?」
「明日は一緒に朝食を取ろう」
それは些細な事かもしれない。けれど一緒の時間を作っていくことが大切なのだと思う。
唯野の言葉に優しい笑みを浮かべる彼。こんな小さなことが、とても幸せなんだと感じた。
情事の後の心地よい気だるさに身を任せながら、板井にすり寄ると背中を撫でられた。彼の手の平から伝わる温もりと優しさ。あの頃はこんな日が来るなんて思ってもいなかった。
「そう言えば」
と突然話を振られ、なんだと言うように彼に視線を向ける。
「妙な噂を耳にしたんですが」
「噂?」
あまりいい予感はしない。板井は元々余計なことを言わない男だ。わざわざ切り出すということは、自分にまつわる話に違いない。
「修二さん、総括に交際を迫られたことがあるらしいですね」
「え? ……あ、いや、あれは冗談だろ?」
それは今から十七年も前の話。しかも結婚する前の。
「やっぱりホントなんですね」
”通りで距離感が変だと思いました”と彼は言う。
──そんなに距離感変か?
「いくら同期で仲がいいからと言って、あんなクソ忙しい人が足蹴く苦情係にやってくるのはオカシイと思っていたんですよ」
「待てよ。昔の話だぞ。そもそも誰に聞いたんだよ」
「秘書室長です。たまに屋上で会うんですよ。修二さんの同期らしいですね」
「ああ、まあ」
──余計なこと言わないように、口止めしとかないとな。
「修二さん、気を付けてくださいよ? 人の気持ちなんて何がきっかけで再燃するか分かったものじゃないし。それにあの人は、割り切った大人の関係を好むタイプですよ」
何を見てそう思うのかは分からないが、強ち間違ってはいないと思った。
『唯野、俺と付き合わないか?』
『え?』
『男同士なら子供ができる心配もないし、思う存分性欲を発散できるぞ』
『いや、遠慮する』
──まだ若かったとは言え、あいつは愛情よりも性欲の暴走した男だった気がする。
最近落ち着いたけれど。
「ま、大丈夫だろ」
唯野の言葉にため息をつく板井。
「修二さんは危機管理が甘すぎます」
その言葉が現実のものとなるとは思ってもいなかった唯野であった。
「ねえ、修二さん」
行為に夢中になっていた唯野は彼に名を呼ばれ、瞼を上げる。その途端、優しく口づけられ深く腰を進められた。
「んんッ」
気持ちよくてどうにかなってしまいそうだ。彼にぎゅっとしがみつけば、優しく抱きしめ返してくれる。
──いつか恋をして、温かい家庭を作るのが夢だった。
俺の夢は叶わなかったけれど……。
板井とならきっと楽しい結婚生活ができるだろう、唯野はそんな風に思う。
自分に突き付けられた現実は、決して優しいものではなかった。愛しい娘は自分とは血のつながりがなく、まがい物の愛を信じていただけ。
──これが自分の運命だと言うのなら、受け止める。
でも彼だけは、俺から取り上げないでほしい。
振り返れば、幸せとは言い難い人生だった。その中でやっと手にした幸せが、彼。一途で誠実で真っすぐな彼はきっと自分を幸せにしてくれるだろう。欲しかった温かさを与えてくれる存在。
しかしそんな彼に、自分は何をしてあげられるだろうか?
──恋も愛も努力なんだと思う。
貰うだけでも駄目だし、与えるだけでも駄目だ。
「板井」
「はい?」
「明日は一緒に朝食を取ろう」
それは些細な事かもしれない。けれど一緒の時間を作っていくことが大切なのだと思う。
唯野の言葉に優しい笑みを浮かべる彼。こんな小さなことが、とても幸せなんだと感じた。
情事の後の心地よい気だるさに身を任せながら、板井にすり寄ると背中を撫でられた。彼の手の平から伝わる温もりと優しさ。あの頃はこんな日が来るなんて思ってもいなかった。
「そう言えば」
と突然話を振られ、なんだと言うように彼に視線を向ける。
「妙な噂を耳にしたんですが」
「噂?」
あまりいい予感はしない。板井は元々余計なことを言わない男だ。わざわざ切り出すということは、自分にまつわる話に違いない。
「修二さん、総括に交際を迫られたことがあるらしいですね」
「え? ……あ、いや、あれは冗談だろ?」
それは今から十七年も前の話。しかも結婚する前の。
「やっぱりホントなんですね」
”通りで距離感が変だと思いました”と彼は言う。
──そんなに距離感変か?
「いくら同期で仲がいいからと言って、あんなクソ忙しい人が足蹴く苦情係にやってくるのはオカシイと思っていたんですよ」
「待てよ。昔の話だぞ。そもそも誰に聞いたんだよ」
「秘書室長です。たまに屋上で会うんですよ。修二さんの同期らしいですね」
「ああ、まあ」
──余計なこと言わないように、口止めしとかないとな。
「修二さん、気を付けてくださいよ? 人の気持ちなんて何がきっかけで再燃するか分かったものじゃないし。それにあの人は、割り切った大人の関係を好むタイプですよ」
何を見てそう思うのかは分からないが、強ち間違ってはいないと思った。
『唯野、俺と付き合わないか?』
『え?』
『男同士なら子供ができる心配もないし、思う存分性欲を発散できるぞ』
『いや、遠慮する』
──まだ若かったとは言え、あいつは愛情よりも性欲の暴走した男だった気がする。
最近落ち着いたけれど。
「ま、大丈夫だろ」
唯野の言葉にため息をつく板井。
「修二さんは危機管理が甘すぎます」
その言葉が現実のものとなるとは思ってもいなかった唯野であった。
0
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
壁乳
リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。
最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。
じれじれラブコメディー。
4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。
(挿絵byリリーブルー)
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる