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9『陽だまりみたいな君と日常』
4 社長の望むものとは
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****side■唯野
「浴衣、似合いますね」
旅館についたその日は、食事だけ皆で取ってそれぞれの部屋へと解散した。今頃、塩田と電車ものんびりしているに違いない。彼らが自分たちの部屋へ帰った後は、板井と共に部屋に付いている露天風呂へ。
月がとても綺麗な夜だ。風呂から上がった二人は縁側で涼んでいた。
「ありがと」
照れながら礼を言う唯野。彼の手が頬に伸びる。唯野はその手に自分の手を重ねた。
「たまにはいいですね、こんな風にのんびりするのも」
と言う板井に、
「そうだな」
と微笑む唯野。
「聞きたいこと、聞いても良いですか?」
「うん? ああ」
板井に聞かれたのは皇副社長のことだった。予想はしていたことだが、彼はすでに全てを知っていると思っていたので驚く。
「むしろ、板井は何をどこまで知ってるんだ?」
と唯野。
「俺は知っているというよりも、話を総合して予想を立てているだけです」
社長に目をつけられたのは十七年前の元会長とのことが発端だった。
しかし社長は皇が入社するまでは唯野の味方だったのだ。
「単刀直入に伺いますが娘さんって、誰の子なんですか?」
「え?」
実のところ唯野もそのことは知らなかった。というよりも、会長の子だと思い込んでいた。
板井に問われ、初めてそれがおかしいということに気づく。
──板井は俺よりもいろんなことを考えているということか。
「俺も知らない」
唯野が申し訳なさそうに板井の方を見やると、彼は”え?”という表情をしていた。
「何というか、その可能性を考えてなかった」
「そうですか……」
複雑な表情をして、板井は立てた膝に頬杖をつく。
「では社長は何故、修二さんのことを恨んでるんです?」
──恨んでる理由?
「いや、違いますね。俺が知りたいのは……社長の目的はなんです?」
先日、社長秘書の神流川から社長の離婚が決定したことを聞いた。
それは今まで以上に警戒が必要であるという意味だ。あれから板井が秘書室長とコンタクトを取っているとするならば、もちろんそのことも耳に入っているはず。
「簡単に説明すれば、社長は副社長と恋愛関係になりたいだけだよ」
そう、複雑に見える一連のこと。目的は単純なのだ。それが複雑化してしまったことには、いくつかの理由がある。
一つは、皇の勘違い。それはきっと社長にとっても誤算だったはず。
社長が起こさせた四年前の事件は、社長にとって想定外の結末。初めから皇と肉体関係を持とうとしてわけではなかった。社長が欲しかったのは皇からの信頼。その為に皇を恨んでいる奴らに襲わせた。
だが社長は皇に欲情し、彼を言いくるめその身体を好きにしたのだ。
しかし計画が狂った理由はそこにあるわけではない。唯野がそのことに気づいてしまったことと、社長からの行為が単なる性欲処理と皇が思ったことにあった。
すれ違ったまま、皇は塩田に恋をした。これが第二の誤算だ。
「社長は皇を無理やり恋人にする気はないんだ」
唯野がそういうと、眉を寄せていた板井は、
「つまり修二さんが社長からパワハラを受けているのは……」
「単なる八つ当たりだな」
確かに唯野は邪魔をしてはいる。だが皇への誤解を解くか解かないかは社長次第。互いに想い合っているのであれば、唯野とて邪魔はしない。
現状、社長が皇に身体を求めるのはパワハラないしセクハラでしかないから妨害しているのである。
社長もそれは分かっているのだ。
「社長はめんどくさい人なんですね」
と板井。
「まあ、そうだな」
そもそも、社長が唯野を社長室に呼ぶから忙しい苦情係を皇が手伝おうとする。社長はそれが気に入らないようだが、悪化させているのは社長自身であることに彼は気づいていない。
皇を守るには社長から遠ざけるのが一番。
すなわち、唯野がパワハラに耐えるのは、この状況がベストだからなのである。
「負のループですねえ。社長が修二さんを呼ばなければ、こうならなかったということですよね?」
「そうなんだが、今更手遅れだろうな」
人は思い込みによって行動する生き物でもある。不安からは逃れられない。
そして一度そのループにはまってしまったら抜け出すのは困難。
どんなにあがいても、悪化の一途を辿るのだ。
「浴衣、似合いますね」
旅館についたその日は、食事だけ皆で取ってそれぞれの部屋へと解散した。今頃、塩田と電車ものんびりしているに違いない。彼らが自分たちの部屋へ帰った後は、板井と共に部屋に付いている露天風呂へ。
月がとても綺麗な夜だ。風呂から上がった二人は縁側で涼んでいた。
「ありがと」
照れながら礼を言う唯野。彼の手が頬に伸びる。唯野はその手に自分の手を重ねた。
「たまにはいいですね、こんな風にのんびりするのも」
と言う板井に、
「そうだな」
と微笑む唯野。
「聞きたいこと、聞いても良いですか?」
「うん? ああ」
板井に聞かれたのは皇副社長のことだった。予想はしていたことだが、彼はすでに全てを知っていると思っていたので驚く。
「むしろ、板井は何をどこまで知ってるんだ?」
と唯野。
「俺は知っているというよりも、話を総合して予想を立てているだけです」
社長に目をつけられたのは十七年前の元会長とのことが発端だった。
しかし社長は皇が入社するまでは唯野の味方だったのだ。
「単刀直入に伺いますが娘さんって、誰の子なんですか?」
「え?」
実のところ唯野もそのことは知らなかった。というよりも、会長の子だと思い込んでいた。
板井に問われ、初めてそれがおかしいということに気づく。
──板井は俺よりもいろんなことを考えているということか。
「俺も知らない」
唯野が申し訳なさそうに板井の方を見やると、彼は”え?”という表情をしていた。
「何というか、その可能性を考えてなかった」
「そうですか……」
複雑な表情をして、板井は立てた膝に頬杖をつく。
「では社長は何故、修二さんのことを恨んでるんです?」
──恨んでる理由?
「いや、違いますね。俺が知りたいのは……社長の目的はなんです?」
先日、社長秘書の神流川から社長の離婚が決定したことを聞いた。
それは今まで以上に警戒が必要であるという意味だ。あれから板井が秘書室長とコンタクトを取っているとするならば、もちろんそのことも耳に入っているはず。
「簡単に説明すれば、社長は副社長と恋愛関係になりたいだけだよ」
そう、複雑に見える一連のこと。目的は単純なのだ。それが複雑化してしまったことには、いくつかの理由がある。
一つは、皇の勘違い。それはきっと社長にとっても誤算だったはず。
社長が起こさせた四年前の事件は、社長にとって想定外の結末。初めから皇と肉体関係を持とうとしてわけではなかった。社長が欲しかったのは皇からの信頼。その為に皇を恨んでいる奴らに襲わせた。
だが社長は皇に欲情し、彼を言いくるめその身体を好きにしたのだ。
しかし計画が狂った理由はそこにあるわけではない。唯野がそのことに気づいてしまったことと、社長からの行為が単なる性欲処理と皇が思ったことにあった。
すれ違ったまま、皇は塩田に恋をした。これが第二の誤算だ。
「社長は皇を無理やり恋人にする気はないんだ」
唯野がそういうと、眉を寄せていた板井は、
「つまり修二さんが社長からパワハラを受けているのは……」
「単なる八つ当たりだな」
確かに唯野は邪魔をしてはいる。だが皇への誤解を解くか解かないかは社長次第。互いに想い合っているのであれば、唯野とて邪魔はしない。
現状、社長が皇に身体を求めるのはパワハラないしセクハラでしかないから妨害しているのである。
社長もそれは分かっているのだ。
「社長はめんどくさい人なんですね」
と板井。
「まあ、そうだな」
そもそも、社長が唯野を社長室に呼ぶから忙しい苦情係を皇が手伝おうとする。社長はそれが気に入らないようだが、悪化させているのは社長自身であることに彼は気づいていない。
皇を守るには社長から遠ざけるのが一番。
すなわち、唯野がパワハラに耐えるのは、この状況がベストだからなのである。
「負のループですねえ。社長が修二さんを呼ばなければ、こうならなかったということですよね?」
「そうなんだが、今更手遅れだろうな」
人は思い込みによって行動する生き物でもある。不安からは逃れられない。
そして一度そのループにはまってしまったら抜け出すのは困難。
どんなにあがいても、悪化の一途を辿るのだ。
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