R18【同性恋愛】リーマン物語if5『塩田と板井と苦情係』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
76 / 96
11『幸せの扉叩いて』

2 板井の後悔

しおりを挟む
****side■板井

「これを……ん? どうした」
 板井は皇が塩田に仕事の指示を出すところを自分の席から眺めていた。
「あ、いや」
 一定の距離を保とうと、一歩下がる塩田。いつもの彼からすると非常に不自然な行動だ。皇でなくとも怪訝に思うだろう。
「そんな離れたら見えないだろ」
 皇は眉を寄せ、肩を竦める。

──俺、余計なこと言ったかな。

 塩田が困った顔をして皇を見つめ返す。板井はそんな二人の様子を眺めながら心の中でため息をつく。
 恐らく、あれから電車でんまと何かあったに違いない。困った奴らだ。

「悪い。板井に頼んでくれ。暇そうだし」
 ちらりとこちらに視線を向けた塩田。どうやらこっちにお鉢が回って来たらしい。その瞳が助けを求めていた。
「なんだ、具合でも悪いのか?」
 皇は”仕方ないな”と言うと塩田から離れ、こちらに近づいてくる。
 塩田はホッとした顔をし、そそくさと苦情係から出ていく。
 それを見ていた皇が一言。
「なんだあいつ。腹でも壊してるのか?」
 彼の疑問に反応しても良かったが、あえて聞かなかったフリを決め込んだ板井。皇はチラリとこちらに視線を向けたが返答を求めはしなかった。

「で、板井は暇なのか?」
 今度こそ板井にはっきりと言葉を向けた皇。
「まあ、そこそこ暇だと思います」
 今日やるべき業務はとうに終わっていた。あとは他のメンツの業務を手伝えばいいだろうと思っていたところだ。
「これを……板井には説明は要らないか」
 ”以前も頼んだことあるしな”と皇は付け加えると、手に持っていた書類を板井に向けた。板井はそれを黙って受け取ると、どこ宛てか確認する。
「企画部ですか」
 企画部の雰囲気は板井も苦手だった。
「悪いな。社長に呼ばれているんだが、それも急ぎなんだ」
 彼は指先を板井の手元に向けて。
 わかりましたと返答して椅子から立ち上がる板井。皇はそれを待つことなく足早に苦情係を出ていく。

──なんだかな。
 塩田は何処に行ったのやら。

 給湯室から出てきた課長唯野に企画部に行く旨を告げ、板井は苦情係を後にした。商品部を通り、廊下にでて左右を確認すれば電車と塩田が休憩室の前で何やら話をしている。
 皇の姿はすでにない。
「何してるんだ? そんなところで」
 企画部へはエレベーターで上階に上がる必要がある。エレベーターは休憩室とは逆方向だ。
「板井」
 こちらに先に気づいた電車が近づいてくる。
「ああ、えっと塩田が気分が悪いみたいだから休憩室に連れていくとこ」
「そっか」
 何かあればメッセージを寄越すだろうと思い軽く手を上げ”またな”と声をかけると板井はエレベーターに向かった。

 エレベーターの箱に乗り込むと板井は先ほどのことをぼんやりと思い出す。かえって面倒なことになってしまったなと思いながら。

 皇が塩田に想いを告げたことはないと思う。
 本人から聞いたことはないが。
 それでも塩田以外の者は彼の気持ちに気づいていた。少なくとも苦情係の面々は気づいていたはずだ。
 恐らく、皇の気持ちを知ったくらいでは塩田は動じなかっただろう。
 しかしそのことで電車が悩んでいるなら話は別。塩田の心を占めているのは他でもない”電車紀夫”だけ。
 
──だが、あれじゃあまるで”意識しています”と言っているようなものじゃないか。

 板井は塩田に対し余計なことを言ってしまったことを後悔し始めていた。
 純粋に電車の力になりたかっただけなのに。
 皇の気持ちに気づかず、無意識に電車を不安にさせている塩田。ほんの少し状況を変えたかっただけなのだ。
 不安に感じながらも皇に対し明るく振舞う電車。いつもニコニコしているから板井も彼がそんなに悩んでいるとは思わなかったから。

──なんでこうなるかな。
 いや、もう少し慎重になるべきだったんだ。
 
 どうしたものかと思いながら目的の階でエレベーターを降りると、もう一つの頭痛の種と出くわしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

fall~獣のような男がぼくに歓びを教える

乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。 強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。 濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。 ※エブリスタで連載していた作品です

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...