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11『幸せの扉叩いて』
6 冷静な彼の胸の内
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****side■板井
乱暴なやり方ではあるが、これで少しは風向きが変わるだろうと思っていた板井は苦情係に戻ってきた塩田と皇を見て青ざめた。
──怒ってる? 怒ってるよな?
不味いと思い、顔を背けたが遅かったようだ。
「どうした? 板井」
隣の席の唯野が不思議そうにこちらを見る。
「あ、いや……その」
なんと言おうか迷っていると、それを遮る声。
「板井。ちょっといいか?」
全然良くないと思いながらも、板井はひきつった笑みを浮かべた。
「な、なんでしょう?」
白々しいとは思ったがとぼけるしかない。
「ちょっと来い」
唯野が”何かしたのか?”と言いたげな顔でこちらを見ていた。仕方なく板井は皇に付いて給湯室へ。
その間、塩田の方をチラリと見やったが彼は思い詰めた表情でPCモニターを見つめていたのだった。
先に給湯室に入った皇は腕を組み、流しに寄りかかっている。
「お前、塩田になんか言ったのか?」
明らかに怒っているとわかる声音。
「副社長が怒るようなことは何も」
彼が怒るようなことを言った覚えはない。これは事実だ。
「そうか、まあいい」
何故、皇が怒っているのかわからない板井は純粋に塩田が何を話したのか気になった。
「塩田から『結婚の報告』をされた」
と彼。
それが気に入らず怒っているのだろうか?
「『おめでとう』と言ったら不満そうな顔をされたんだよ」
「は?」
塩田が何故そんな顔をしたのか謎だ。
「お前だってそう思うだろ?」
「それは、はい」
「なんなんだよ。あいつらうまくいってないのか?」
”好きなやつと結婚するのに、おめでとうの何が変なんだよ”と不満を漏らしながら。
「そういうわけじゃないと思いますが」
板井の言葉に彼がため息をつく。
「じゃあ、なんて言われたかったんだよ」
「うーん……『俺様を振って他の男と結婚するとは。せいぜい後悔しないようにな』とか」
「……は?」
眉を寄せる皇。
「俺、どんな奴だと思われてんだよ。そんなこと言うわけないだろ」
ムッとする彼に新たな疑問が浮かぶ。
「副社長は好きな相手が結婚するというのに、よく冷静に『おめでとう』なんて言えますね」
するりと出た言葉。
その疑問が変だと思っていなかった板井は彼に睨まれ戸惑う。
「え? 好きですよね、塩田のこと。あ、動揺したんですか?」
「お前なあ……」
「ぐッ……」
皇から軽く腹に一発食らう。
「デリカシーってもんは、ないのかよ」
「すみません」
「好きだし、動揺もしたよ。でも結婚すること自体にではなく、何故わざわざ報告するのか? にだが」
「上司だからでは?」
”俺も、そう思ったよ”と彼。
だから好きな相手にではなく、上司として冷静に『おめでとう』と言ったのだということなのだろう。
だが塩田はそんなの求めていなかったということか。
上司としての言葉ではなく、皇の言葉が欲しかったんだろう。
「で、結局どうなったんですか?」
「別にどうにもならないよ。ただ……”好きなのか”って聞かれたが」
それは皇が塩田を好きかどうかと言うことなのだろうが、何故そんなことを今更確認したのだろうか。
その後二人は通常業務に戻った。
いつもと変わらない皇を尊敬する。自分だったなら、と板井は思う。
ずっと好きだった相手が恋人と結婚すると知って冷静でいられるだろうか?
『別に何も変わらないだろ。俺は塩田の元恋人ってわけでもないし』
皇はそう言っていた。
『邪魔する気はないが、好きなままでいいだろ』
とも。
どうしてそんな風にいられるのだろう。それだけ塩田が彼にとって特別なのだろうか? 好きなだけでいいと言えるほどに。
「板井」
「あ、はい」
PCモニターを見つめながらぼんやりしていると唯野に声をかけられた。
「皇に怒られたのか?」
心配そうな声。
──怒られた。怒られたのか? あれは。
怒ってはいただろうが、怒られたわけではないように思う。
「いいえ」
自分の中で答えを出し、否定して見せる。
「そっか、ならいいけれど」
板井は唯野に笑みを返すとチラリと塩田の方に視線を向けたのだった。
乱暴なやり方ではあるが、これで少しは風向きが変わるだろうと思っていた板井は苦情係に戻ってきた塩田と皇を見て青ざめた。
──怒ってる? 怒ってるよな?
不味いと思い、顔を背けたが遅かったようだ。
「どうした? 板井」
隣の席の唯野が不思議そうにこちらを見る。
「あ、いや……その」
なんと言おうか迷っていると、それを遮る声。
「板井。ちょっといいか?」
全然良くないと思いながらも、板井はひきつった笑みを浮かべた。
「な、なんでしょう?」
白々しいとは思ったがとぼけるしかない。
「ちょっと来い」
唯野が”何かしたのか?”と言いたげな顔でこちらを見ていた。仕方なく板井は皇に付いて給湯室へ。
その間、塩田の方をチラリと見やったが彼は思い詰めた表情でPCモニターを見つめていたのだった。
先に給湯室に入った皇は腕を組み、流しに寄りかかっている。
「お前、塩田になんか言ったのか?」
明らかに怒っているとわかる声音。
「副社長が怒るようなことは何も」
彼が怒るようなことを言った覚えはない。これは事実だ。
「そうか、まあいい」
何故、皇が怒っているのかわからない板井は純粋に塩田が何を話したのか気になった。
「塩田から『結婚の報告』をされた」
と彼。
それが気に入らず怒っているのだろうか?
「『おめでとう』と言ったら不満そうな顔をされたんだよ」
「は?」
塩田が何故そんな顔をしたのか謎だ。
「お前だってそう思うだろ?」
「それは、はい」
「なんなんだよ。あいつらうまくいってないのか?」
”好きなやつと結婚するのに、おめでとうの何が変なんだよ”と不満を漏らしながら。
「そういうわけじゃないと思いますが」
板井の言葉に彼がため息をつく。
「じゃあ、なんて言われたかったんだよ」
「うーん……『俺様を振って他の男と結婚するとは。せいぜい後悔しないようにな』とか」
「……は?」
眉を寄せる皇。
「俺、どんな奴だと思われてんだよ。そんなこと言うわけないだろ」
ムッとする彼に新たな疑問が浮かぶ。
「副社長は好きな相手が結婚するというのに、よく冷静に『おめでとう』なんて言えますね」
するりと出た言葉。
その疑問が変だと思っていなかった板井は彼に睨まれ戸惑う。
「え? 好きですよね、塩田のこと。あ、動揺したんですか?」
「お前なあ……」
「ぐッ……」
皇から軽く腹に一発食らう。
「デリカシーってもんは、ないのかよ」
「すみません」
「好きだし、動揺もしたよ。でも結婚すること自体にではなく、何故わざわざ報告するのか? にだが」
「上司だからでは?」
”俺も、そう思ったよ”と彼。
だから好きな相手にではなく、上司として冷静に『おめでとう』と言ったのだということなのだろう。
だが塩田はそんなの求めていなかったということか。
上司としての言葉ではなく、皇の言葉が欲しかったんだろう。
「で、結局どうなったんですか?」
「別にどうにもならないよ。ただ……”好きなのか”って聞かれたが」
それは皇が塩田を好きかどうかと言うことなのだろうが、何故そんなことを今更確認したのだろうか。
その後二人は通常業務に戻った。
いつもと変わらない皇を尊敬する。自分だったなら、と板井は思う。
ずっと好きだった相手が恋人と結婚すると知って冷静でいられるだろうか?
『別に何も変わらないだろ。俺は塩田の元恋人ってわけでもないし』
皇はそう言っていた。
『邪魔する気はないが、好きなままでいいだろ』
とも。
どうしてそんな風にいられるのだろう。それだけ塩田が彼にとって特別なのだろうか? 好きなだけでいいと言えるほどに。
「板井」
「あ、はい」
PCモニターを見つめながらぼんやりしていると唯野に声をかけられた。
「皇に怒られたのか?」
心配そうな声。
──怒られた。怒られたのか? あれは。
怒ってはいただろうが、怒られたわけではないように思う。
「いいえ」
自分の中で答えを出し、否定して見せる。
「そっか、ならいいけれど」
板井は唯野に笑みを返すとチラリと塩田の方に視線を向けたのだった。
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