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12『惹かれ合って結ばれて』
3 理解できない自分の心
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****side■塩田
──これの何がお仕置きなのかわからん。
それは塩田にとっては気持ちいいだけの行為。
「塩田、大好きだよ」
と言われ、
「俺も」
と言って抱き着けば、彼が嬉しそうな顔をした。
電車と皇はまったくタイプの違う人間だと思う。
彼に恋をするまで”好きなタイプ”というものを考えもしなかったが、自分はどちらかと言うと『優しくて穏やか』な人が好きらしい。
以前彼に、
『紀夫はポカポカしていて、お日様みたいだ』
と言ったことがある。
すると彼は、
『塩田は猫みたい。猫はお日様が大好きなんだ。俺たちみたいだね』
と言って微笑んだ。
彼の笑顔を見ているととても幸せな気持ちになる。だから辛い想いはさせたくないと思った。
「塩田は気持ちいいのは好き?」
「紀夫にされるのは好き」
自分は決して愛情表現の過多な方ではない。むしろ乏しく、下手だということも自覚している。
だからと言って、努力しないのは怠慢だとも思う。だから自分なりに精一杯、本心を彼に伝えるのだ。
きっとその努力は彼にも理解されているのだろう。塩田が気持ちを伝えるたびに嬉しそうな顔をするから。
電車の手が優しく素肌を撫でる。
「そこは……」
「ちゃんと感じるでしょ?」
お仕置きだと言いながら、彼の愛撫は優しい。愛しいと指先から伝わってくるようだった。
塩田は胸の突起を親指の腹で転がされ、複雑な心境になる。自分は女ではないのにと。
『女性だって初めはくすぐったいだけだから、男と同じ』
彼はそう言って塩田の身体を開発しようとする。
彼の言うことは正しいとは思う。現に感じているのだから。それを気恥ずかしいと思ってしまうからこそ、複雑な心境になるのだ。
電車の唇が首筋を辿り鎖骨に触れた。優しい口づけはやがて強くなり、赤い痕を残す。
「どうして」
「どうして?」
何故、見えるところに痕を残すのだという意味合い。彼には多くを語らずとも伝わってしまう。
「見せつけるためだよ。俺のだって」
それはきっと皇に対してなのだろう。
話し合いをしたにも関わらず、彼の心はまだ不安なままなのだろうか?
「なんで、そんな……」
「だって、知りたいんでしょう? あの人の本心が」
悪戯っぽく笑う電車。彼はこんな悪戯心を持っていただろうかと驚く。
「副社長が悠然と構えているのが気に入らないんだよね、塩田は」
自分でもわからない自分の気持ち。
彼の言う通りなのだろうかと心の中で首を傾げた。
そもそも皇からの求愛を断ったのは、すでに電車のことが好きだったからなのだろうとは思う。あの頃は自覚がなかったが。
それほどまでに電車は塩田のマンションに入り浸っており、一緒にいることを心地よいものだと感じていた。その後、彼に恋人がいるという噂を聞いて自分の心にストップをかけたのだと思っている。
恋をしたことのなかった塩田にとって自分の気持ちが一番理解しづらいものであった。
それでも電車とつき合いはじめて、いろんなことを知ったつもりではいる。
好きなら一緒にいたいと思うし、感情が動くものだ。時にはどうしようもない衝動にも駆られるし、ヤキモチだって妬く。
それくらいなら塩田にだってわかる。
しかし皇はまったく動じなかった。交際を断ってからは言葉にすらしなくなったのだ。それは『諦めた』と何が違うというのだろうか?
不審がっている塩田に対し、
『お前に相手がいるうちは情熱を向けないだけだぞ?』
と皇は言う。
その情熱とはどんなものだというのだろうか?
どんな行動に移すのか尋ねればはぐらかされた。
電車が言うように、自分は知りたいのだろうか。皇の胸の内を。
かき乱したいと思っているのだろうか、穏やかな彼の心を。
もしそうだと言うのなら、とても悪趣味だと思う。
「わからない」
「そうなの」
塩田の言葉に電車はにっこりと微笑む。それはまるで”自分の方が塩田のことを理解している”と言っているように見えたのだった。
──これの何がお仕置きなのかわからん。
それは塩田にとっては気持ちいいだけの行為。
「塩田、大好きだよ」
と言われ、
「俺も」
と言って抱き着けば、彼が嬉しそうな顔をした。
電車と皇はまったくタイプの違う人間だと思う。
彼に恋をするまで”好きなタイプ”というものを考えもしなかったが、自分はどちらかと言うと『優しくて穏やか』な人が好きらしい。
以前彼に、
『紀夫はポカポカしていて、お日様みたいだ』
と言ったことがある。
すると彼は、
『塩田は猫みたい。猫はお日様が大好きなんだ。俺たちみたいだね』
と言って微笑んだ。
彼の笑顔を見ているととても幸せな気持ちになる。だから辛い想いはさせたくないと思った。
「塩田は気持ちいいのは好き?」
「紀夫にされるのは好き」
自分は決して愛情表現の過多な方ではない。むしろ乏しく、下手だということも自覚している。
だからと言って、努力しないのは怠慢だとも思う。だから自分なりに精一杯、本心を彼に伝えるのだ。
きっとその努力は彼にも理解されているのだろう。塩田が気持ちを伝えるたびに嬉しそうな顔をするから。
電車の手が優しく素肌を撫でる。
「そこは……」
「ちゃんと感じるでしょ?」
お仕置きだと言いながら、彼の愛撫は優しい。愛しいと指先から伝わってくるようだった。
塩田は胸の突起を親指の腹で転がされ、複雑な心境になる。自分は女ではないのにと。
『女性だって初めはくすぐったいだけだから、男と同じ』
彼はそう言って塩田の身体を開発しようとする。
彼の言うことは正しいとは思う。現に感じているのだから。それを気恥ずかしいと思ってしまうからこそ、複雑な心境になるのだ。
電車の唇が首筋を辿り鎖骨に触れた。優しい口づけはやがて強くなり、赤い痕を残す。
「どうして」
「どうして?」
何故、見えるところに痕を残すのだという意味合い。彼には多くを語らずとも伝わってしまう。
「見せつけるためだよ。俺のだって」
それはきっと皇に対してなのだろう。
話し合いをしたにも関わらず、彼の心はまだ不安なままなのだろうか?
「なんで、そんな……」
「だって、知りたいんでしょう? あの人の本心が」
悪戯っぽく笑う電車。彼はこんな悪戯心を持っていただろうかと驚く。
「副社長が悠然と構えているのが気に入らないんだよね、塩田は」
自分でもわからない自分の気持ち。
彼の言う通りなのだろうかと心の中で首を傾げた。
そもそも皇からの求愛を断ったのは、すでに電車のことが好きだったからなのだろうとは思う。あの頃は自覚がなかったが。
それほどまでに電車は塩田のマンションに入り浸っており、一緒にいることを心地よいものだと感じていた。その後、彼に恋人がいるという噂を聞いて自分の心にストップをかけたのだと思っている。
恋をしたことのなかった塩田にとって自分の気持ちが一番理解しづらいものであった。
それでも電車とつき合いはじめて、いろんなことを知ったつもりではいる。
好きなら一緒にいたいと思うし、感情が動くものだ。時にはどうしようもない衝動にも駆られるし、ヤキモチだって妬く。
それくらいなら塩田にだってわかる。
しかし皇はまったく動じなかった。交際を断ってからは言葉にすらしなくなったのだ。それは『諦めた』と何が違うというのだろうか?
不審がっている塩田に対し、
『お前に相手がいるうちは情熱を向けないだけだぞ?』
と皇は言う。
その情熱とはどんなものだというのだろうか?
どんな行動に移すのか尋ねればはぐらかされた。
電車が言うように、自分は知りたいのだろうか。皇の胸の内を。
かき乱したいと思っているのだろうか、穏やかな彼の心を。
もしそうだと言うのなら、とても悪趣味だと思う。
「わからない」
「そうなの」
塩田の言葉に電車はにっこりと微笑む。それはまるで”自分の方が塩田のことを理解している”と言っているように見えたのだった。
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