R18【同性恋愛】リーマン物語if5『塩田と板井と苦情係』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
86 / 96
12『惹かれ合って結ばれて』

3 理解できない自分の心

しおりを挟む
****side■塩田

──これの何がお仕置きなのかわからん。

 それは塩田にとっては気持ちいいだけの行為。
「塩田、大好きだよ」
と言われ、
「俺も」
と言って抱き着けば、彼が嬉しそうな顔をした。

 電車でんまと皇はまったくタイプの違う人間だと思う。
 彼に恋をするまで”好きなタイプ”というものを考えもしなかったが、自分はどちらかと言うと『優しくて穏やか』な人が好きらしい。
 以前彼に、
『紀夫はポカポカしていて、お日様みたいだ』
と言ったことがある。
 すると彼は、
『塩田は猫みたい。猫はお日様が大好きなんだ。俺たちみたいだね』
と言って微笑んだ。
 彼の笑顔を見ているととても幸せな気持ちになる。だから辛い想いはさせたくないと思った。

「塩田は気持ちいいのは好き?」
「紀夫にされるのは好き」
 自分は決して愛情表現の過多かたな方ではない。むしろ乏しく、下手だということも自覚している。
 だからと言って、努力しないのは怠慢だとも思う。だから自分なりに精一杯、本心を彼に伝えるのだ。
 きっとその努力は彼にも理解されているのだろう。塩田が気持ちを伝えるたびに嬉しそうな顔をするから。

 電車でんまの手が優しく素肌を撫でる。
「そこは……」
「ちゃんと感じるでしょ?」
 お仕置きだと言いながら、彼の愛撫は優しい。愛しいと指先から伝わってくるようだった。
 塩田は胸の突起を親指の腹で転がされ、複雑な心境になる。自分は女ではないのにと。
『女性だって初めはくすぐったいだけだから、男と同じ』
 彼はそう言って塩田の身体を開発しようとする。
 彼の言うことは正しいとは思う。現に感じているのだから。それを気恥ずかしいと思ってしまうからこそ、複雑な心境になるのだ。

 電車の唇が首筋を辿り鎖骨に触れた。優しい口づけはやがて強くなり、赤い痕を残す。
「どうして」
「どうして?」
 何故、見えるところに痕を残すのだという意味合い。彼には多くを語らずとも伝わってしまう。
「見せつけるためだよ。俺のだって」
 それはきっと皇に対してなのだろう。
 話し合いをしたにも関わらず、彼の心はまだ不安なままなのだろうか?
「なんで、そんな……」
「だって、知りたいんでしょう? あの人の本心が」
 悪戯っぽく笑う電車。彼はこんな悪戯心を持っていただろうかと驚く。
「副社長が悠然ゆうぜんと構えているのが気に入らないんだよね、塩田は」

 自分でもわからない自分の気持ち。
 彼の言う通りなのだろうかと心の中で首を傾げた。

 そもそも皇からの求愛を断ったのは、すでに電車のことが好きだったからなのだろうとは思う。あの頃は自覚がなかったが。
 それほどまでに電車は塩田のマンションに入り浸っており、一緒にいることを心地よいものだと感じていた。その後、彼に恋人がいるという噂を聞いて自分の心にストップをかけたのだと思っている。
 恋をしたことのなかった塩田にとって自分の気持ちが一番理解しづらいものであった。

 それでも電車とつき合いはじめて、いろんなことを知ったつもりではいる。
 好きなら一緒にいたいと思うし、感情が動くものだ。時にはどうしようもない衝動にも駆られるし、ヤキモチだって妬く。
 それくらいなら塩田にだってわかる。
 しかし皇はまったく動じなかった。交際を断ってからは言葉にすらしなくなったのだ。それは『諦めた』と何が違うというのだろうか?

 不審がっている塩田に対し、
『お前に相手がいるうちは情熱を向けないだけだぞ?』
と皇は言う。
 その情熱とはどんなものだというのだろうか?
 どんな行動に移すのか尋ねればはぐらかされた。
 電車が言うように、自分は知りたいのだろうか。皇の胸の内を。
 かき乱したいと思っているのだろうか、穏やかな彼の心を。
 もしそうだと言うのなら、とても悪趣味だと思う。

「わからない」
「そうなの」
 塩田の言葉に電車はにっこりと微笑む。それはまるで”自分の方が塩田のことを理解している”と言っているように見えたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

fall~獣のような男がぼくに歓びを教える

乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。 強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。 濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。 ※エブリスタで連載していた作品です

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...