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12『惹かれ合って結ばれて』
9 彼の愛【R】
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****side■塩田
「はあ……ッ」
「可愛い」
──可愛い?
水音が室内に響く中、塩田は電車に言われたことを心の中で反芻する。彼が愛してくれるというのなら、どんな言葉をかけられようとも嬉しいには違いないが、何を思って可愛いなどというのか未だに分からない。
「んんッ」
”こっちに集中して”とでも言うようにひと際深く奥まで突かれ、塩田はびくりと身体を震わせた。
ゆっくりと彼自身が塩田を責め立てる。
どうにかなってしまいそうだ。
「紀夫……」
浅く何度も息をして快感をやり過ごす。
二人で愛を感じるこの行為は相性が大切だということを知った。絶頂へのタイミングを合わせることは簡単ではない。恐らく彼が塩田の様子を見ながら合わせてくれているのだろうことは分かる。
とは言え、相手任せにしてばかりでは呆れられてしまうだろう。
自分にとっては彼が全て。努力くらいはしなければと思っていた。
それなのに。
「ちょ……ッ」
まるで悪戯っ子のような笑みを浮かべ、彼が塩田自身を握り込む。
「んッ」
強く上下する彼の手。こちらは必死でやり過ごそうとしているというのに、電車は余裕の笑み。
動物には等しく性的快感というものがあるのだろう。それは子孫繫栄のために備わった感覚。それを一緒に楽しむために恋人たちは愛し合う。
意味を成さない行為に、意味を持って。
「達ってもいいんだよ?」
「断る」
「強情だなあ」
優しい瞳。細められて、柔らかい笑み。
彼の優しい笑みに塩田は見惚れてしまう。
「でも、そんなところも好きだよ」
「んんッ」
頬を撫でられ、そのまま口づけられる。その間も彼の手は緩むことはない。
「紀夫……一緒がいい……」
このままではもう持たない。そう思った塩田は観念して電車にぎゅっと抱き着く。
良いよとでも言うように、彼は塩田を抱きしめ返したのだった。
「お前、ホントズルい」
「なにが?」
優しく塩田の髪を撫でる手が一瞬止まる。きっと何もかもが無自覚なのだろう。計算するようなヤツには見えないから。
それでも恨み言を漏らさずにはいられなかった。
「どっちもはズルい」
「そんなこと言ったって、男はこっちが一番良いわけだから」
「触る……なッ」
するりと敏感な部分を撫でられ塩田は腰を引く。彼はそんな塩田に目を細め、穏やかな笑みを浮かべた。一体どんなメンタルしているんだと思いつつも、再びすり寄る塩田。
「タチの特権でしょ」
「何言ってんだ、一体」
塩田は理解不能なことを言われ眉を寄せた。
「それよりも」
不毛なやり取りをしていても仕方ないと諦めた塩田は疑問をぶつけることにする。
「うん?」
不思議そうに首を傾げつつ、塩田の首筋を撫でる彼。柔らかな音楽が二人を包む。
「なんであの時、視るのをやめにしたんだ?」
何に対してなのか分からなかったのか、彼は一瞬考えるような表情をした。
恥ずかしいわけではないが、固有名詞を出すことは躊躇われる。
「ああ、アレ」
思い当たることがあったのか、電車はクスリと笑った。
「理由は二つあるよ」
「二つ?」
”そう”と肯定の意で返答をした彼。
「一つは塩田がヤキモチを妬いているのかな? と感じたから」
「ヤキモチ……」
そんなつもりはなかったが、確かに彼が誰かの行為を見て興奮するのは嫌だなとは思った。自分以外に興味を持つ必要なんてないだろうと。
「もう一つはね」
「ん」
「塩田が誰かのオカズにされたら嫌だなと思ったから」
”オカズ?”と不思議そうに問い返す塩田に彼はちゅっと口づけをくれた。
「自慰の妄想に使われることだよ。ああいうところに入るということは、そういうことをするのが目的なわけだし」
「自慰?」
「いや、一人で楽しむとは限らないけれどね。性的なことをするということでしょ?」
言葉を選びながら説明をする電車に対し、”こんな貧相な身体を見て何を妄想するんだ?”と不思議に思う塩田であった。
「はあ……ッ」
「可愛い」
──可愛い?
水音が室内に響く中、塩田は電車に言われたことを心の中で反芻する。彼が愛してくれるというのなら、どんな言葉をかけられようとも嬉しいには違いないが、何を思って可愛いなどというのか未だに分からない。
「んんッ」
”こっちに集中して”とでも言うようにひと際深く奥まで突かれ、塩田はびくりと身体を震わせた。
ゆっくりと彼自身が塩田を責め立てる。
どうにかなってしまいそうだ。
「紀夫……」
浅く何度も息をして快感をやり過ごす。
二人で愛を感じるこの行為は相性が大切だということを知った。絶頂へのタイミングを合わせることは簡単ではない。恐らく彼が塩田の様子を見ながら合わせてくれているのだろうことは分かる。
とは言え、相手任せにしてばかりでは呆れられてしまうだろう。
自分にとっては彼が全て。努力くらいはしなければと思っていた。
それなのに。
「ちょ……ッ」
まるで悪戯っ子のような笑みを浮かべ、彼が塩田自身を握り込む。
「んッ」
強く上下する彼の手。こちらは必死でやり過ごそうとしているというのに、電車は余裕の笑み。
動物には等しく性的快感というものがあるのだろう。それは子孫繫栄のために備わった感覚。それを一緒に楽しむために恋人たちは愛し合う。
意味を成さない行為に、意味を持って。
「達ってもいいんだよ?」
「断る」
「強情だなあ」
優しい瞳。細められて、柔らかい笑み。
彼の優しい笑みに塩田は見惚れてしまう。
「でも、そんなところも好きだよ」
「んんッ」
頬を撫でられ、そのまま口づけられる。その間も彼の手は緩むことはない。
「紀夫……一緒がいい……」
このままではもう持たない。そう思った塩田は観念して電車にぎゅっと抱き着く。
良いよとでも言うように、彼は塩田を抱きしめ返したのだった。
「お前、ホントズルい」
「なにが?」
優しく塩田の髪を撫でる手が一瞬止まる。きっと何もかもが無自覚なのだろう。計算するようなヤツには見えないから。
それでも恨み言を漏らさずにはいられなかった。
「どっちもはズルい」
「そんなこと言ったって、男はこっちが一番良いわけだから」
「触る……なッ」
するりと敏感な部分を撫でられ塩田は腰を引く。彼はそんな塩田に目を細め、穏やかな笑みを浮かべた。一体どんなメンタルしているんだと思いつつも、再びすり寄る塩田。
「タチの特権でしょ」
「何言ってんだ、一体」
塩田は理解不能なことを言われ眉を寄せた。
「それよりも」
不毛なやり取りをしていても仕方ないと諦めた塩田は疑問をぶつけることにする。
「うん?」
不思議そうに首を傾げつつ、塩田の首筋を撫でる彼。柔らかな音楽が二人を包む。
「なんであの時、視るのをやめにしたんだ?」
何に対してなのか分からなかったのか、彼は一瞬考えるような表情をした。
恥ずかしいわけではないが、固有名詞を出すことは躊躇われる。
「ああ、アレ」
思い当たることがあったのか、電車はクスリと笑った。
「理由は二つあるよ」
「二つ?」
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「一つは塩田がヤキモチを妬いているのかな? と感じたから」
「ヤキモチ……」
そんなつもりはなかったが、確かに彼が誰かの行為を見て興奮するのは嫌だなとは思った。自分以外に興味を持つ必要なんてないだろうと。
「もう一つはね」
「ん」
「塩田が誰かのオカズにされたら嫌だなと思ったから」
”オカズ?”と不思議そうに問い返す塩田に彼はちゅっと口づけをくれた。
「自慰の妄想に使われることだよ。ああいうところに入るということは、そういうことをするのが目的なわけだし」
「自慰?」
「いや、一人で楽しむとは限らないけれどね。性的なことをするということでしょ?」
言葉を選びながら説明をする電車に対し、”こんな貧相な身体を見て何を妄想するんだ?”と不思議に思う塩田であった。
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