魂の封術士

悠奈

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第十一章

最終話

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「やっぱりそうですよね。ありがとうございます」
  それを聞いても、残念だとは思わなかった。わかっていた。全部わかった上でのことだったから。
  これは高木さん──十羽さんの友達の警察官から聞いた話だ。
  あれから久世さんは自首したらしい。水原の事件の発端は自分であると。
  だけど、彼がやったという証拠は一切見つからない。科学的に証明しようのない方法だから、無理もないことだ。
  それと同時に、今まで事件に関係ないとされていた水原の人々にも目が向けられることになった。久世さんが警察に全てを話したことで、事件現場へ向かう彼を目撃した人の存在が明らかになったのだ。
  俺達の世代以外の水原の人達は、「守り姫」とその兄の話を全て知っていた。そして、久世さんの一族のことも。だから久世さんに協力したのだ。
  この事件がこれからどういう経過を辿っていくのかはわからない。今の法律では、犯人の自白だけで物的証拠がなければ裁くことはできない。冤罪から無実の人を守るための法律。当然のことだろう。
  一年もあれば、覚悟はできる。これで納得いくかと言われたら、言い切れる自信はないけど……。
  だけど、同じことが繰り返されることはない。それだけが救いだ。
「本当に大丈夫?」
  高木さんが心配して聞いてくれた。
「大丈夫です。これで全部が丸くおさまるとは思わないけど……。きっと、あいつらは許してくれるはずですから」
  根拠はない。そうであってほしいという願いだ。

「うわわわわわ……」
  神社へ戻ると、咲姫が情けない声をあげていた。
「なに?  なにがあったんだよ……」
  部屋を覗くと、咲姫は大量の猫に囲まれていた。猫は引き剥がしても引き剥がしても、どんどん身体に登っていく。端から見るとちょっと面白い。
「こいつらなんなの?」
「えっと、それはね……」
  咲姫が説明しようとしたところで桐がやって来た。
「ねーちゃん!  そいつらの面倒、ちゃんと見てた!?」
  ああ、なるほど。桐が拾ってきたのか。ここまできたら察しがつく。
「やっと全部治せたよ」
  桐はさらに二匹の猫を降ろす。どれだけ拾ってきたんだ。
「その猫、これからどうするつもりなの?」
  咲姫が聞く。
「父さんと母さんが一匹ほしいんだって。それまではうちで育てといてだってさ」
「はは……。二人らしいや」
  そう言いながらも、咲姫は猫を抱き上げて撫でている。なんだかんだ言いながらも好きなんだろうな、動物。
  他の猫達は、保健所や保護団体を通して里親を募集するらしい。保健所の人とはもうすでに顔見知りなんだそうだ。それだけ野良猫野良犬を保護している桐は凄い。
「あ、そうだ今枝君」
  咲姫が改めて言う。
「お父さんから連絡来てたよ。その、高校入試の結果」
「…………」
  さらっと言うからスルーしそうになった。住民票は水原にあるから、高校から送られてくる合格通知書は向こうに届くようになっている。
「え、そうなの?」
「うん。合格したって~」
「………………」
  完全に頭がフリーズしてしまった。
「なんで知ってんの?」
  咲姫はあっけらかんとして言う。
「おじさんが言ってたから」
  あのくそ親父……。個人情報ばらまきやがって……。水原にいるであろうあいつのところまで今すぐ飛んで行って、殴ってやりたかった。もちろんそんなことは不可能だ。
「じゃあ四月から今枝君は寮だっけ?」
「そうなるかな」
  水原から通える高校はほとんどない。事件があろうとなかろうと、水原を出ることは決定事項だった。
「凄いな~……。私、そんなの怖くてできないよ……」
「ほんとかよ……」
  そこに関してはいまいち信用できない。この一年の様子を見たらわかる。
「あとは……えーっと……」
「私だけ、ですね……」
  突然空気が重くなった。

 * * *

「いーまーえーだーぐ~ん」
  咲姫がべろべろに酔っている……ように見える。実際は未成年なので、そんなことは決してないのだが。
「おいおい咲姫~。そんなんじゃ一希君に嫌われてしまうよ~?」
  十羽さんはにやにやして言う。俺は怖くてそんなことはできない。
「いや……俺は大丈夫です……」
  あー、だめだ。完全に引いてる人だな、これは。そんな意図は一切ないのに。
「別にいいだろ咲姫ぃ。ちゃーんと公立高校には受かったんだからさっ」
  咲姫の肩を叩いてそう慰めている。絶対慰めになってない。
  ここまできたら察することができるだろう。咲姫は第一志望の高校に落ちたのだ。
「いーんだよー!  もー!  どうせ最初っからわかってたもんねー!」
  その台詞を何度聞いたことか。とは思ったものの、黙っておく。これ以上傷を深くしてはいけない。
「そうだ一希君。君、時間は大丈夫なのかい?」
  十羽さんに言われて腕時計を見る。
「え……。あ!」
  思わず大声を出したしまった。
「やっぱり」
  十羽さんの顔に「してやったり」と書いてある。いや、気付いてるなら言ってくださいよ!
「え?  どうしたの?」
  事情を知らない咲姫だけが頭にはてなを浮かべている。
「今枝君ねー、今日、雲谷を出るんだー」
「えぇ!?」
  こちらも負けず劣らずな声。
「全然バスないもんねー。この時間に出ないと、帰れなくなっちゃうよー」
  あの、十羽さん。話題がずれてます。
「待って待ってなにそれ!?  聞いてないよ!?」
「言ったよ……。心ここにあらずって感じだったけど」
  咲姫の合否が確定したのが一昨日。突然父さんから連絡があったのが昨日。そうなるのも仕方がない。
「えっと、それじゃあ咲姫、またな!」
「え!  えぇ!?  ほんとに行っちゃうの?」
  だってそうしないと置いてかれるし。
  咲姫の抗議の声を聞きながら神社を出た。

  最後に神社を眺めてみる。
  この神社は、「彼女」が生きていた時代に建てられたそうだ。八十年近く前に一度燃えたが、姿形は全く同じだ。
  彼女もこれを見たと思うと、なんだか不思議な気分になる。
  誰かに名前を呼ばれた。誰だろう?  霧のように不確かな声の正体は掴めなかった。
  ……ああ、そうか。この人は満足してくれたのだろうか。そうだといいな。
  約一年を過ごした場所を去る。
  全てを終えた彼女の魂とともに。
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みんなの感想(5件)

crazy’s7@体調不良不定期更新中

【危機を経て出逢った彼らとは?】
主人公を助けてくれたであろう少女。主人公は目が覚めたら、ある神社にいた。ここで出逢うのは、その少女に関連のある人物数名。主人公は彼らの話しや、彼らの会話により少しづつ自分の置かれている状況を把握していくことになる。読者もまたこの部分により、物語にとって一番大事な設定部分を知ることになるだろう。
そしてあらすじにある”『魂の封術士』”に対し、”『呪術士』”という者がいることをが明かされていく。彼らの役割を知ると、この物語の方向性が明確になっていくのではないだろうか。主人公が”特別”ないし、常人と違うこと。それはきっと、人には理解されないことだったのかもしれない。作中で主人公が、質問に対し答えることを戸惑う様子からも、想像に難くはない。
同級生であり、大切な仲間を失った主人公ではあったが、この先得るものもあるに違いない。

【物語の見どころ】
第二章八話まで読了。
事件のその後、主人公は命の恩人やその兄弟などから『封術士』や『呪術士』について知っていくこととなる。そして主人公の家族関係なども明かされていく。事件により、元居た中学には同じ学年の生徒がいなくなってしまった。家庭の事情などもあり、命の恩人である少女の家に居候することとなった主人公は、転校を余儀なくされるのである。
新しい転校先で、少しづつクラスに馴染んでいく彼。
ここまでは、物語の舞台がどんなところであり、作品におけるオリジナル設定について主人公と共に知っていくこととなる。

そして転校先で事件は起こるのだ。ここからがいよいよ本題であり、主人公が
『魂の封術士』であることを体験したり実感していくような出来事が起こるのではないだろうかと想像する。

あなたも読まれてみませんか?
ある出来事を境に、生活が一変してしまう主人公。それまで、自分自身の人とは違う部分に気づきながらも、一人で抱えてきた。彼が己の役割を自覚した時、物語は新たな展開を見せるのではないだろうか。
果たして友人を死に至らしめた者の正体とは?
その目で是非、確かめてみてくださいね。お奨めです。

2021.08.17 悠奈

まとめての返信をお許しください。
素敵なレビューをありがとうございました!

解除
crazy’s7@体調不良不定期更新中

【物語は】
切羽詰まった状況を思わせる一場面から始まり、ことの発端へと。
舞台となるのは少子高齢化の影響により、来年から小中校が一貫となることの決まった中学校。あらすじから想像するに、主人公視点で事件の一部が明かされていくのではないかと思われる。
一体彼らに、何があったというのだろうか?

【彼らの日常と非日常】
小中学校が合併するとあって、主人公の所属する三年生のクラスには7人しかおらず、彼らの様子からは気心の知れた仲であることが伺える。少なくとも悪ふざけが出来たり、冗談も言い合える仲である印象。おそらく、普段から彼らは同じクラスの仲間であり、気心の知れた友人なのだろう。
そんな彼らに忍び寄る、非日常。
ことの発端は、授業の時間が近づいても教師が教室に現れなかったことにあるようだ。クラスの中の一人がその事に気づき、この場合”当然ともいえる役回り”である級長が教師を呼びに教室より出て行く。

ミステリーのような雰囲気を感じるが、タグを見るとダークファンタジーとある。
*ダークファンタジーとは?(個人的に調べた用語)
重苦しい雰囲気や悲劇的展開、残酷な描写や過激な性描写など、主人公をはじめとする登場人物にとって不条理な世界観などに重きを置いているもの。 あるいは、幻想文学作品で、幻想・怪奇・ホラーの色合いが濃いもの。
(ウィキペディア調べ)

【主人公の見たものとは】
あらすじの”犯人不明”から、あなたはどんな犯人像を想像するだろうか?
ネタバレになるのではっきり言うことはできないが、この事件は主人公のターニングポイントであり、全ての始まりに過ぎないのではないだろうか?
仮に犯人を突き止めたとしても、それで解決にはならないと想像する。
このあと主人公の秘密に触れそうなワードが出ており、今後の展開に期待が高まる。どうやら主人公は”特別”なようだ。


続く

解除
スパークノークス

お気に入りに登録しました~

2021.08.16 悠奈

ありがとうございます!(*´▽`*)

解除

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