12 / 16
ぶらり旅
女は恐い!
しおりを挟む「あ、あの零奈さん……」
「……………」
「食事の準備が出来ましたが……」
「……………」
「聞いておられるでしょうか?」
「……………」
どうやら零奈さんはいまだに機嫌が優れないようです。ま、その原因を作ったのは俺なんですけどね。でも言わせてくれ! 不可抗力なんだ! 誰も気絶させるつもりなんて無かった。それに零奈を助けるためでもあったんだからそこまで怒らなくても良いような気がする。
「はい、ご飯」
「……………」
「はぁ……」
(なんで私を押し倒さないのよ!)
そんな事を零奈が考えているなど俺は知るよしもなかった。
重たい空気のなか俺たちは食事をした。ここまで食事が喉を通らないのも稀だった。
それから教会の一室でランプを眺めながら一服していると。
「……んん…………んん……ん!」
シスターが目を覚ました。けど……。
「お目覚めのようね。イカれシスターさん」
相手を見下すように言う零奈。うん、なんかドSが滲み出てるな。さっきに言っておくが俺にそっちの趣味はないから!………ほんとだからな!
正直俺的にはシスターに同情してしまう。なぜなら、
「んんんんっ!!」
両手両足を拘束され、口にはガムテープが貼られているからだ。
「あの……零奈さんそろそろ口のテープだけでも剥がしてあげても良いと思うんですが」
「は?」
「いえ、あのですね。このままだと会話も出来ないし、先に進まないと思うので」
「別に良いわよ。どうせこのままここに放置すればいいだけなんだし」
恐い! 恐いよ零奈さん!
「いや、流石にそれは可哀想だと思うのですが」
「なに、弘毅はこのシスターの味方なの?」
「いや、そういう訳ではなくて。話し合いは大事だと思うんですよ。はい」
「最初にガン無視したのはこのイカれシスターなのよ!」
その通りです。
「でもね。相手にだって何か事情があるのかも知れないし、それに初対面の人間を警戒するのは当たり前だよね。零奈だって俺に銃を向けてきた訳だし」
「うっ! 確かにそうだけど! でも、私はこの女みたいに、いきなりぶっ放したりしてないじゃない」
うわ、女の人の口からぶっ放す、なんて初めて聞いた。なんか良いな。はい、話を進めます!
「そうだけど。お祈りの邪魔をしたのは俺たちなんだし、驚いて発砲したのかもしれないし。手と足の拘束は解くわけじゃないから話するだけなら良いよね」
「……………分かったわ」
ふう、なんとか解ってくれたようだ。
さてと、俺はシスターに近づきガムテープを剥がす。うん、めっちゃ睨んでる。安心してなにもしないから。って無理か。
「さてと、それじゃ話そうか。あ、俺の名前は烏羽弘毅宜しく。それで、君の名前は?」
「………………」
うん、まだ睨んでる。お願いだからなんか喋って!
「あ、あの聞こえてる?」
「………………」(コクリ)
あ、頷いた。聞こえてはいるみたいだな。
「なら、喋れないの?」
「………………」
無反応! え、なんで? 聞こえてはいるんだのね!
「あ、あの……」
「………………」
うわ、睨みが強くなってるよ! 恐いよ。
ぐるぎゅるるるる。
「ん?」
「なに、今の音?」
突然、擬音が教会の一室に響き渡る。
ん? シスターさんの顔が赤い。まさか。
「もしかしてお腹が空いたの?」
「……………………………」(コクリ)
そうみたいです。
「それじゃなにか食べる?」
「ちょ、弘毅! なに馬鹿な事言ってるのよ!」
「え、だってお腹が空いてたら脳も働かないし。まともに話すなら食事の後の方が良いかなって」
「だからってあげる必要は無いわよ!」
「別に減るわけじゃないし」
「そ、それはそうだけど……」
一度アイテムボックスから取りだし食べれば減るが、食料は無限にあるので減るという概念は存在しないのだ! 凄いだろ! はい、俺が威張る事ではないですね。すいません。
「なら、良いよね。それで何が食べたい? 白ご飯? パン?」
「……………」
「あ、あの……」
「……………」
「白ご飯?」
「……………」
「パン?」
「……………」(コクリ)
パンか。なら、今日は寒いしコンソメスープとハムエッグ、サラダで良いかな。
俺はメニュー画面から料理を選ぶ。あ、疑問符浮かべてる。ま、端から見たら確かに何してるんだって思うよな。
俺は料理を選び取り出すと彼女の前に置く。
「はい、どうぞってそのままじゃ食べれないよね」
「弘毅!」
「な、なに?」
「ダメよ」
「え?」
「絶対拘束を解くのはダメ」
「でもこのままじゃ食べられないし」
「犬みたいに食べれば良いわよ」
「鬼か!」
「ん、なに?」
「いえ、なんでもありません」
恐いよ! 今日の零奈さん超機嫌が悪いよ!
「分かったよ。でも流石に犬みたいに食べさすのは気が引けるし………あ、そうだ!」
俺は料理が乗ったお盆を膝の上に置き、パンを一口サイズに千切り彼女の口の前まで差し出す。
「はい、あ~ん」
「……………」
うん、流石に困ってるのかな。目をパチクリさせてるよ。
「弘毅!」
「は、はい!」
「食べさせてあげるなんてなに考えてるのよ!」
「え、だってこれしか方法がないし」
「そうじゃないわよ!(私だってそんなことされたことないのに)」
「ん? 最後なんて言ったの?」
「なんでも無いわよ!」
あ、どっか行っちゃった。ま、この教会の周りには監視カメラやトラップをしかけてるから出なければ安心だけど。
それより、今は。
「はい、あ~ん」
早くこの子と話さないと零奈さんに殺されるからな。
女心の分からない弘毅であった。
0
あなたにおすすめの小説
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる